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8.エピローグ

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 *


 客室の廊下の床も、さっきまでのレストランやフロントとは違う色合いではあるが、ふかふかと気持ちのいいカーペットになっていた。



「ここみたいだな」


 亮也が予約してくれていた部屋につくと、ルームキーを通してドアを開けて中に入る。

 ルームキーのカードを入り口入ってすぐのキーケースに差し込めば、照明で照らされた広々とした部屋が視界に飛び込んだ。

 キングサイズのダブルベッドに、座り心地の良さそうなソファー、大型のテレビ。


「うわぁ~!」


 そして私は思わず窓の方へ駆け寄り、目の前に広がる光景に見入っていた。


 入り口から入った先、正面に見える窓からは、私たちの地元の夜景を堪能することができる。

 亮也のマンションの部屋から見えるきらびやかな都会の夜景とはまた違い、都会ほど眩しくはないものの幻想的な空間を作り出している。


「気に入った?」

「うん。とっても」


 私に続いて窓の方へと歩いてくる亮也にそうこたえるのと同時に、私は背後から亮也に抱きしめられていた。


「それなら良かった。夜はまだ始まったばかりだし、どうする? これから」


 そう聞かれて、思わずドキンと胸が飛び跳ねた。


「ど、どうって……?」


 平然を装って亮也の方へ振り返ろうとするも、さっきも視界に入ったキングサイズのベッドが今度は異様なくらいに存在感を増して視界に入ってきて、余計にドキドキさせられる。


 亮也には深い意味はなかったのかもしれないけれど、思わず私はこのあとの展開を考えてしまった。


 私が高校生の頃は、亮也とはキスまではしていた記憶はあるものの、その先には進んでいなかった。

 私の記憶が戻ってからも、ずっと亮也は忙しくしていたこともあって、想いを通わせたとはいえなかなかそんな雰囲気にはならなかった。

 だから、こうして大人になって恋人としてゆっくり二人で過ごす夜というのは、実は今夜が初めてなのだ。


 うわぁ、どうしよう。考えれば考えるほど緊張してくるよ……。


「紗和……?」

「は、はい……っ」


 私がドキドキし過ぎて固まってしまっていたからだろう。

 不思議そうにかけられた亮也の声に、過剰なくらいに反応してしまった。

 そんな私を見て、おかしそうに笑う亮也。


「可愛い。何、期待してるの?」

「……え、っと。そういうんじゃ、なくて……」

「そういうのって?」


 色っぽい声で囁かれると同時に私の顎を持ち上げられて、至近距離で見つめ合う。

 そして、次の瞬間には私の唇は亮也のそれによって塞がれていた。


 何となくだけど私の考えていたことは亮也にはお見通しで、それをわかってて聞いてきてるんだろうと思った。

 本当にこういうときだけ亮也は意地悪だ。普段はすごく優しいのに。


「怒らないでよ。俺も、紗和と同じ気持ちだから」

「も、もう……っ!」


 唇が離れた瞬間に囁かれた言葉に、思わず頬が熱くなる。

 けれど、すぐにまた私の唇は塞がれてしまった。


 少し唇が離れる度に吸い付くように繰り返される口づけを何度も繰り返しているうちに、私の思考はいとも簡単に奪われてしまう。

 それはだんだんと触れ合うだけではもどかしくなってきて、深いものへと変わっていった。


 キスに頭が溶かされそうになったところで、亮也は唇を離した。


「俺、そろそろ止まらなくなりそうだけど、シャワー浴びたい?」

「あ……うん」


 このまま亮也とその先まで進んでしまうのかなと思ったけれど、できるならシャワーは浴びたい。

 一日動き回ったあとだし……。


「じゃあ、先、浴びてきていいよ」

「う、うん……」


 目の前にはいつも以上に色っぽい亮也の顔があって、先程までの濃厚なキスを思い返してすごく恥ずかしくなってしまった。


 *


 シャワーを浴びたあと、大きなベッドの端に座って夜景を見ながら亮也のことを待っていると、少しして私とお揃いのバスローブを身にまとった亮也が浴室から戻ってきた。

 亮也が私のすぐ隣に腰を下ろしたことで、触れてなくてもシャワーで上昇した亮也の体温が私にまで伝わってくる。

 亮也の手に右手を重ねると、私はまだ馴れない感触のある左手の薬指を私たちの目の前にかざす。


「綺麗……」


 夕陽に照らされる思い出の観覧車の中で、亮也からもらったキラリと輝くダイヤの指輪だ。

 亮也に身体を預けると、亮也もそんな私に寄りかかってくる。


「亮也、今日は本当にありがとう。すごく幸せな日になったよ。いつの間にこんなに用意してくれてたの?」


 私の記憶が戻ってからまだ二週間が過ぎたところだ。

 しかもその間、亮也の仕事はてんこ盛りだったというのに、これだけのデートを企画して、予約も入れて、さらには婚約指輪まで用意してくれていたんだ。

 とてもじゃないけれど、たった二週間で一から用意したとは思えない。
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