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第2章
星空の下で(4)
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「これ、ペンダコ?」
私の手の中指に、柳澤くんがツンツンと指で触れる。
「ごめんね、あんまり手触りよくないでしょ?」
「ううん。そんだけ頑張る委員長に尊敬。委員長ってさ、何か夢とかあるの?」
「夢……、か」
「夢とかないと、そんなに勉強って頑張れるものじゃねーと思うし、聞いてみた!」
「……うーん。特にないかな」
「え? そうなの?」
意外と言わんばかりに目を見開く柳澤くん。
「うん。勉強は、お父さんが厳しいのと、やらないといけないからやってるだけ。だから、本当はなりたいものがあるわけじゃないんだ」
「マジで!? じゃあ、この前チラッと見えた委員長の志望大学調査に書いてた学校って……」
「全部お父さんが薦めてくるところ」
実はこの修学旅行前のホームルームの時間に、志望大学調査の紙を書かされた。
確かに柳澤くんにその紙を見られて慌てて隠した記憶があるけど、覚えてたんだ……。
「委員長はさ、それでいいの?」
「良くないとは思ってるけど、自分でもどうしたいかってまだわからなくて……」
「そっか」
苦笑する私に、柳澤くんは眉を下げた。
「柳澤くんは、夢とかあるの?」
私に聞きてきたんだから、私も柳澤くんに聞いてもいいはずだ。
何となく、夢の話をしていたら、柳澤くんの夢も聞いてみたくなった。
「俺? 俺は、委員長と居られるならそれでいい」
そう言って、柳澤くんは星空を見上げた。
「私、と……?」
そういえば、今日の奈良散策でも、柳澤くんは大仏にそんなお願いしてたよね?
一日のうちに二回もストレートに言われて、恥ずかしい……。
「変かな……?」
まさか柳澤くんの夢を聞いてそう返されると思わなくて、言葉に詰まったからだろう。
柳澤くんは、少し心配げに口を開いた。
「いや、そういうわけじゃないよ。そう言ってもらえるのは、嬉しいし……」
ドキドキと鳴る心臓の音に負けないようにそう伝える。
「ありがとう。本当のことを言うとさ、俺も夢とかわかんないんだ。委員長と付き合うようになって、やっと将来も委員長と一緒に居たいって思えるようになったくらいで」
「え、そうなの……?」
「うん。バンドは好きだけど、現実問題プロになれるほど俺らに実力があるわけじゃねぇし……。だからといって、勉強もそれほど身が入らなくて、いつも委員長見てすごいなって思ってたんだ」
「そうだったんだ……」
「うん。それだけが理由なわけじゃないけどな、委員長のことはずっと前から俺が一方的に憧れてて。いつも委員長のこと見てたから、当然のように俺の視界の中心にはいつも委員長がいて、いつの間にか好きになってたんだ」
「う、うん……っ」
そ、そうだったんだ……っ!
まさか、この流れでそんなこと言われると思ってなかっただけに、ただでさえドキドキしてたのに、心臓がもたないよ……っ!
「って、委員長。まさか、ドキドキしてくれてる?」
柳澤くんのそんな言葉に、思わずビクリと肩を震わせてしまった。
「そ、そんなこと、いちいち聞かないでよっ」
「ごめんって。委員長、怒んないでー!」
そんな可愛く叫ぶ柳澤くんの声とともに、ぎゅうっと抱きしめられる。
「とりあえず、最低でも委員長を養える男になれるようには頑張るからさ、ずっと傍に居てな」
「うん……」
柳澤くんを見上げると、思ってた以上に顔が近くて……。
「あ……っ」
思わず漏れた小さな声さえ、閑静なこの空間には響いて聞こえた。
少しずつ近づく私と柳澤くんの距離。
そっとまぶたを閉じた瞬間、ふわりと柳澤くんの唇が私の唇に重なった。
さっきよりぎゅうっと私を抱きしめる、柳澤くんの腕。
そして、しばらく唇を重ね合わせてから、そっと唇を離した。
月明かりに照らされた、柳澤くんの顔がほんのり赤い。
それと同時に、私の頬も熱を持ってるように感じた。
「……しちゃった」
「うん」
「俺の心臓、破裂しそうなくらいバクバク言ってる」
「私も。でも、幸せ……」
ぎゅうっと抱きしめ合う。
思いがけないファーストキスの余韻に、頭がフワフワする。
星空の下。
柳澤くんの腕の中で、私は幸せを噛み締めていた。
私の手の中指に、柳澤くんがツンツンと指で触れる。
「ごめんね、あんまり手触りよくないでしょ?」
「ううん。そんだけ頑張る委員長に尊敬。委員長ってさ、何か夢とかあるの?」
「夢……、か」
「夢とかないと、そんなに勉強って頑張れるものじゃねーと思うし、聞いてみた!」
「……うーん。特にないかな」
「え? そうなの?」
意外と言わんばかりに目を見開く柳澤くん。
「うん。勉強は、お父さんが厳しいのと、やらないといけないからやってるだけ。だから、本当はなりたいものがあるわけじゃないんだ」
「マジで!? じゃあ、この前チラッと見えた委員長の志望大学調査に書いてた学校って……」
「全部お父さんが薦めてくるところ」
実はこの修学旅行前のホームルームの時間に、志望大学調査の紙を書かされた。
確かに柳澤くんにその紙を見られて慌てて隠した記憶があるけど、覚えてたんだ……。
「委員長はさ、それでいいの?」
「良くないとは思ってるけど、自分でもどうしたいかってまだわからなくて……」
「そっか」
苦笑する私に、柳澤くんは眉を下げた。
「柳澤くんは、夢とかあるの?」
私に聞きてきたんだから、私も柳澤くんに聞いてもいいはずだ。
何となく、夢の話をしていたら、柳澤くんの夢も聞いてみたくなった。
「俺? 俺は、委員長と居られるならそれでいい」
そう言って、柳澤くんは星空を見上げた。
「私、と……?」
そういえば、今日の奈良散策でも、柳澤くんは大仏にそんなお願いしてたよね?
一日のうちに二回もストレートに言われて、恥ずかしい……。
「変かな……?」
まさか柳澤くんの夢を聞いてそう返されると思わなくて、言葉に詰まったからだろう。
柳澤くんは、少し心配げに口を開いた。
「いや、そういうわけじゃないよ。そう言ってもらえるのは、嬉しいし……」
ドキドキと鳴る心臓の音に負けないようにそう伝える。
「ありがとう。本当のことを言うとさ、俺も夢とかわかんないんだ。委員長と付き合うようになって、やっと将来も委員長と一緒に居たいって思えるようになったくらいで」
「え、そうなの……?」
「うん。バンドは好きだけど、現実問題プロになれるほど俺らに実力があるわけじゃねぇし……。だからといって、勉強もそれほど身が入らなくて、いつも委員長見てすごいなって思ってたんだ」
「そうだったんだ……」
「うん。それだけが理由なわけじゃないけどな、委員長のことはずっと前から俺が一方的に憧れてて。いつも委員長のこと見てたから、当然のように俺の視界の中心にはいつも委員長がいて、いつの間にか好きになってたんだ」
「う、うん……っ」
そ、そうだったんだ……っ!
まさか、この流れでそんなこと言われると思ってなかっただけに、ただでさえドキドキしてたのに、心臓がもたないよ……っ!
「って、委員長。まさか、ドキドキしてくれてる?」
柳澤くんのそんな言葉に、思わずビクリと肩を震わせてしまった。
「そ、そんなこと、いちいち聞かないでよっ」
「ごめんって。委員長、怒んないでー!」
そんな可愛く叫ぶ柳澤くんの声とともに、ぎゅうっと抱きしめられる。
「とりあえず、最低でも委員長を養える男になれるようには頑張るからさ、ずっと傍に居てな」
「うん……」
柳澤くんを見上げると、思ってた以上に顔が近くて……。
「あ……っ」
思わず漏れた小さな声さえ、閑静なこの空間には響いて聞こえた。
少しずつ近づく私と柳澤くんの距離。
そっとまぶたを閉じた瞬間、ふわりと柳澤くんの唇が私の唇に重なった。
さっきよりぎゅうっと私を抱きしめる、柳澤くんの腕。
そして、しばらく唇を重ね合わせてから、そっと唇を離した。
月明かりに照らされた、柳澤くんの顔がほんのり赤い。
それと同時に、私の頬も熱を持ってるように感じた。
「……しちゃった」
「うん」
「俺の心臓、破裂しそうなくらいバクバク言ってる」
「私も。でも、幸せ……」
ぎゅうっと抱きしめ合う。
思いがけないファーストキスの余韻に、頭がフワフワする。
星空の下。
柳澤くんの腕の中で、私は幸せを噛み締めていた。
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