空に想いを乗せて

美和優希

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第2章

星空の下で(1)

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 朝からバスに乗って、一番最初の目的地、奈良に着いたのはちょうどお昼過ぎだった。



「うわぁ~! 太陽が眩しい!」


 バスから降りた途端、目が眩みそうになる。


 辺り一面青々とした木々がそびえ立ち、その木のふもとではシカがお昼寝をしていた。



「この暑さじゃシカもくたばるわなぁ~」


 後ろから降りてきた柳澤くんの声にふり返る。



「よぉ!」

 そうやって挨拶してくれるけど、さっきの歌を聴いたこともあっていつも以上に心臓がドキドキと早鐘をうつ。



「え、あ……、うん」


 Wild Wolfとして歌う柳澤くんは、いつもの柔らかい可愛い雰囲気とは違って激しさと荒々しさが加わって、素直にかっこよかった。



「委員長~? 何かあった?」


 見れば、不思議そうに私を見つめる柳澤くん。



「いや、別に……、なんでも、ない」


 頬が熱くなるのをごまかすように首を振って、私は一緒に修学旅行を回る班の元へと駆け出した。



 ドキドキがおさまらないままに、私たちは奈良の大仏の前に来ていた。


 隣を歩く千里とその場に立ち止まり、目の前の大仏を見上げる。


「やっぱり本物は大きいね」

「うん。すごい迫力」


 目だけでさりげなく柳澤くんの姿を探すと、柳澤くんはしっかりと両手を合わせて、目をつむって何かをお祈りしているようだった。

 さっきは素っ気ない態度を取っちゃったけど、大丈夫かな……。

 そんな風に思いながら柳澤くんのことを見ていると、


「奏ちゃん、祈りすぎでしょー」

 キャハハとクラスの女子たちが笑いながら、柳澤くんに話しかけた。



「えー、だってなんかご利益ありそうじゃん」

「奏ちゃん、可愛いー! 何お願いしてたの? 委員長とずっと居られますように、とか?」

「えっ、何でわかったの!? 秘密にしてたのに~」


 ちょ、柳澤くん!?

 何の恥ずかしげもなく、さらりとそう言ってのける柳澤くんに、私の方がドギマギさせられる。


「やっぱり柳澤くんは、花梨が大好きなんだね! 愛されててうらやましい~!」


 ニヤついた表情を浮かべた千里に、肘で小突かれた。


 奈良の大仏を見終わったあとは、バスガイドさんの案内に従って、日本の歴史に触れて回った。


 一通りバスガイドさんの案内が終わると、少しの自由行動。


 私は、千里とのんびりお土産を見て回っていた。


「ちょっと、奏ちゃん、何やってんだよ!」


 そんな男子の声にふり返ると、前後左右からシカに詰め寄られる柳澤くんの姿が目に留まる。


「シカせんべい買ったからかな、気づいたらシカに包囲されてたんだよ……、って、うわっ! キミ、順番は守らなあかんやろ!」


 何故かそこだけ関西弁でシカに注意する柳澤くんに、誰もが爆笑した。


「花梨の彼氏目立ちすぎ! 人からもシカからも愛されるキャラ、なかなか居ないよ!」


 千里までそう言って、笑い涙を拭いていた。


 奈良散策が終わると、京都の旅館へとバスで移動する。


 明日は京都研修、そして明後日は大阪のテーマパークで遊んで、明明後日に帰るといった予定になっている。


 朝の勢いと違って、少し疲れも出てぐっすり眠っている人もちらほらいた。


 純和風な雰囲気の出てる旅館に着くと、夜ご飯を食べて、就寝時間まで自由行動になる。
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