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第3章
元メンバーの存在(2)
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「あはは、またやってるわ。駿ちゃんと咲姉はいつもこんな感じなんだ、ごめんな~」
目の前の三人の光景をぼんやりと眺めていると、突然頭上から奏ちゃんの声が聞こえて振り返る。
「お疲れさま、花梨」
「そ、奏ちゃん!? お疲れさま」
すると、いつの間にか私服に着替えた奏ちゃんが私の後ろに立っていた。
「おっちゃん、気を効かせてくれて、少し早く上がって良いって言ってくれたんだ」
「ごめんね、私が早く来てしまったばかりに」
「実際この時間帯はいつも客足少なくて暇だし、全然問題ないよ」
そう言われて店内を見ると、今は私たちの他にはお客さんはいないようだった。
私がいつも顔を覗かせる時間帯は、いつ来ても常に数組のお客さんが入っていたから何だか不思議な感じだ。
そうしているうちに、私の隣に座る奏ちゃんの前に、北原くんのお父さんが私のと同じアイスコーヒーを持ってくる。
奏ちゃんはそれをグッと半分ほど一気に飲むと、少し楽しげに小声で口を開く。
「それよりさ、駿ちゃんと咲姉を見てるとさ、二人って結構いい感じに見えなくね?」
奏ちゃんに言われて隣を見やると、今も何かしら増川先輩と新島先輩が言い合う姿と、それを呆れたように見ている北原くんの姿が見える。
「確かに、見えなくはないかも」
私も奏ちゃんも、今の会話は決して大きな声で話していたわけではない。
けれど、この声はどうやら新島先輩には聞こえていたようで、突然クルリとこちらを振り向いた新島先輩が口を開く。
「ちょっと、何二人でコソコソ話してるのよ」
「す、すみません……!」
「ん~、別に~?」
とっさに謝る私とは対照的に聞こえるのは、奏ちゃんののんびりとした声。
「いいよ、花梨ちゃんはそんなに謝らなくても。そういや花梨ちゃんって、中学どこだったの?」
新島先輩はそんな私たちを見て可笑しそうに笑うと、私にそう尋ねてくる。
「え、私、ですか? 北第三中学ですけど」
北第三中学、略して三中と呼ばれる、いわゆる地元の公立中学校。
「三中だったんだ。なんとなく、そんな気がしたんだよね」
やっぱりと言いたげに、大きな猫目を細めてにこりと笑う新島先輩。
「咲姉、花梨に中学なんて聞いてどうすんだよ」
「いや、この辺の子のわりには、あまり見ない子だったから。隣の中学の子かなと思って聞いてみた」
奏ちゃんの問いに淡々と答えて、新島先輩はアイスコーヒーをストローですする。
確かにそれほど離れてるわけではないけれど、この近辺に住んでる新島先輩たちと私の住んでる場所は、中学の学区が違う。
「確かに二中にはいなかったな」
二中とは、北第二中学のこと。
新島先輩の言葉に、北原くんはうんうんとうなずいた。
「もし二中にいたら、俺が花梨の存在を放っとくわけねぇだろ?」
冗談混じりにそう言って、私の後ろからぎゅっと抱きつく奏ちゃん。
「ってか、奏ちゃん。中学の頃は恋愛どころじゃなかったじゃねぇか」
「駿ちゃん、その話は禁句だろ?」
「あ、すまん」
増川先輩の言葉を静止したのは、北原くん。
え、禁句……?
くるりと私の後ろの奏ちゃんを見ると、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。
「なんだよ、なんでもねぇから。花梨は気にしないで!」
だけど、私と目が合うなり、奏ちゃんの険しい表情は一瞬にして消え去って。きっと下がっていたのであろう私の眉を、両方の親指で吊り眉になるように押し上げて、ケラケラと笑った。
「そ、奏ちゃん!」
「悪い悪い。でも、吊り眉の花梨も可愛いと思う」
ドキン……!
「も、もうっ!」
そんなこと言われたら、これ以上何も言えなくなっちゃうじゃない……!
「お二人さん、しっかり見せつけてくれるね~!」
ここぞとばかりにそう言ってくるのは、増川先輩。
「「そ、そんなんじゃ……っ!」」
思わず口から出た言葉が、奏ちゃんとハモる。
お互いにびっくりして顔を見合わせたとき。
──チリン。
そんなベルの音とともに、いつの間にかWild Wolfのメンバーしかいなくなっていた喫茶店内に、新たにお客さんが入ってきた。
「兄貴! お前、何しに来たんだよ!」
その瞬間、ものすごい形相で、北原くんが扉から入ってきた男性に詰め寄った。
「何。って、実家に帰ってきただけだろ」
扉の方を見ると、背の高い男性が、いかにもうるさいと言いたげに耳を押さえて北原くんを見ている。
男性の毛先を遊ばせた黒い髪は緩くパーマがかかっているようで、白いシャツに黒いベストに、アクセサリーのついたダボっとした黒いズボンを身にまとっている。
形の整えられた眉、そして、綺麗な目鼻立ち。
耳や手元には少し大きめのアクセサリーがついていて、お洒落な印象を受けた。
そんな彼の背には、ギターなのかベースなのか、私にはパッと見ではわからないけど、ケースに入った楽器が背負われている。
パッと見の印象ではものすごく似てるっていうわけではないけれど、北原くんのお兄さんと言われたら、確かにどことなく雰囲気は北原くんと似ていた。
「慎ちゃん!?」
「え!?」
次々と驚きの声を上げる奏ちゃんと増川先輩。
そして、新島先輩は驚いたような表情をしたまま固まっている。
目の前の三人の光景をぼんやりと眺めていると、突然頭上から奏ちゃんの声が聞こえて振り返る。
「お疲れさま、花梨」
「そ、奏ちゃん!? お疲れさま」
すると、いつの間にか私服に着替えた奏ちゃんが私の後ろに立っていた。
「おっちゃん、気を効かせてくれて、少し早く上がって良いって言ってくれたんだ」
「ごめんね、私が早く来てしまったばかりに」
「実際この時間帯はいつも客足少なくて暇だし、全然問題ないよ」
そう言われて店内を見ると、今は私たちの他にはお客さんはいないようだった。
私がいつも顔を覗かせる時間帯は、いつ来ても常に数組のお客さんが入っていたから何だか不思議な感じだ。
そうしているうちに、私の隣に座る奏ちゃんの前に、北原くんのお父さんが私のと同じアイスコーヒーを持ってくる。
奏ちゃんはそれをグッと半分ほど一気に飲むと、少し楽しげに小声で口を開く。
「それよりさ、駿ちゃんと咲姉を見てるとさ、二人って結構いい感じに見えなくね?」
奏ちゃんに言われて隣を見やると、今も何かしら増川先輩と新島先輩が言い合う姿と、それを呆れたように見ている北原くんの姿が見える。
「確かに、見えなくはないかも」
私も奏ちゃんも、今の会話は決して大きな声で話していたわけではない。
けれど、この声はどうやら新島先輩には聞こえていたようで、突然クルリとこちらを振り向いた新島先輩が口を開く。
「ちょっと、何二人でコソコソ話してるのよ」
「す、すみません……!」
「ん~、別に~?」
とっさに謝る私とは対照的に聞こえるのは、奏ちゃんののんびりとした声。
「いいよ、花梨ちゃんはそんなに謝らなくても。そういや花梨ちゃんって、中学どこだったの?」
新島先輩はそんな私たちを見て可笑しそうに笑うと、私にそう尋ねてくる。
「え、私、ですか? 北第三中学ですけど」
北第三中学、略して三中と呼ばれる、いわゆる地元の公立中学校。
「三中だったんだ。なんとなく、そんな気がしたんだよね」
やっぱりと言いたげに、大きな猫目を細めてにこりと笑う新島先輩。
「咲姉、花梨に中学なんて聞いてどうすんだよ」
「いや、この辺の子のわりには、あまり見ない子だったから。隣の中学の子かなと思って聞いてみた」
奏ちゃんの問いに淡々と答えて、新島先輩はアイスコーヒーをストローですする。
確かにそれほど離れてるわけではないけれど、この近辺に住んでる新島先輩たちと私の住んでる場所は、中学の学区が違う。
「確かに二中にはいなかったな」
二中とは、北第二中学のこと。
新島先輩の言葉に、北原くんはうんうんとうなずいた。
「もし二中にいたら、俺が花梨の存在を放っとくわけねぇだろ?」
冗談混じりにそう言って、私の後ろからぎゅっと抱きつく奏ちゃん。
「ってか、奏ちゃん。中学の頃は恋愛どころじゃなかったじゃねぇか」
「駿ちゃん、その話は禁句だろ?」
「あ、すまん」
増川先輩の言葉を静止したのは、北原くん。
え、禁句……?
くるりと私の後ろの奏ちゃんを見ると、眉を寄せて険しい表情を浮かべている。
「なんだよ、なんでもねぇから。花梨は気にしないで!」
だけど、私と目が合うなり、奏ちゃんの険しい表情は一瞬にして消え去って。きっと下がっていたのであろう私の眉を、両方の親指で吊り眉になるように押し上げて、ケラケラと笑った。
「そ、奏ちゃん!」
「悪い悪い。でも、吊り眉の花梨も可愛いと思う」
ドキン……!
「も、もうっ!」
そんなこと言われたら、これ以上何も言えなくなっちゃうじゃない……!
「お二人さん、しっかり見せつけてくれるね~!」
ここぞとばかりにそう言ってくるのは、増川先輩。
「「そ、そんなんじゃ……っ!」」
思わず口から出た言葉が、奏ちゃんとハモる。
お互いにびっくりして顔を見合わせたとき。
──チリン。
そんなベルの音とともに、いつの間にかWild Wolfのメンバーしかいなくなっていた喫茶店内に、新たにお客さんが入ってきた。
「兄貴! お前、何しに来たんだよ!」
その瞬間、ものすごい形相で、北原くんが扉から入ってきた男性に詰め寄った。
「何。って、実家に帰ってきただけだろ」
扉の方を見ると、背の高い男性が、いかにもうるさいと言いたげに耳を押さえて北原くんを見ている。
男性の毛先を遊ばせた黒い髪は緩くパーマがかかっているようで、白いシャツに黒いベストに、アクセサリーのついたダボっとした黒いズボンを身にまとっている。
形の整えられた眉、そして、綺麗な目鼻立ち。
耳や手元には少し大きめのアクセサリーがついていて、お洒落な印象を受けた。
そんな彼の背には、ギターなのかベースなのか、私にはパッと見ではわからないけど、ケースに入った楽器が背負われている。
パッと見の印象ではものすごく似てるっていうわけではないけれど、北原くんのお兄さんと言われたら、確かにどことなく雰囲気は北原くんと似ていた。
「慎ちゃん!?」
「え!?」
次々と驚きの声を上げる奏ちゃんと増川先輩。
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