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第2章
星空の下で(2)
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「露天風呂、良い眺めだったね」
私の隣で、ジャージ姿の千里がショートヘアの毛先についた水滴をバスタオルで拭う。
自由行動の間に、クラスごとに決められた時間にお風呂に入るんだけど、ちょうど今、私たちのクラスのお風呂の時間だった。
「そうだね。露天風呂も温泉も、中学の修学旅行以来だから、すごく久しぶりだったよ」
そのとき、背後から他のクラスメイトの声が耳に届いた。
「委員長、それ、もしかしてパジャマ!?」
「え? うん、変、かな……」
言われて周りを見渡せば、みんな千里と同じようにTシャツにジャージ姿の人がほとんどだ。
私は自分の着ていた、クマのキャラクターのついた、黄色いパジャマに視線を落とす。
持ち物欄にあった寝間着ってところを見て、何気なくいつも家で着てるパジャマを持ってしまったのだ。
「全然全然! 委員長、いつもより断然可愛い~!」
「垢抜けたって言うのかな? いつものキリリとした感じがなくなって、良いと思う~!」
「そ、そうかな……」
口々にこちらに寄ってくるクラスメイト。
っていうか、私って普段そんなにキリリとしてたっけ……?
なかなかこんな風に言われることもないだけに、嬉しいけどちょっと恥ずかしい……。
「これは是非奏ちゃんにも見てもらわなきゃね! って言ったそばから奏ちゃん発見! 奏ちゃーんっ!」
ちょうど女湯ののれんをくぐって旅館の廊下に出たとき、私の斜め後ろを歩いていたクラスメイトが大声で柳澤くんを呼んだ。
すると、ちょうど向かい側にある自販機の傍で、クラスメイトの男子と飲み物を飲んでいた柳澤くんがこちらをふり返った。
「誰か呼んだかー? って委員長までいるしっ!」
濡れた髪に、肩にかけられた白いタオル。
柳澤くんも例外なく、白いTシャツに黒のジャージ姿だった。
私の姿を見るなりワントーン上げて口を開いた柳澤くんに、思わず頭を下げる。
「こんばんは」
「こんばんはって……。委員長、他人行儀過ぎだろ! 俺ら、カレカノなのに~!」
柳澤くんの言葉に、周りにいた女子たちがキャッと反応する。
カレカノって。
実際そうなんだけど、柳澤くんの口からそう言われると、やっぱりくすぐったい感じがするよ……。
「わっ! 委員長、いつもと雰囲気違うくね?」
「髪も下ろしてるしな~、何よりパジャマなのが、そそるよな?」
そのとき、柳澤くんたちと一緒にいたクラスメイトの男子が口々にそう言う。
「……え? そうかな?」
さっきも言われたけど、そんなに雰囲気違うのかな?
確かに背中の中程まである髪は、いつもはポニーテールにしているけれど……。
「わっ! お前ら、そんなやらしい目で委員長のこと見んな! 委員長も、こんなの真面目に返事しなくていいから!」
「え、そう?」
慌てたようにさっきの男子と私に言う柳澤くん。
「それより、せっかくの自由行動になんだし、二人、一緒に過ごしてきたら?」
「そうそう。班も男女別で違う班だし、せっかくの修学旅行なのに、なかなか一緒に過ごせないんだから」
千里をはじめ、私の周りにいたクラスメイトの女子が、私たちの背中を押す。
「奏ちゃん、ちゃんと夜は部屋に戻って来いよ~」
「戻るわ! 余計なこと言うな!」
柳澤くんと一緒にいたクラスメイトの男子に言われた言葉に、吠えるようにこたえる柳澤くん。
柳澤くんは小さく息を吐き出すと、こほんとひとつ咳払いして、私に手を差しのべる。
「じゃあ、いいんちょー、行こうか」
「え、う、うん……」
こんなときまで、“いいんちょー”だなんて、なんだかおかしくて笑いそうになる。
私が柳澤くんの手を取った瞬間、周りにいたクラスメイトの冷やかしのような声が響く。
「じゃあ、みんな、邪魔するなよ」
だけど、そんな声にも柳澤くんはそう返すと、私たちは二人、旅館の廊下を歩きだした。
ちょうど旅館の一階のロビーに差し掛かったところで、ふと柳澤くんが足を止める。
みんな各々の部屋でこの自由時間を過ごしているのか。
薄暗いロビーには、時々通りかかる旅館の人が行き交うだけで、ほとんど誰もいないようだった。
「ここで話でもする?」
ロビーに置かれた少し年期の入ったソファーを指して提案してみるけれど、柳澤くんは首を横に振った。
「ちょっとだけ、外に出てみようよ」
ね? と可愛くおねだりするように言う柳澤くんに、心が揺れる。
「露天風呂、良い眺めだったね」
私の隣で、ジャージ姿の千里がショートヘアの毛先についた水滴をバスタオルで拭う。
自由行動の間に、クラスごとに決められた時間にお風呂に入るんだけど、ちょうど今、私たちのクラスのお風呂の時間だった。
「そうだね。露天風呂も温泉も、中学の修学旅行以来だから、すごく久しぶりだったよ」
そのとき、背後から他のクラスメイトの声が耳に届いた。
「委員長、それ、もしかしてパジャマ!?」
「え? うん、変、かな……」
言われて周りを見渡せば、みんな千里と同じようにTシャツにジャージ姿の人がほとんどだ。
私は自分の着ていた、クマのキャラクターのついた、黄色いパジャマに視線を落とす。
持ち物欄にあった寝間着ってところを見て、何気なくいつも家で着てるパジャマを持ってしまったのだ。
「全然全然! 委員長、いつもより断然可愛い~!」
「垢抜けたって言うのかな? いつものキリリとした感じがなくなって、良いと思う~!」
「そ、そうかな……」
口々にこちらに寄ってくるクラスメイト。
っていうか、私って普段そんなにキリリとしてたっけ……?
なかなかこんな風に言われることもないだけに、嬉しいけどちょっと恥ずかしい……。
「これは是非奏ちゃんにも見てもらわなきゃね! って言ったそばから奏ちゃん発見! 奏ちゃーんっ!」
ちょうど女湯ののれんをくぐって旅館の廊下に出たとき、私の斜め後ろを歩いていたクラスメイトが大声で柳澤くんを呼んだ。
すると、ちょうど向かい側にある自販機の傍で、クラスメイトの男子と飲み物を飲んでいた柳澤くんがこちらをふり返った。
「誰か呼んだかー? って委員長までいるしっ!」
濡れた髪に、肩にかけられた白いタオル。
柳澤くんも例外なく、白いTシャツに黒のジャージ姿だった。
私の姿を見るなりワントーン上げて口を開いた柳澤くんに、思わず頭を下げる。
「こんばんは」
「こんばんはって……。委員長、他人行儀過ぎだろ! 俺ら、カレカノなのに~!」
柳澤くんの言葉に、周りにいた女子たちがキャッと反応する。
カレカノって。
実際そうなんだけど、柳澤くんの口からそう言われると、やっぱりくすぐったい感じがするよ……。
「わっ! 委員長、いつもと雰囲気違うくね?」
「髪も下ろしてるしな~、何よりパジャマなのが、そそるよな?」
そのとき、柳澤くんたちと一緒にいたクラスメイトの男子が口々にそう言う。
「……え? そうかな?」
さっきも言われたけど、そんなに雰囲気違うのかな?
確かに背中の中程まである髪は、いつもはポニーテールにしているけれど……。
「わっ! お前ら、そんなやらしい目で委員長のこと見んな! 委員長も、こんなの真面目に返事しなくていいから!」
「え、そう?」
慌てたようにさっきの男子と私に言う柳澤くん。
「それより、せっかくの自由行動になんだし、二人、一緒に過ごしてきたら?」
「そうそう。班も男女別で違う班だし、せっかくの修学旅行なのに、なかなか一緒に過ごせないんだから」
千里をはじめ、私の周りにいたクラスメイトの女子が、私たちの背中を押す。
「奏ちゃん、ちゃんと夜は部屋に戻って来いよ~」
「戻るわ! 余計なこと言うな!」
柳澤くんと一緒にいたクラスメイトの男子に言われた言葉に、吠えるようにこたえる柳澤くん。
柳澤くんは小さく息を吐き出すと、こほんとひとつ咳払いして、私に手を差しのべる。
「じゃあ、いいんちょー、行こうか」
「え、う、うん……」
こんなときまで、“いいんちょー”だなんて、なんだかおかしくて笑いそうになる。
私が柳澤くんの手を取った瞬間、周りにいたクラスメイトの冷やかしのような声が響く。
「じゃあ、みんな、邪魔するなよ」
だけど、そんな声にも柳澤くんはそう返すと、私たちは二人、旅館の廊下を歩きだした。
ちょうど旅館の一階のロビーに差し掛かったところで、ふと柳澤くんが足を止める。
みんな各々の部屋でこの自由時間を過ごしているのか。
薄暗いロビーには、時々通りかかる旅館の人が行き交うだけで、ほとんど誰もいないようだった。
「ここで話でもする?」
ロビーに置かれた少し年期の入ったソファーを指して提案してみるけれど、柳澤くんは首を横に振った。
「ちょっとだけ、外に出てみようよ」
ね? と可愛くおねだりするように言う柳澤くんに、心が揺れる。
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