空に想いを乗せて

美和優希

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第2章

幸せな日々(1)

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「じゃあ、とうとう柳澤くんと付き合うことになったんだ!」


 きゃっと可愛い声を上げて、自分のことのように喜んでくれるのは美波。


 柳澤くんと付き合いはじめて一週間ほど。


 やっと塾の帰りに美波とゆっくり話す時間の取れた今日、私は柳澤くんに告白された日のことを美波に話したんだ。



「で、どうなの? 進展具合は?」


 まるで見えないマイクを私に差し出すように、美波は手をグーにして私の口元に近づける。



「進展も何も……。お昼休みを一緒に過ごしてるのと、放課後に修学旅行実行委員の仕事で一緒なくらいかな」

「なーんだ。でも、生真面目な花梨らしい」

「それって褒めてるの?」


 なんだか、けなされてるようにも聞こえなくもないんだけど。


「一応?」


 いつもと同じ、塾の帰り道。

 美波が冗談っぽくそう言ったところで、花町三丁目交差点が見えてきた。


 車のライトに照らし出される信号機の下には、今日も綺麗な花束が供えられている。


 その前に差し掛かると、私も美波も目を閉じて両手を合わせた。


 ズキンと痛む、胸の奥。


 お兄さんが、今の私を見たらどう思うだろう……?

 いくら柳澤くんを傷つけるなんてできなかったからって、自分の恋を成就させてしまうなんて……。


 少なからず罪悪感を感じながら閉じていた目を開いたとき、美波の声が耳に届く。



「花梨が、お兄さんの分も幸せに生きていきます。だから、見守っていてください」

「ちょっ、美波っ!」


 お兄さんの分も幸せに生きるとか、見守っていてとか、図々しすぎだよ!


 だけど、美波は

「ほら、また悪いと思ってるんでしょ」

 そう言って、私の額を小突いた。


「せっかく助けてもらったんだから、彼の分も幸せに長く生きなさい。ね?」

「……うん」


 そんな風に言われると、確かに美波の言う通りのような気もしてくるから不思議だ。


 一体、どう生きるのが正解なんだろう?


 勉強には、答えがあるのに。

 生き方に、答えなんてない。


 人それぞれ、味わう苦しみも悲しみも喜びも違う。

 自分と全く同じ人生を歩む人なんて、いないんだから。


 ただ生きているだけなのに、それが本当に難しい……。


 *


 次の日、修学旅行を目前として、修学旅行のしおりの見本が出来上がった。


「うおぉ!! 委員長、すげぇ!!」


 早速休み時間に見本の本をパラパラとめくって、柳澤くんが声を上げる。

 この前、クラスごとで出た案を簡単に合わせて、ほぼ即席で作ったものだから、そんなに凝ったものではないのだけれど。


「委員長って、ほんと何でもできるよなぁ~。絵も上手いとか……」


 しおりの所々に挿絵を入れる担当になっていた私。

 柳澤くんは私が描いたイラストのうちのひとつを広げて、隣の席に座る私に見せる。


「何でもってわけでもないよ」


 私だって、体育とかは頑張ったって成績は伸び悩んでいるし、学校の科目に限らず苦手なものはある。



「えー、でも、委員長の作るタコさんウインナーも美味かったじゃん」


 イラストとタコさんウインナーを挙げるあたりが柳澤くんらしくて、なんだかおかしい。



「そう言う奏ちゃんは、どこのページ作ったんだよ」


 柳澤くんの後ろの席の男子の福田くんが、身を乗り出すようにして、修学旅行のしおりを覗き込む。


「俺はなー、このページ!」


 長いバス移動の間にみんなでカラオケが楽しめるように作られた、歌詞カードのページを柳澤くんは開く。


 そこには今人気のアーティストの曲の歌詞とともに、ギターやベース、ドラムといった楽器の写真の切り抜きが、丁寧に貼られていた。



「うひょー、さすがバンドバカの奏ちゃんが作っただけある~」

「バカは余計だ!」


 噛み付くように吠える柳澤くん。

 そんな柳澤くんに思わず頬が緩む。


 そういえば柳澤くん、バンドを組んでるんだって言ってたもんね。


「ってかさぁ、奏ちゃんと委員長ってマジで付き合いはじめたんだろ~?」

「うわっ、もうバレちゃったの~?」


 ビクッと福田くんから飛び退くように、大袈裟にリアクションをとる柳澤くん。


「もう結構有名だよ~! 奏ちゃんも委員長も、わかりやすすぎだもん」


 そんなにわかりやすかったのかな……。

 思わず私の頬がほんのり熱を持つ。
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