空に想いを乗せて

美和優希

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第1章

急接近(3)

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「笑っちまうよな。俺の気持ちに気づいて、委員長は俺のこと避けてたのにな」


 柳澤くんの少し潤んだ瞳は、今にも泣き出してしまいそうで……。



「ち、ちが……っ」


 だけど、ここで違うって言っていいのかな……。



「しかも、あいつらの言ってたことホントで、委員長がやるから修学旅行実行委員、引き受けたんだ」

「……え?」

「マジで動機不純だよな。ごめんな、迷惑だよな」


 違う。迷惑だなんて、思ってない。

 悲しそうな瞳でこちらを見つめる柳澤くんの姿に、胸が苦しくなる。



「ケジメをつけるためにもさ、俺のこと思いっきりフッてよ……」


 柳澤くんをフるだなんて、そんなこと私には……。



「そしたら俺、あきらめるように努力するから。心配しなくても、修学旅行実行委員の仕事は、責任もって最後までするからさ」


 お願いだから、そんな風に苦しそうな声で言わないで──。



「え、ちょっ、いいん、ちょー?」


 目の前の柳澤くんの切なげな表情が、驚きへと変わる。



「ご、ごめん。俺、まさか、泣かれるなんて、思ってなくて……」


 オロオロと申し訳なさげに言う柳澤くんの言葉に、私は初めて自分が泣いていることに気づいた。




「あ、あれ。わ、たし……」

「ほんと、ごめんな。俺が委員長に告白だなんて、調子乗りすぎだよな」

「違う!」


 今度は突然そう叫んだ私に、再び驚く柳澤くん。


 心の葛藤がなくなったわけではない。

 でも、それ以上に、苦しそうな柳澤くんにこんな悲しいことを言わせたくなかった。

 俺のことをフッて、だなんて……。


 柳澤くんのことだって、避けてたんじゃない。

 本当は、前みたいに傍に居たかったのに……。


「どうしていいか、わからなかった、の」

「え……?」

「私みたいな人が、浮かれて恋なんて、許されるわけないって、思ってたから……」


 私の代わりに死んでしまったお兄さんに、悪いから……。

 大切な人を奪ってしまったお姉さんに、悪いから……。

 この気持ちに気づいたときは、私が恋なんてしていいのか、わからなかった。



「ちょっ、いいんちょ、何の話……!?」


 だけど、柳澤くんを傷つけてしまうのは、もっと嫌。

 私は、とてつもなくずるいのかもしれない。

 お兄さんたちを引き裂いておいて、自分はこんな風に恋を実らせて。

 いつか、バチが当たるかもしれない。


 だけど、そんな不安定な心の中で、この前の夜の美波の言葉が、唯一の私の支えだった。



「……好き」


 たった二文字を言葉に出してしまったことで、私の中で押さえつけられていた好きの気持ちがあふれだす。



「え、好きって……。誰が? 誰を……!?」

 だけど、そう言って、柳澤くんは大きな目をパタパタとしばたたかせる。

 何でこの話の流れでそうなるのよ……。



「柳澤くん以外に、誰がいるの……」

「え、あ。いや、ごめん。なんか、俺すっかり気が動転しちゃって……」


 ぐすんと鼻を鳴らして涙を流す私の顔を、柳澤くんが遠慮がちに覗く。



「委員長、俺のこと、好き……なの?」


 私は、情けなく小さくうなずいた。



「やっべー、100%ムリだと思ってたから、すげぇ嬉しい……」


 柳澤くんはぎゅうっと力強く私を抱きしめてくれた。


 この選択が正しかったのか、今はまだわからない。


 だけど、私の心は、今までにないくらいに満たされているのを感じた。
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