16 / 85
第1章
急接近(3)
しおりを挟む
「笑っちまうよな。俺の気持ちに気づいて、委員長は俺のこと避けてたのにな」
柳澤くんの少し潤んだ瞳は、今にも泣き出してしまいそうで……。
「ち、ちが……っ」
だけど、ここで違うって言っていいのかな……。
「しかも、あいつらの言ってたことホントで、委員長がやるから修学旅行実行委員、引き受けたんだ」
「……え?」
「マジで動機不純だよな。ごめんな、迷惑だよな」
違う。迷惑だなんて、思ってない。
悲しそうな瞳でこちらを見つめる柳澤くんの姿に、胸が苦しくなる。
「ケジメをつけるためにもさ、俺のこと思いっきりフッてよ……」
柳澤くんをフるだなんて、そんなこと私には……。
「そしたら俺、あきらめるように努力するから。心配しなくても、修学旅行実行委員の仕事は、責任もって最後までするからさ」
お願いだから、そんな風に苦しそうな声で言わないで──。
「え、ちょっ、いいん、ちょー?」
目の前の柳澤くんの切なげな表情が、驚きへと変わる。
「ご、ごめん。俺、まさか、泣かれるなんて、思ってなくて……」
オロオロと申し訳なさげに言う柳澤くんの言葉に、私は初めて自分が泣いていることに気づいた。
「あ、あれ。わ、たし……」
「ほんと、ごめんな。俺が委員長に告白だなんて、調子乗りすぎだよな」
「違う!」
今度は突然そう叫んだ私に、再び驚く柳澤くん。
心の葛藤がなくなったわけではない。
でも、それ以上に、苦しそうな柳澤くんにこんな悲しいことを言わせたくなかった。
俺のことをフッて、だなんて……。
柳澤くんのことだって、避けてたんじゃない。
本当は、前みたいに傍に居たかったのに……。
「どうしていいか、わからなかった、の」
「え……?」
「私みたいな人が、浮かれて恋なんて、許されるわけないって、思ってたから……」
私の代わりに死んでしまったお兄さんに、悪いから……。
大切な人を奪ってしまったお姉さんに、悪いから……。
この気持ちに気づいたときは、私が恋なんてしていいのか、わからなかった。
「ちょっ、いいんちょ、何の話……!?」
だけど、柳澤くんを傷つけてしまうのは、もっと嫌。
私は、とてつもなくずるいのかもしれない。
お兄さんたちを引き裂いておいて、自分はこんな風に恋を実らせて。
いつか、バチが当たるかもしれない。
だけど、そんな不安定な心の中で、この前の夜の美波の言葉が、唯一の私の支えだった。
「……好き」
たった二文字を言葉に出してしまったことで、私の中で押さえつけられていた好きの気持ちがあふれだす。
「え、好きって……。誰が? 誰を……!?」
だけど、そう言って、柳澤くんは大きな目をパタパタとしばたたかせる。
何でこの話の流れでそうなるのよ……。
「柳澤くん以外に、誰がいるの……」
「え、あ。いや、ごめん。なんか、俺すっかり気が動転しちゃって……」
ぐすんと鼻を鳴らして涙を流す私の顔を、柳澤くんが遠慮がちに覗く。
「委員長、俺のこと、好き……なの?」
私は、情けなく小さくうなずいた。
「やっべー、100%ムリだと思ってたから、すげぇ嬉しい……」
柳澤くんはぎゅうっと力強く私を抱きしめてくれた。
この選択が正しかったのか、今はまだわからない。
だけど、私の心は、今までにないくらいに満たされているのを感じた。
柳澤くんの少し潤んだ瞳は、今にも泣き出してしまいそうで……。
「ち、ちが……っ」
だけど、ここで違うって言っていいのかな……。
「しかも、あいつらの言ってたことホントで、委員長がやるから修学旅行実行委員、引き受けたんだ」
「……え?」
「マジで動機不純だよな。ごめんな、迷惑だよな」
違う。迷惑だなんて、思ってない。
悲しそうな瞳でこちらを見つめる柳澤くんの姿に、胸が苦しくなる。
「ケジメをつけるためにもさ、俺のこと思いっきりフッてよ……」
柳澤くんをフるだなんて、そんなこと私には……。
「そしたら俺、あきらめるように努力するから。心配しなくても、修学旅行実行委員の仕事は、責任もって最後までするからさ」
お願いだから、そんな風に苦しそうな声で言わないで──。
「え、ちょっ、いいん、ちょー?」
目の前の柳澤くんの切なげな表情が、驚きへと変わる。
「ご、ごめん。俺、まさか、泣かれるなんて、思ってなくて……」
オロオロと申し訳なさげに言う柳澤くんの言葉に、私は初めて自分が泣いていることに気づいた。
「あ、あれ。わ、たし……」
「ほんと、ごめんな。俺が委員長に告白だなんて、調子乗りすぎだよな」
「違う!」
今度は突然そう叫んだ私に、再び驚く柳澤くん。
心の葛藤がなくなったわけではない。
でも、それ以上に、苦しそうな柳澤くんにこんな悲しいことを言わせたくなかった。
俺のことをフッて、だなんて……。
柳澤くんのことだって、避けてたんじゃない。
本当は、前みたいに傍に居たかったのに……。
「どうしていいか、わからなかった、の」
「え……?」
「私みたいな人が、浮かれて恋なんて、許されるわけないって、思ってたから……」
私の代わりに死んでしまったお兄さんに、悪いから……。
大切な人を奪ってしまったお姉さんに、悪いから……。
この気持ちに気づいたときは、私が恋なんてしていいのか、わからなかった。
「ちょっ、いいんちょ、何の話……!?」
だけど、柳澤くんを傷つけてしまうのは、もっと嫌。
私は、とてつもなくずるいのかもしれない。
お兄さんたちを引き裂いておいて、自分はこんな風に恋を実らせて。
いつか、バチが当たるかもしれない。
だけど、そんな不安定な心の中で、この前の夜の美波の言葉が、唯一の私の支えだった。
「……好き」
たった二文字を言葉に出してしまったことで、私の中で押さえつけられていた好きの気持ちがあふれだす。
「え、好きって……。誰が? 誰を……!?」
だけど、そう言って、柳澤くんは大きな目をパタパタとしばたたかせる。
何でこの話の流れでそうなるのよ……。
「柳澤くん以外に、誰がいるの……」
「え、あ。いや、ごめん。なんか、俺すっかり気が動転しちゃって……」
ぐすんと鼻を鳴らして涙を流す私の顔を、柳澤くんが遠慮がちに覗く。
「委員長、俺のこと、好き……なの?」
私は、情けなく小さくうなずいた。
「やっべー、100%ムリだと思ってたから、すげぇ嬉しい……」
柳澤くんはぎゅうっと力強く私を抱きしめてくれた。
この選択が正しかったのか、今はまだわからない。
だけど、私の心は、今までにないくらいに満たされているのを感じた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる