空に想いを乗せて

美和優希

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第2章

バスカラオケで

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 そうして迎えた修学旅行当日。

 空は快晴。頭上から照り付ける太陽の光で、身体が溶けてしまいそうだった。


 私たちの学校の修学旅行は、バス旅行。
 クラスごとに指定されたバスに乗り込む。


 これから約半日かけて、今日の目的地の奈良に向かう。


「それでは点呼を取ります」

 名簿の上から順に名前を呼んで、全員集まったことを確認する。


「それでは修学旅行の諸注意について説明しまーす!」


 私が点呼を取り終えると、私に代わって柳澤くんがみんなに諸注意の説明をはじめた。

 どちらも修学旅行実行委員の仕事。


 だからそういう意味でも、私はこの修学旅行中、柳澤くんと自然に連絡を取り合うことができるんだ。

 なんだか、嬉しい。



「あー、今、委員長ニヤけたでしょ!? そんなに俺の説明って下手かぁ~?」


 いけない、いけないっ!!

 自然と頬が緩んでしまっていたらしく、諸注意をしていた柳澤くんが勘違いしてしまったようで、ムッと口を尖らせていた。



「違う違う、修学旅行楽しみだな~って思ったら、顔が勝手に……」

「だよな~、俺も超楽しみ! じゃあ、まずは長いバス旅の中、カラオケ大会いってみよー! みんな、歌って叫んで盛り上がっていくぞー!!」


 そんなノリノリな柳澤くんの言葉を合図に、修学旅行の最初のイベント、バス内のカラオケ大会がはじまった。


 私と柳澤くんは、同じ班の子たちの座る座席へと移動する。


 はじまった瞬間から、みんな修学旅行のしおりに載った歌詞カードを開いて、盛り上がるバス内。


 私も、歌詞カードを開いてみんなの歌を聴いた。


 柳澤くんの歌を聴く昼休み以外は、あまり曲をゆっくり聴く時間なんてないから、こういう時間っていいな。


 順々と曲が進む中、男子たちのはやしたてる声が響く。


「そろそろ奏ちゃんも歌えよ!」

「俺、奏ちゃんが去年文化祭で最後に歌ってた曲がいいー!」

「あたしも!! あれ、すごくかっこ良かったもん!!」


 次々に声を上げるクラスの子たち。


「マジで? 俺、初日のバスカラオケからそんなに飛ばす気ないんだけど」


 と言いつつ、嬉しそうに笑う柳澤くん。


 クラスの子たちの反応からも、よっぽど柳澤くんの去年の文化祭のライブの評判が良かったことがうかがえる。


 去年聴けなかったことを、今更になって後悔。


 文化祭実行委員の仕事が被ってたから、仕方ないんだけど……。



「そういえば花梨は去年、柳澤くんのライブ見れてないんだよね」


 私がそっと肩を落としたとき、隣の席の成田なりた 千里ちさとがそう言ってきた。


 千里とは、一年生の頃は隣のクラス同士で、今年同じクラスになった。

 お互いに一年生の頃はクラス委員長をやっていた、委員長仲間。

 文化祭実行委員も一緒にやってたんだ。


 今年は同じクラスになって、私がクラス委員長をやってるから、千里はクラス委員長とは無縁になったんだけどね。


 千里は、私がちょうど柳澤くんのライブの時間に委員の仕事が入っていたことを、覚えていてくれたみたい。


「そうなんだよね。今になって後悔……」

「私は去年も柳澤くんと同じクラスだったからね、その時間帯は委員の仕事入れるなって言われてたから」


 少し申し訳なさそうに言う千里。

 何だかそういうの聞かされると、余計に悲しくなってきた……。


「でも、ちゃっかりWild Wolfの曲の音源もバスカラオケ用に持ち込んでるあたりも、柳澤くんらしいよね」

「Wild Wolf……?」


「柳澤くんたちの組んでるバンドの名前だよ。もしかして、花梨、知らなかったの?」


 すごく驚いたような表情を浮かべる千里。


「え……、う、うん」


 一時、去年のクラスのときに、“Wild Wolf”の話題は上がってたけど、柳澤くんたちのことだったんだね……。


 去年のライブは見れなかったとはいえ、柳澤くんと付き合ってたら、そのくらい知ってるって思われてたんだろうな。


 バンドを組んでることまでは知ってたけど、その名前まで聞いたことなかったよ。


「あ、花梨、始まるみたいだよ。柳澤くんの歌」

「え……っ!?」


 千里に肩を叩かれて顔を上げると、座席の真ん中の通路にマイクを持って立つ柳澤くん。


 ワーワー騒ぐクラスメイトに手を振っている。


 私と目が合うと、柳澤くんは白い歯を見せてニッと笑うと、頭の前でピースをした。


 そうしているうちに、スピーカーからドラムの音が流れ始め、柳澤くんの迫力のあるシャウトとともに、曲がスタートした。

 アップテンポの激しいメタル系の曲。


「この曲、Wild Wolfの魂の曲らしいよ。この曲が原点なんだって」


 そんな解説を、千里に耳打ちされる。


「そうなんだ。すごい……」



 ──感じよう
 その肌で心で

 見つめよう
 その目を見開いて


 俺たちの刻むメロディーが途絶えない限り
 この唄が在りつづける限り

 たとえ、この声が枯れ果てても
 いつまでも叫び続けるから


 俺たちの目一杯の想いを
 この空に唄おう──


 力強い歌詞に飲み込まれる。


 そこに居るのは、いつも私に屋上で歌声を聴かせてくれる柳澤くんじゃなくて……。Wild Wolfとして歌う、柳澤奏真だった。
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