58 / 59
8.エピローグ
(6)
しおりを挟む
「ったく、変なところで紗和は鋭いんだから」
亮也は少し決まりが悪そうに笑うと、照れ臭そうに口を開く。
「まぁ、紗和のことだから、変な誤解をされたら困るから言っとくけどさ。紗和とまた一緒に過ごせるってわかってからずっと、もし紗和の記憶が戻ったら、今日連れてったところに連れてってやりたいって考えてたんだ。婚約指輪は前々から紗和に似合いそうだと目をつけてた店があったし、もし記憶が戻ったらすぐにでもプロポーズしたいって思ってたから、ある程度の目星もつけていたんだ」
「そうなの?」
まさか私が記憶を取り戻す前から、いつか記憶を取り戻すことを信じてそんなことを考えてくれていたなんて思わなかった。
「あ、でも勘違いするなよ。俺は紗和の記憶がたとえ戻らなかったとしても、やっぱり紗和が好きで、いつか一緒になれたらなとは思ってたんだから」
「……えぇえっ!?」
さらに亮也が思いがけないことを言ってきて、思わずドキドキするのと同時に、浮かれたような気持ちになってしまう。
だってそれって……。
「それって、亮也は私が何も思い出せなかったとしても、それでも私と恋人同士になって、プロポーズしてくれたってこと?」
もし私の記憶が戻ってなかったら私の恋はどうなっていたんだろうとは、記憶が戻ってからも何度か疑問に思ったことはあった。
もしかしたら、亮也は昔の彼との思い出を持ち合わせた私がいいと思っているのかもしれないし……。
だけど亮也は、一瞬でも私がそう思ってしまったことを申し訳なく感じてしまうくらいに、真剣な表情でこう告げたのだ。
「当たり前だろ? どっちにしたって紗和にかわりないんだから。紗和が俺のことを思い出す前は、どうやってまた紗和を落とそうかそればかり考えてた。そのくらい再会したあとのきみも魅力的だったよ」
「本当に……?」
まさかそんな言葉までもらえるなんて、思わなかった。
でも本当なら、すごく嬉しい。
「ああ。もちろんだ」
至近距離で見つめ合ったのち、自然に私たちは唇を重ねていた。
それは瞬時に深い濃厚なキスに変わり、すぐに私の頭は蕩けてしまいそうになる。
時折、自分のとは思えないくらいに甘い声が口から漏れて、恥ずかしくなった。
この部屋に入ったときに緊張していたのが嘘みたいに、幾度となく貪るようなキスを繰り返しながら、ベッドの方へと二人転がり込んだ。
「あ……っ」
そして、バスローブの中に亮也の大きな手が滑り込んできて、ビクッと大きく反応した。
「可愛い」
そんな私を見て、クスリと笑う亮也。
みるみるうちに私の身にまとっていたものは取られて、素肌がさらされる。
行為が深まるにつれ、亮也が身にまとっていたバスローブを脱ぎ捨てたとき、私は思わず彼の身体のある部分に目を奪われた。
「亮也、それ……」
「……ああ」
お互いに息は切らしているものの、一旦頭が冷静に戻る。
亮也も、私の目線の先を追って、納得したようにうなずいた。
亮也の胸元や、左腕に数ヵ所、過去に大きな傷を負ったような痕があったのだ。
恐らくそれは、私が高校生のときに私を守ってくれたときに負った傷跡だ。
「ごめんなさい。私のせいで、こんなに痕になってるなんて……」
記憶が戻ってから、純粋にあのときの彼が無事だったことに安堵していた。
だけど、いくら日頃は服で隠れているとはいえ、今も残る痕が残っていたのだ。
私がその傷痕に指先を触れると、亮也はその手を取り、そっと口づける。
「紗和が気にすることじゃない。この傷痕のおかげで、今、紗和とこうすることができているんだから」
「……そうだったね。でも、ごめんね」
本当に、亮也の言う通りだ。
もしあのとき、私が亮也に助けられていなかったら、私は今ここにいなかったかも知れないんだ。
「紗和。こういうときは、ごめんじゃなくて?」
自分のことを犠牲にしてまで、命がけで私を守ってくれた亮也には感謝してもしきれない。
「……ありがとう」
思わず溢れた涙を、亮也が舐め取ってくれる。
少し落ち着いた私の胸元にあるペンダントトップを手に取ると、亮也は彼の胸元にずっとつけられていたそれとを、パズルのピースを重ねるように嵌め込んだ。
“Love is forever.”
そして、重ね合わせたことでひとつの文章になった言葉に、思わず止まっていた涙がまた溢れるのを感じる。
亮也はそんな私に、まるで誓いの言葉のように言ったのだ。
「これからは何があっても離さないから。一緒に幸せになろう」
「うん」
そして、お互いに吸い寄せられるように再び深いキスを交わした。
今度こそ、どんどん亮也によって私の身も心も溶かされていき、私たちは夜が更けるまで夢中で抱き合っていた。
二人の間にできてしまった十年分の空白を埋めるように、強く──。
亮也は少し決まりが悪そうに笑うと、照れ臭そうに口を開く。
「まぁ、紗和のことだから、変な誤解をされたら困るから言っとくけどさ。紗和とまた一緒に過ごせるってわかってからずっと、もし紗和の記憶が戻ったら、今日連れてったところに連れてってやりたいって考えてたんだ。婚約指輪は前々から紗和に似合いそうだと目をつけてた店があったし、もし記憶が戻ったらすぐにでもプロポーズしたいって思ってたから、ある程度の目星もつけていたんだ」
「そうなの?」
まさか私が記憶を取り戻す前から、いつか記憶を取り戻すことを信じてそんなことを考えてくれていたなんて思わなかった。
「あ、でも勘違いするなよ。俺は紗和の記憶がたとえ戻らなかったとしても、やっぱり紗和が好きで、いつか一緒になれたらなとは思ってたんだから」
「……えぇえっ!?」
さらに亮也が思いがけないことを言ってきて、思わずドキドキするのと同時に、浮かれたような気持ちになってしまう。
だってそれって……。
「それって、亮也は私が何も思い出せなかったとしても、それでも私と恋人同士になって、プロポーズしてくれたってこと?」
もし私の記憶が戻ってなかったら私の恋はどうなっていたんだろうとは、記憶が戻ってからも何度か疑問に思ったことはあった。
もしかしたら、亮也は昔の彼との思い出を持ち合わせた私がいいと思っているのかもしれないし……。
だけど亮也は、一瞬でも私がそう思ってしまったことを申し訳なく感じてしまうくらいに、真剣な表情でこう告げたのだ。
「当たり前だろ? どっちにしたって紗和にかわりないんだから。紗和が俺のことを思い出す前は、どうやってまた紗和を落とそうかそればかり考えてた。そのくらい再会したあとのきみも魅力的だったよ」
「本当に……?」
まさかそんな言葉までもらえるなんて、思わなかった。
でも本当なら、すごく嬉しい。
「ああ。もちろんだ」
至近距離で見つめ合ったのち、自然に私たちは唇を重ねていた。
それは瞬時に深い濃厚なキスに変わり、すぐに私の頭は蕩けてしまいそうになる。
時折、自分のとは思えないくらいに甘い声が口から漏れて、恥ずかしくなった。
この部屋に入ったときに緊張していたのが嘘みたいに、幾度となく貪るようなキスを繰り返しながら、ベッドの方へと二人転がり込んだ。
「あ……っ」
そして、バスローブの中に亮也の大きな手が滑り込んできて、ビクッと大きく反応した。
「可愛い」
そんな私を見て、クスリと笑う亮也。
みるみるうちに私の身にまとっていたものは取られて、素肌がさらされる。
行為が深まるにつれ、亮也が身にまとっていたバスローブを脱ぎ捨てたとき、私は思わず彼の身体のある部分に目を奪われた。
「亮也、それ……」
「……ああ」
お互いに息は切らしているものの、一旦頭が冷静に戻る。
亮也も、私の目線の先を追って、納得したようにうなずいた。
亮也の胸元や、左腕に数ヵ所、過去に大きな傷を負ったような痕があったのだ。
恐らくそれは、私が高校生のときに私を守ってくれたときに負った傷跡だ。
「ごめんなさい。私のせいで、こんなに痕になってるなんて……」
記憶が戻ってから、純粋にあのときの彼が無事だったことに安堵していた。
だけど、いくら日頃は服で隠れているとはいえ、今も残る痕が残っていたのだ。
私がその傷痕に指先を触れると、亮也はその手を取り、そっと口づける。
「紗和が気にすることじゃない。この傷痕のおかげで、今、紗和とこうすることができているんだから」
「……そうだったね。でも、ごめんね」
本当に、亮也の言う通りだ。
もしあのとき、私が亮也に助けられていなかったら、私は今ここにいなかったかも知れないんだ。
「紗和。こういうときは、ごめんじゃなくて?」
自分のことを犠牲にしてまで、命がけで私を守ってくれた亮也には感謝してもしきれない。
「……ありがとう」
思わず溢れた涙を、亮也が舐め取ってくれる。
少し落ち着いた私の胸元にあるペンダントトップを手に取ると、亮也は彼の胸元にずっとつけられていたそれとを、パズルのピースを重ねるように嵌め込んだ。
“Love is forever.”
そして、重ね合わせたことでひとつの文章になった言葉に、思わず止まっていた涙がまた溢れるのを感じる。
亮也はそんな私に、まるで誓いの言葉のように言ったのだ。
「これからは何があっても離さないから。一緒に幸せになろう」
「うん」
そして、お互いに吸い寄せられるように再び深いキスを交わした。
今度こそ、どんどん亮也によって私の身も心も溶かされていき、私たちは夜が更けるまで夢中で抱き合っていた。
二人の間にできてしまった十年分の空白を埋めるように、強く──。
0
お気に入りに追加
238
あなたにおすすめの小説
溺愛彼氏は消防士!?
すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。
「別れよう。」
その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。
飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。
「男ならキスの先をは期待させないとな。」
「俺とこの先・・・してみない?」
「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」
私の身は持つの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。
※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
じれったい夜の残像
ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、
ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。
そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。
再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。
再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、
美咲は「じれったい」感情に翻弄される。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
夢見るシンデレラ~溺愛の時間は突然に~
美和優希
恋愛
社長秘書を勤めながら、中瀬琴子は密かに社長に想いを寄せていた。
叶わないだろうと思いながらもあきらめきれずにいた琴子だったが、ある日、社長から告白される。
日頃は紳士的だけど、二人のときは少し意地悪で溺甘な社長にドキドキさせられて──!?
初回公開日*2017.09.13(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.03.10
*表紙イラストは、イラストAC(もちまる様)のイラスト素材を使わせていただいてます。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。※R6.5/18お気に入り登録300超に感謝!一話書いてみましたので是非是非!
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。 ※R7.2/22お気に入り登録500を超えておりましたことに感謝を込めて、一話お届けいたします。本当にありがとうございます。
こじらせ女子の恋愛事情
あさの紅茶
恋愛
過去の恋愛の失敗を未だに引きずるこじらせアラサー女子の私、仁科真知(26)
そんな私のことをずっと好きだったと言う同期の宗田優くん(26)
いやいや、宗田くんには私なんかより、若くて可愛い可憐ちゃん(女子力高め)の方がお似合いだよ。
なんて自らまたこじらせる残念な私。
「俺はずっと好きだけど?」
「仁科の返事を待ってるんだよね」
宗田くんのまっすぐな瞳に耐えきれなくて逃げ出してしまった。
これ以上こじらせたくないから、神様どうか私に勇気をください。
*******************
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
その出会い、運命につき。
あさの紅茶
恋愛
背が高いことがコンプレックスの平野つばさが働く薬局に、つばさよりも背の高い胡桃洋平がやってきた。かっこよかったなと思っていたところ、雨の日にまさかの再会。そしてご飯を食べに行くことに。知れば知るほど彼を好きになってしまうつばさ。そんなある日、洋平と背の低い可愛らしい女性が歩いているところを偶然目撃。しかもその女性の名字も“胡桃”だった。つばさの恋はまさか不倫?!悩むつばさに洋平から次のお誘いが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる