2 / 85
第1章
そこは別世界(2)
しおりを挟む
私の姿を一目見るなり、柳澤くんは堂々と歌っていた表情から一瞬で表情を変貌させる。
そして柳澤くんはすくっと立ち上がって私の方へ身体を向けると、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさいでした!」
「へ……?」
ごめんなさいでした……?
何を謝られているのか分からない私は、頭を下げ続ける柳澤くんをただ茫然と眺めることしかできない。
むしろ、素敵な歌を聴かせてくれてありがとうって感じなんだけど……。
私が何も言わずに戸惑っているからか、恐る恐るといった感じに頭を上げる柳澤くん。
下向き加減の顔でこちらを見る柳澤くんの目は、若干上目遣いになっていて、男の子だというのに思わず可愛いと感じてしまった。
すると、柳澤くんは小さく口を開いた。
「……俺のこと、注意しに来たんじゃねーの?」
「……注意? どうして?」
あまりピンとこなくて首をかしげる。
「ほら、ここ、立入禁止だし……」
なるほど。真面目で堅いイメージのついてしまっている私が突然現れたから、柳澤くんは注意されると思ったのだろう。
私って、どこまで堅いイメージ持たれてるんだろう……?
思わず心の中で、小さく肩を落とす。
「注意なんてそんな、私はただ綺麗な歌声が聴こえたから、何ていうか……」
一言、素敵な歌声に惹かれてここに来たと言えばいいものの、なんだか恥ずかしくてたどたどしい口調になる。
そんな私を見て、柳澤くんはホッとしたようにハハッと笑った。
「え、そうなんだ。俺、てっきり委員長にここに居たこと注意されて、先生に告げ口されると思ったわ」
「そ、そんなことしないよ!」
私のイメージって……。
「放課後ここに居るのが見つかったの、委員長が初めてなんだ。だからマジで焦った」
「……そうなの?」
「ここに俺が居たこと、俺と委員長の秘密にしてくんね?」
ね? と両手を合わせて頭を下げながら、私を見つめる柳澤くん。
……だからその顔、反則だって!!
「……うん」
そんな可愛くお願いされると、断るなんてできないじゃない……。
「やった!」
ぱぁぁと表情を明るくして、柳澤くんは無邪気にガッツポーズなんて決めた。
「いや、マジで委員長、神! サンキューなっ!」
白い歯を見せて笑う、柳澤くん。
「う、うん……」
……可愛い。
思わず、トクンと胸が脈打った。
「ってか、委員長、そんなところに突っ立ってないで、座れば?」
ほら、と彼自身の隣の空間をポンポンと手の平で叩いて合図をする柳澤くん。
隣に座れってこと……?
私は遠慮がちに柳澤くんに近づき、そっと隣に腰を下ろした。
あまり男の子とこんな風に話すことなんて経験なかったからなのか、何だか緊張する……。
だけど、
「ちょっと、遠くね? 俺と委員長の心の距離?」
柳澤くんは、私と柳澤くんの間に空いた人ひとり座れそうな空間を見て、口を尖らせた。
「いや、そういうつもりじゃ……」
「あ、もしかして、嫌とか……?」
シュン……といった感じに、手元のギターに視線を落とす柳澤くん。
「嫌じゃない、けど……」
うぅ……。
何だかこれじゃあ、私が悪いことしてるみたいじゃない。
「じゃあ、来て……?」
甘えた感じにクルリとした瞳に見つめられて、逆らうことができなかった。
さっきよりも柳澤くんとの距離が近づく。
触れてなくても伝わってくる柳澤くんの温もりに、心臓の音がうるさい。
その心臓の音を柳澤くんに悟られないように、私は必死で言葉を探した。
「それにしても、柳澤くんはどうやって屋上に……?」
『立入禁止』の札がかかってるくらいだ。ここに繋がる鍵も厳重に管理されているはず。
「あー、ここね。委員長のこと信じて特別に教えるけど、これも秘密だからな」
そう言って、柳澤くんはポケットから銀色に光る鍵を取り出した。
「まさか、スペアキー?」
それを使って、柳澤くんはここへの扉の鍵を開けて入ってきていたということなのだろう。
でも、こんなのどうやって手に入れたのだろう?
「そんなものかな。あ、そんな目で見なくても、俺が作ったんじゃないからな」
よっぽど私の目が柳澤くんを責め立てているように見えたのか、慌てて弁解を始める柳澤くん。
そして柳澤くんはすくっと立ち上がって私の方へ身体を向けると、勢いよく頭を下げた。
「ごめんなさいでした!」
「へ……?」
ごめんなさいでした……?
何を謝られているのか分からない私は、頭を下げ続ける柳澤くんをただ茫然と眺めることしかできない。
むしろ、素敵な歌を聴かせてくれてありがとうって感じなんだけど……。
私が何も言わずに戸惑っているからか、恐る恐るといった感じに頭を上げる柳澤くん。
下向き加減の顔でこちらを見る柳澤くんの目は、若干上目遣いになっていて、男の子だというのに思わず可愛いと感じてしまった。
すると、柳澤くんは小さく口を開いた。
「……俺のこと、注意しに来たんじゃねーの?」
「……注意? どうして?」
あまりピンとこなくて首をかしげる。
「ほら、ここ、立入禁止だし……」
なるほど。真面目で堅いイメージのついてしまっている私が突然現れたから、柳澤くんは注意されると思ったのだろう。
私って、どこまで堅いイメージ持たれてるんだろう……?
思わず心の中で、小さく肩を落とす。
「注意なんてそんな、私はただ綺麗な歌声が聴こえたから、何ていうか……」
一言、素敵な歌声に惹かれてここに来たと言えばいいものの、なんだか恥ずかしくてたどたどしい口調になる。
そんな私を見て、柳澤くんはホッとしたようにハハッと笑った。
「え、そうなんだ。俺、てっきり委員長にここに居たこと注意されて、先生に告げ口されると思ったわ」
「そ、そんなことしないよ!」
私のイメージって……。
「放課後ここに居るのが見つかったの、委員長が初めてなんだ。だからマジで焦った」
「……そうなの?」
「ここに俺が居たこと、俺と委員長の秘密にしてくんね?」
ね? と両手を合わせて頭を下げながら、私を見つめる柳澤くん。
……だからその顔、反則だって!!
「……うん」
そんな可愛くお願いされると、断るなんてできないじゃない……。
「やった!」
ぱぁぁと表情を明るくして、柳澤くんは無邪気にガッツポーズなんて決めた。
「いや、マジで委員長、神! サンキューなっ!」
白い歯を見せて笑う、柳澤くん。
「う、うん……」
……可愛い。
思わず、トクンと胸が脈打った。
「ってか、委員長、そんなところに突っ立ってないで、座れば?」
ほら、と彼自身の隣の空間をポンポンと手の平で叩いて合図をする柳澤くん。
隣に座れってこと……?
私は遠慮がちに柳澤くんに近づき、そっと隣に腰を下ろした。
あまり男の子とこんな風に話すことなんて経験なかったからなのか、何だか緊張する……。
だけど、
「ちょっと、遠くね? 俺と委員長の心の距離?」
柳澤くんは、私と柳澤くんの間に空いた人ひとり座れそうな空間を見て、口を尖らせた。
「いや、そういうつもりじゃ……」
「あ、もしかして、嫌とか……?」
シュン……といった感じに、手元のギターに視線を落とす柳澤くん。
「嫌じゃない、けど……」
うぅ……。
何だかこれじゃあ、私が悪いことしてるみたいじゃない。
「じゃあ、来て……?」
甘えた感じにクルリとした瞳に見つめられて、逆らうことができなかった。
さっきよりも柳澤くんとの距離が近づく。
触れてなくても伝わってくる柳澤くんの温もりに、心臓の音がうるさい。
その心臓の音を柳澤くんに悟られないように、私は必死で言葉を探した。
「それにしても、柳澤くんはどうやって屋上に……?」
『立入禁止』の札がかかってるくらいだ。ここに繋がる鍵も厳重に管理されているはず。
「あー、ここね。委員長のこと信じて特別に教えるけど、これも秘密だからな」
そう言って、柳澤くんはポケットから銀色に光る鍵を取り出した。
「まさか、スペアキー?」
それを使って、柳澤くんはここへの扉の鍵を開けて入ってきていたということなのだろう。
でも、こんなのどうやって手に入れたのだろう?
「そんなものかな。あ、そんな目で見なくても、俺が作ったんじゃないからな」
よっぽど私の目が柳澤くんを責め立てているように見えたのか、慌てて弁解を始める柳澤くん。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
隣人はクールな同期でした。
氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。
30歳を前にして
未婚で恋人もいないけれど。
マンションの隣に住む同期の男と
酒を酌み交わす日々。
心許すアイツとは
”同期以上、恋人未満―――”
1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され
恋敵の幼馴染には刃を向けられる。
広報部所属
●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳)
編集部所属 副編集長
●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳)
本当に好きな人は…誰?
己の気持ちに向き合う最後の恋。
“ただの恋愛物語”ってだけじゃない
命と、人との
向き合うという事。
現実に、なさそうな
だけどちょっとあり得るかもしれない
複雑に絡み合う人間模様を描いた
等身大のラブストーリー。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる