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第1章
そこは別世界(3)
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「先輩からもらったんだよ。なんか名前だけの風紀委員かなんかをやったときに屋上の鍵を触る機会があって、そんときにこっそり作ったんだって」
「そうなんだ。いつもここで歌ってるの?」
「まぁ。昼休みと放課後はだいたいここにいるかな。俺さ、バンド組んでるんだけど、大抵夜にバンドの集まりがあるから、放課後はそれまでの時間潰しって感じだけど……。この西校舎の屋上ってさ、日頃四階って無人だから穴場なんだよな。屋上と四階も階段挟んで距離あるし」
今日は見つかっちゃったけどな、と笑う柳澤くん。
確かに、言われてみれば西校舎の屋上は他の校舎からも独立していて、よっぽどのことがない限りは見つかりにくい場所だと思う。
「わ……っ」
そのとき、さっきも廊下で感じた強い風が吹いて、私の長いポニーテールの黒髪を強くなびかせる。
思わずきゅっと目を閉じて再び目を開ける。すると、少し大きめの柳澤くんの瞳がじっと私の姿を捉えていることに気づいた。
な、何……?
見られている理由がわからなくて、ドキドキと加速する心音に気づかないフリをしながら、小さく口を開く。
「え、……っと」
それなのに口から出たのは、たどたどしい言葉。
柳澤くんは、そんな私を見てフッと笑って口を開いた。
「委員長でも、そんな反応するんだな」
「え……?」
委員長でも、って……。
「わ、私を何だと思ってるの?」
「何って、そんな変な目で見てねーから」
どこか可笑しそうに笑う柳澤くん。
「でも、いつも委員長のこと見てて、その委員長キャラって委員長の本当の姿なのかなと疑問に思ってた」
「へ……?」
ポロンとギターを鳴らしながら言う柳澤くんの方へ、思わず視線を向ける。
どういう意味……?
「いや、なんつーか。その委員長キャラって、無理して作り上げてるもんなんじゃないかって思ってさ」
「作ってるように見える?」
「んー? わかんねー」
そこ、わかんないって……。
今の会話は何を根拠に生まれたの……。
「でも、委員長見てると、時々ふとそう思う瞬間があって。どうなんだろう、ってな。ちょっと気になってたんだ」
「そうだったんだ」
私、柳澤くんにそんな風に見られてたんだ……。
「そんな顔しないでよ。委員長が無理してないならそれでいいから」
「うん」
「それに俺、委員長の委員長キャラ、好きだし」
「……っ!!」
す、好き……!?
「だって、すげぇ何でもできる女って感じでかっこいいじゃん。俺には真似できねーもん!」
“好き”が私の“委員長キャラ”に向けられたものだということは、わかっている。
それなのにその言葉に過剰に反応して身体が熱くなる私と対照的に、柳澤くんは涼しげにケラケラと笑った。
っていうか、柳澤くんみたいな人が、そんな簡単に女の子に“好き”なんて言っちゃダメだよ……。
「そういえば、時間大丈夫?」
少しずつ傾きつつある西日。
腕時計を見ると、17時目前だった。
私は思わずその場を慌てて立ち上がった。
「私、そろそろ帰らなきゃ!」
「わりっ、なんか用事あった?」
「うん。妹を幼稚園に迎えに行かなきゃいけなくて……」
私には、まだ五歳の妹の奈穂がいる。延長保育の終了時刻の十七時までに毎日幼稚園に迎えに行くのは、私の役目だ。
さらには、奈穂を家に送り届けたあとにはすぐに通っている進学塾に向かわなければならない。
ひとつでも遅れると、後ろの予定が全て狂ってしまう。
今日は時間に余裕があると思っていたのに、思っていた以上にここに長居していたんだと気づかされた。
歌声の持ち主の姿を一目見たいと思ったのがきっかけだったのに、私としたことが……。
「そっか。それなら仕方ないか」
残念そうに肩を落とす柳澤くん。
私も楽しい時間を過ごせていただけに、そんな彼の姿に胸が痛くなる。
「そうなんだ。いつもここで歌ってるの?」
「まぁ。昼休みと放課後はだいたいここにいるかな。俺さ、バンド組んでるんだけど、大抵夜にバンドの集まりがあるから、放課後はそれまでの時間潰しって感じだけど……。この西校舎の屋上ってさ、日頃四階って無人だから穴場なんだよな。屋上と四階も階段挟んで距離あるし」
今日は見つかっちゃったけどな、と笑う柳澤くん。
確かに、言われてみれば西校舎の屋上は他の校舎からも独立していて、よっぽどのことがない限りは見つかりにくい場所だと思う。
「わ……っ」
そのとき、さっきも廊下で感じた強い風が吹いて、私の長いポニーテールの黒髪を強くなびかせる。
思わずきゅっと目を閉じて再び目を開ける。すると、少し大きめの柳澤くんの瞳がじっと私の姿を捉えていることに気づいた。
な、何……?
見られている理由がわからなくて、ドキドキと加速する心音に気づかないフリをしながら、小さく口を開く。
「え、……っと」
それなのに口から出たのは、たどたどしい言葉。
柳澤くんは、そんな私を見てフッと笑って口を開いた。
「委員長でも、そんな反応するんだな」
「え……?」
委員長でも、って……。
「わ、私を何だと思ってるの?」
「何って、そんな変な目で見てねーから」
どこか可笑しそうに笑う柳澤くん。
「でも、いつも委員長のこと見てて、その委員長キャラって委員長の本当の姿なのかなと疑問に思ってた」
「へ……?」
ポロンとギターを鳴らしながら言う柳澤くんの方へ、思わず視線を向ける。
どういう意味……?
「いや、なんつーか。その委員長キャラって、無理して作り上げてるもんなんじゃないかって思ってさ」
「作ってるように見える?」
「んー? わかんねー」
そこ、わかんないって……。
今の会話は何を根拠に生まれたの……。
「でも、委員長見てると、時々ふとそう思う瞬間があって。どうなんだろう、ってな。ちょっと気になってたんだ」
「そうだったんだ」
私、柳澤くんにそんな風に見られてたんだ……。
「そんな顔しないでよ。委員長が無理してないならそれでいいから」
「うん」
「それに俺、委員長の委員長キャラ、好きだし」
「……っ!!」
す、好き……!?
「だって、すげぇ何でもできる女って感じでかっこいいじゃん。俺には真似できねーもん!」
“好き”が私の“委員長キャラ”に向けられたものだということは、わかっている。
それなのにその言葉に過剰に反応して身体が熱くなる私と対照的に、柳澤くんは涼しげにケラケラと笑った。
っていうか、柳澤くんみたいな人が、そんな簡単に女の子に“好き”なんて言っちゃダメだよ……。
「そういえば、時間大丈夫?」
少しずつ傾きつつある西日。
腕時計を見ると、17時目前だった。
私は思わずその場を慌てて立ち上がった。
「私、そろそろ帰らなきゃ!」
「わりっ、なんか用事あった?」
「うん。妹を幼稚園に迎えに行かなきゃいけなくて……」
私には、まだ五歳の妹の奈穂がいる。延長保育の終了時刻の十七時までに毎日幼稚園に迎えに行くのは、私の役目だ。
さらには、奈穂を家に送り届けたあとにはすぐに通っている進学塾に向かわなければならない。
ひとつでも遅れると、後ろの予定が全て狂ってしまう。
今日は時間に余裕があると思っていたのに、思っていた以上にここに長居していたんだと気づかされた。
歌声の持ち主の姿を一目見たいと思ったのがきっかけだったのに、私としたことが……。
「そっか。それなら仕方ないか」
残念そうに肩を落とす柳澤くん。
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