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7.繋がる想い
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「捨てるに捨てられなかったし、無事に本人に返せてよかったけどな。あんときは大変だった。お前が亮也のことを話してそうな友達を当たっては、事情を説明して回ったし。俺の大学一年の夏休みは紗和のことで動いているうちに終わったよ」
「そうだったんだ。全然知らなかった……」
「そりゃ気づかれないようにやったんだからな。ま、結局、そこまでしておいて、いつまでも紗和を一途に待ち続ける亮也を見ていられなくて、あのタイミングを利用して紗和と接触させちゃったけどな」
お兄ちゃんにそんなことを言われて、亮也は顔を赤く染めてそっぽ向いていた。けれどそんな彼もまた可愛くて、副社長としての彼とのギャップに胸がきゅんとした。
それに私としては亮也とまた昔のような関係に戻れたのだから、本当に結果オーライだと思ってる。
自分自身でもなかなか記憶を取り戻せずにいたとはいえ、ここまで私が無理に思い出させないようにしてくれていたなんて、思いもしなかった。
私としてはもっと早く記憶を取り戻して、高校生のときの事故で亮也に助けてもらったお礼を言いたかったし、あのとき怪我をさせてしまったことも謝りたかった。
だけどお兄ちゃんや亮也の気持ちを聞くと、わざわざ思い出す可能性のある事柄から意図的に私を遠ざけていたことに関して、全く責める気持ちにはなれなかった。
*
週が開けて、私はいつも通り会社に出勤した。
私と亮也の関係に変化があったとはいえ、会社では今まで通り副社長と秘書として過ごしている。
そして、その週の金曜日、茉友香から私に会いに来てくれることになったんだ。
以前、福田くんに誘われたときには茉友香と会えなかったので、会うのは本当に久しぶりだ。
茉友香から最初に直接連絡が入ったときは、本当に驚いた。
どうやら茉友香は、福田くんから私が事故に遭ったと聞いていたらしい。
さらに福田くんは私が救急車で運ばれるところまでしか知らなかったらしく、福田くんからそのことを聞いた茉友香も、気が気じゃなかったんだとか。
だから切羽詰まったようなメッセージを茉友香から受信していたことに気づいたとき、本当に申し訳なく思った。
茉友香は私のことを気遣って元気な姿を見たらすぐに帰ると言ってくれていた。けれど、せっかく一年以上会っていなかった茉友香と会えるのならゆっくり話したいと思い、この日の夜は茉友香と食べに行くことにしたんだ。
場所は、茉友香がこっちに来てくれるらしく、会社の近くのイタリアン料理店。
チェーン店らしく、茉友香がおすすめだからと予約してくれた。
金曜日当日の夜、仕事が終わって待ち合わせ場所のイタリアン料理店に向かうと、もうすでにお店の前に茉友香の姿があった。
「久しぶりー! 思ってたより元気そうでよかった」
「本当に久しぶり。幸いにも怪我もなくて……。心配かけてごめんね」
しばらく会ってなかったとはいえ、茉友香は昔と変わらないショートボブ姿で、何となく安心した。
「記憶が戻ったって本当!? しかもまたあの彼と付き合うことになったって……!」
そして茉友香は興奮気味に言って、こちらに駆け寄ってきた。
「……うん」
お兄ちゃんの話では、私が記憶をなくしたとき、中学のときからの親友だった茉友香に一番に連絡を取って協力を頼んだらしい。
その話を聞いて、私のことを心配して連絡をくれた茉友香には、私が記憶を取り戻したことを話していた。
それと同時に、再び私と亮也が付き合い始めることになったことも一緒に話した。
とはいえ、メッセージのやり取りでは、私が記憶を取り戻して亮也と再び一緒になったことに対してあまり茉友香が突っ込んで聞いてくるようなことはなかったから、真っ先に聞かれて驚いた。
それに、思い出したばかりの高校時代の記憶では、茉友香に恋バナをしていた記憶までは曖昧だったから、こうして亮也の話をするのは少し変な感じもする。
「彼との間に思い出せなくなるくらいに辛いことがあったんだって以前紗和のお兄さんから聞いてたから、記憶が戻ったって紗和から聞いたときは心配したけれど、幸せそうでよかったよ」
茉友香はホッとしたような表情で笑った。
その表情からも、茉友香にもこれまでずっと自分のことを心配させていたんだとわかった。
「ありがとう、茉友香」
「すまん、木下っ!」
そのとき、私の声に被さるようにして茉友香の後方から知っている低い声が響いた。
「広治、あんた何しに来たのよ!」
茉友香が目を見開いて振り返った先には、福田くんの姿があった。
「そうだったんだ。全然知らなかった……」
「そりゃ気づかれないようにやったんだからな。ま、結局、そこまでしておいて、いつまでも紗和を一途に待ち続ける亮也を見ていられなくて、あのタイミングを利用して紗和と接触させちゃったけどな」
お兄ちゃんにそんなことを言われて、亮也は顔を赤く染めてそっぽ向いていた。けれどそんな彼もまた可愛くて、副社長としての彼とのギャップに胸がきゅんとした。
それに私としては亮也とまた昔のような関係に戻れたのだから、本当に結果オーライだと思ってる。
自分自身でもなかなか記憶を取り戻せずにいたとはいえ、ここまで私が無理に思い出させないようにしてくれていたなんて、思いもしなかった。
私としてはもっと早く記憶を取り戻して、高校生のときの事故で亮也に助けてもらったお礼を言いたかったし、あのとき怪我をさせてしまったことも謝りたかった。
だけどお兄ちゃんや亮也の気持ちを聞くと、わざわざ思い出す可能性のある事柄から意図的に私を遠ざけていたことに関して、全く責める気持ちにはなれなかった。
*
週が開けて、私はいつも通り会社に出勤した。
私と亮也の関係に変化があったとはいえ、会社では今まで通り副社長と秘書として過ごしている。
そして、その週の金曜日、茉友香から私に会いに来てくれることになったんだ。
以前、福田くんに誘われたときには茉友香と会えなかったので、会うのは本当に久しぶりだ。
茉友香から最初に直接連絡が入ったときは、本当に驚いた。
どうやら茉友香は、福田くんから私が事故に遭ったと聞いていたらしい。
さらに福田くんは私が救急車で運ばれるところまでしか知らなかったらしく、福田くんからそのことを聞いた茉友香も、気が気じゃなかったんだとか。
だから切羽詰まったようなメッセージを茉友香から受信していたことに気づいたとき、本当に申し訳なく思った。
茉友香は私のことを気遣って元気な姿を見たらすぐに帰ると言ってくれていた。けれど、せっかく一年以上会っていなかった茉友香と会えるのならゆっくり話したいと思い、この日の夜は茉友香と食べに行くことにしたんだ。
場所は、茉友香がこっちに来てくれるらしく、会社の近くのイタリアン料理店。
チェーン店らしく、茉友香がおすすめだからと予約してくれた。
金曜日当日の夜、仕事が終わって待ち合わせ場所のイタリアン料理店に向かうと、もうすでにお店の前に茉友香の姿があった。
「久しぶりー! 思ってたより元気そうでよかった」
「本当に久しぶり。幸いにも怪我もなくて……。心配かけてごめんね」
しばらく会ってなかったとはいえ、茉友香は昔と変わらないショートボブ姿で、何となく安心した。
「記憶が戻ったって本当!? しかもまたあの彼と付き合うことになったって……!」
そして茉友香は興奮気味に言って、こちらに駆け寄ってきた。
「……うん」
お兄ちゃんの話では、私が記憶をなくしたとき、中学のときからの親友だった茉友香に一番に連絡を取って協力を頼んだらしい。
その話を聞いて、私のことを心配して連絡をくれた茉友香には、私が記憶を取り戻したことを話していた。
それと同時に、再び私と亮也が付き合い始めることになったことも一緒に話した。
とはいえ、メッセージのやり取りでは、私が記憶を取り戻して亮也と再び一緒になったことに対してあまり茉友香が突っ込んで聞いてくるようなことはなかったから、真っ先に聞かれて驚いた。
それに、思い出したばかりの高校時代の記憶では、茉友香に恋バナをしていた記憶までは曖昧だったから、こうして亮也の話をするのは少し変な感じもする。
「彼との間に思い出せなくなるくらいに辛いことがあったんだって以前紗和のお兄さんから聞いてたから、記憶が戻ったって紗和から聞いたときは心配したけれど、幸せそうでよかったよ」
茉友香はホッとしたような表情で笑った。
その表情からも、茉友香にもこれまでずっと自分のことを心配させていたんだとわかった。
「ありがとう、茉友香」
「すまん、木下っ!」
そのとき、私の声に被さるようにして茉友香の後方から知っている低い声が響いた。
「広治、あんた何しに来たのよ!」
茉友香が目を見開いて振り返った先には、福田くんの姿があった。
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