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第3章
初デート(3)
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うさぎの餌やりのあとは、引き続き動物園内の動物を見て回る。
レッサーパンダとか、アライグマとか。猿とかチンバンジーとか。
そして、あっという間にこの動物園を隅から隅まで見て回って、このゴリラが最後の動物になった。
「初デートがゴリラ鑑賞ってのも、なんか笑えるな」
夕焼けを背に、地面に寝そべってくつろぐゴリラを見て、おかしげに笑う奏ちゃん。
「動物園なんて、小学校の遠足以来で楽しかったよ。連れてきてくれて、ありがとう」
「なら、よかった。最後、あれ乗ろっか」
奏ちゃんの指さす先に見えるのは、動物のデザインが施された可愛らしい観覧車。
「うん」
奏ちゃんの提案通り、動物園の出口付近に設置されたその観覧車に乗ることにした。
お互いに向かい合って座る。
だけど、なんとなくどちらも黙ってしまって、異様なまでの緊張感が私たちを包み込む。
「そっち、行っていい?」
地上から4分の1程度の高さまで上がったとき、ゴンドラ内に奏ちゃんの声が響く。
「う、うん……!」
私の返事に安心したように微笑むと、奏ちゃんはふわりと私の隣に腰を下ろした。
奏ちゃんの熱が、身体の右半分から伝わってくる。
私の隣に座った奏ちゃんに、心臓の音が伝わってしまうんじゃないかってくらい、ドキドキしてるよ……!
「結構狭いな」
「あ、うん。一応、大人四人乗りって書いてあったけどね」
大人四人乗りなら、この向かい合う座席には二人ずつ座れる計算になる。
確かに奏ちゃんと私と二人隣り合わせで座れるけれど、かなり身体が密着していた。
顔が熱い……。
ドキドキとする自分の胸の音を聞きながら、膝の上で握り合わせる自分の両手を見つめていると──。
「……あ」
私の肩に奏ちゃんの手が回されて、ふわりと奏ちゃんの方へと身体を引き寄せられた。
さらに隙間なんてないんじゃないかってくらいに縮まる、奏ちゃんとの距離。
私がどぎまぎしている間に、私は奏ちゃんにぎゅうっと抱きしめられていた。
「……なかなかさ、普段、こういうことできないから」
嫌? と聞かれて、奏ちゃんの腕の中でふるふると首を横にふる。
「花梨はさ、俺のどこが好きなの?」
「え? 雰囲気、かな……」
明るくて、あたたかくて。奏ちゃんがいるだけで、私にとってそこは別世界のようで。
そんな奏ちゃんの持つ雰囲気に私は惹かれたんだ。
「そう言う奏ちゃんは?」
「ん……?」
「私の、どこがいいの?」
「全部だよ」
「え?」
ふわりと私の顔に奏ちゃんの前髪が触れる。
次の瞬間には、私の額に奏ちゃんの額がくっつけられていた。
「どんな花梨も好き。良いところも悪いところも。今も過去もこれから先も」
「悪いところもって……」
私が小さく笑うと、奏ちゃんもハハっとはにかむ。
「細かいことは気にしない。いいじゃん、そこも好きなんだから」
そして奏ちゃんがそう言ったあと、私と奏ちゃんの唇が重なった。
いつの間にか取られた手の指を絡ませる。
このまま時が止まってしまえばいいのにって、思わず願う私がいた。
レッサーパンダとか、アライグマとか。猿とかチンバンジーとか。
そして、あっという間にこの動物園を隅から隅まで見て回って、このゴリラが最後の動物になった。
「初デートがゴリラ鑑賞ってのも、なんか笑えるな」
夕焼けを背に、地面に寝そべってくつろぐゴリラを見て、おかしげに笑う奏ちゃん。
「動物園なんて、小学校の遠足以来で楽しかったよ。連れてきてくれて、ありがとう」
「なら、よかった。最後、あれ乗ろっか」
奏ちゃんの指さす先に見えるのは、動物のデザインが施された可愛らしい観覧車。
「うん」
奏ちゃんの提案通り、動物園の出口付近に設置されたその観覧車に乗ることにした。
お互いに向かい合って座る。
だけど、なんとなくどちらも黙ってしまって、異様なまでの緊張感が私たちを包み込む。
「そっち、行っていい?」
地上から4分の1程度の高さまで上がったとき、ゴンドラ内に奏ちゃんの声が響く。
「う、うん……!」
私の返事に安心したように微笑むと、奏ちゃんはふわりと私の隣に腰を下ろした。
奏ちゃんの熱が、身体の右半分から伝わってくる。
私の隣に座った奏ちゃんに、心臓の音が伝わってしまうんじゃないかってくらい、ドキドキしてるよ……!
「結構狭いな」
「あ、うん。一応、大人四人乗りって書いてあったけどね」
大人四人乗りなら、この向かい合う座席には二人ずつ座れる計算になる。
確かに奏ちゃんと私と二人隣り合わせで座れるけれど、かなり身体が密着していた。
顔が熱い……。
ドキドキとする自分の胸の音を聞きながら、膝の上で握り合わせる自分の両手を見つめていると──。
「……あ」
私の肩に奏ちゃんの手が回されて、ふわりと奏ちゃんの方へと身体を引き寄せられた。
さらに隙間なんてないんじゃないかってくらいに縮まる、奏ちゃんとの距離。
私がどぎまぎしている間に、私は奏ちゃんにぎゅうっと抱きしめられていた。
「……なかなかさ、普段、こういうことできないから」
嫌? と聞かれて、奏ちゃんの腕の中でふるふると首を横にふる。
「花梨はさ、俺のどこが好きなの?」
「え? 雰囲気、かな……」
明るくて、あたたかくて。奏ちゃんがいるだけで、私にとってそこは別世界のようで。
そんな奏ちゃんの持つ雰囲気に私は惹かれたんだ。
「そう言う奏ちゃんは?」
「ん……?」
「私の、どこがいいの?」
「全部だよ」
「え?」
ふわりと私の顔に奏ちゃんの前髪が触れる。
次の瞬間には、私の額に奏ちゃんの額がくっつけられていた。
「どんな花梨も好き。良いところも悪いところも。今も過去もこれから先も」
「悪いところもって……」
私が小さく笑うと、奏ちゃんもハハっとはにかむ。
「細かいことは気にしない。いいじゃん、そこも好きなんだから」
そして奏ちゃんがそう言ったあと、私と奏ちゃんの唇が重なった。
いつの間にか取られた手の指を絡ませる。
このまま時が止まってしまえばいいのにって、思わず願う私がいた。
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