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8.エピローグ
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観覧車を降りたあとは、再び車での移動となった。
日が暮れて辺りがすっかり暗くなった頃に着いたのは、この辺りの地域では最も高級と言われているホテルだった。
少し他よりも高い土地に建てられたホテルからは、きらびやかな街並みから夜の色に染まった遠くの海まで一望することができる。
ディナーは、そこの二階にあるレストランでフレンチをご馳走してくれるそうだ。
目的地のレストランにたどり着くなり、私はその空間に思わず息を呑んだ。
暖かみのある色合いのカーペットにオシャレな照明、真っ白なテーブルクロス。さらにはステージのようになっているところにはグランドピアノが置かれ、穏やかなピアノの生演奏まで堪能できる空間になっている。
見る限りここに食べに来ている他のお客さんはザ・セレブのように見えるし、こんな素敵なところに連れてきてもらえて嬉しい反面、今更になって自分自身のテーブルマナーが心配になった。
案内された席に座ってもそれは変わらず、どうも気持ちが落ち着かなくて、メニュー表を手にとって眺めては机に置く動作を三回くらい繰り返してしまった。
そんな私を見てなのだろう、亮也がおかしげに笑った。
「紗和、緊張しているのか?」
「そりゃ緊張するよ。亮也はしないの?」
亮也はこんなに高級感溢れるレストラン内でも、至って普段通りだ。
亮也はこういうところには慣れてそうだから、緊張なんてしないのかもしれない。
「俺が緊張してないように見える?」
「うん」
「即答かよ」
肩を揺らして笑う亮也はとても楽しそうで、どう頑張っても私が亮也に敵うわけないとわかっていても何だか負けたような気持ちになる。
だけど亮也の口から語られたのは、思いがけない言葉だった。
「俺だって緊張くらいする。今はまぁ、昼に比べたら全然緊張してないけどさ」
亮也はそれだけ言うと、テーブルのすぐそばにある窓の外に視線を移して頬を赤く染める。
昼って……。
私が亮也にプロポーズしてもらったのは、今日の夕方だ。
もしかして、亮也はそのせいでお昼は緊張をしていたということだろうか……?
何だか自分のために亮也が緊張してくれていたなんて、嬉しくて幸せで。さらにはそれを口にして顔を赤くするだなんて、普段は見られない亮也の可愛い姿に思わず笑みがこぼれた。
だって、いつも私ばっかりドキドキさせられてるように感じるから。たまにこういう亮也の姿を見せてもらえると、すごく嬉しい。
そうしている間に私たちの前のグラスにはスパークリングワインが注がれて、前菜が運ばれてくる。
「じゃあ、お祝いの乾杯をしようか」
「うん」
ようやく亮也は私の方に視線を戻す。まだ少し亮也は照れ臭そうにしていたけれど、お互いにスパークリングワインの入ったグラスで乾杯した。
「紗和の記憶が戻ったこと、俺と紗和がまた一緒になれたこと、そして紗和が俺のプロポーズを受けてくれたことに乾杯」
「乾杯」
亮也と話したり乾杯したりしているうちに、いつの間にか緊張もほぐれて、気づいたときにはリラックスして運ばれてくる料理を楽しめていた。
スープもメインのお肉料理もお魚もとても美味しくて、デザートもまた格別だった。
そうして料理を堪能したあと、会話をしながらホテルの駐車場の方に向かおうとしていたところで亮也に引き留められた。
「紗和、どこに行く。こっちだ」
「……え?」
亮也の方を見ると、レストランと同じフロアにあるホテルのフロントのところで何かしら受け取っている。
それがホテルのルームキーのカードだということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
まさかここのホテルの部屋まで取ってくれているということだろうか。
確かに今日はどこかに一泊する予定だとは聞かされていたけれど、何だかこんな高級感溢れるホテルに宿泊までさせてもらうなんてものすごく気が引ける。
「ほら、行こう。荷物はもう部屋に持っていってもらってるから」
「いつの間に……」
「さて、いつでしょう」
そんな風に少しおどけて言う亮也は、完全に副社長の顔ではなくてプライベートの顔だ。
亮也のそんな部分を独り占めできるのは嬉しい。
私は亮也に連れられて、客室へと繋がるエレベーターホールの方へと向かった。
観覧車を降りたあとは、再び車での移動となった。
日が暮れて辺りがすっかり暗くなった頃に着いたのは、この辺りの地域では最も高級と言われているホテルだった。
少し他よりも高い土地に建てられたホテルからは、きらびやかな街並みから夜の色に染まった遠くの海まで一望することができる。
ディナーは、そこの二階にあるレストランでフレンチをご馳走してくれるそうだ。
目的地のレストランにたどり着くなり、私はその空間に思わず息を呑んだ。
暖かみのある色合いのカーペットにオシャレな照明、真っ白なテーブルクロス。さらにはステージのようになっているところにはグランドピアノが置かれ、穏やかなピアノの生演奏まで堪能できる空間になっている。
見る限りここに食べに来ている他のお客さんはザ・セレブのように見えるし、こんな素敵なところに連れてきてもらえて嬉しい反面、今更になって自分自身のテーブルマナーが心配になった。
案内された席に座ってもそれは変わらず、どうも気持ちが落ち着かなくて、メニュー表を手にとって眺めては机に置く動作を三回くらい繰り返してしまった。
そんな私を見てなのだろう、亮也がおかしげに笑った。
「紗和、緊張しているのか?」
「そりゃ緊張するよ。亮也はしないの?」
亮也はこんなに高級感溢れるレストラン内でも、至って普段通りだ。
亮也はこういうところには慣れてそうだから、緊張なんてしないのかもしれない。
「俺が緊張してないように見える?」
「うん」
「即答かよ」
肩を揺らして笑う亮也はとても楽しそうで、どう頑張っても私が亮也に敵うわけないとわかっていても何だか負けたような気持ちになる。
だけど亮也の口から語られたのは、思いがけない言葉だった。
「俺だって緊張くらいする。今はまぁ、昼に比べたら全然緊張してないけどさ」
亮也はそれだけ言うと、テーブルのすぐそばにある窓の外に視線を移して頬を赤く染める。
昼って……。
私が亮也にプロポーズしてもらったのは、今日の夕方だ。
もしかして、亮也はそのせいでお昼は緊張をしていたということだろうか……?
何だか自分のために亮也が緊張してくれていたなんて、嬉しくて幸せで。さらにはそれを口にして顔を赤くするだなんて、普段は見られない亮也の可愛い姿に思わず笑みがこぼれた。
だって、いつも私ばっかりドキドキさせられてるように感じるから。たまにこういう亮也の姿を見せてもらえると、すごく嬉しい。
そうしている間に私たちの前のグラスにはスパークリングワインが注がれて、前菜が運ばれてくる。
「じゃあ、お祝いの乾杯をしようか」
「うん」
ようやく亮也は私の方に視線を戻す。まだ少し亮也は照れ臭そうにしていたけれど、お互いにスパークリングワインの入ったグラスで乾杯した。
「紗和の記憶が戻ったこと、俺と紗和がまた一緒になれたこと、そして紗和が俺のプロポーズを受けてくれたことに乾杯」
「乾杯」
亮也と話したり乾杯したりしているうちに、いつの間にか緊張もほぐれて、気づいたときにはリラックスして運ばれてくる料理を楽しめていた。
スープもメインのお肉料理もお魚もとても美味しくて、デザートもまた格別だった。
そうして料理を堪能したあと、会話をしながらホテルの駐車場の方に向かおうとしていたところで亮也に引き留められた。
「紗和、どこに行く。こっちだ」
「……え?」
亮也の方を見ると、レストランと同じフロアにあるホテルのフロントのところで何かしら受け取っている。
それがホテルのルームキーのカードだということに気づくのに、そう時間はかからなかった。
まさかここのホテルの部屋まで取ってくれているということだろうか。
確かに今日はどこかに一泊する予定だとは聞かされていたけれど、何だかこんな高級感溢れるホテルに宿泊までさせてもらうなんてものすごく気が引ける。
「ほら、行こう。荷物はもう部屋に持っていってもらってるから」
「いつの間に……」
「さて、いつでしょう」
そんな風に少しおどけて言う亮也は、完全に副社長の顔ではなくてプライベートの顔だ。
亮也のそんな部分を独り占めできるのは嬉しい。
私は亮也に連れられて、客室へと繋がるエレベーターホールの方へと向かった。
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