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6.大切な人
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福田くんは何もしゃべらない私の様子をうかがいながら、また以前と同じような言葉を投げ掛ける。
「木下は副社長の何を知ってそんなことを言うのって、前俺に言ってきたけどさ。俺、知ってるんだ、あいつの過去」
副社長の過去、そのワードに思わず弾かれるように顔を上げた。
福田くんが何を知っているのかわからない。何の根拠もないけれど、副社長の過去を知ることで、もしかしたら副社長の大切な人のことについて知ることができるんじゃないかって思ってしまった。
でも仮にそうだとして、それが私が傷つくことと一体どう関係してくるのだろうか。
福田くんには、私の副社長への気持ちは知られていないと思うのだけど……。
しかも、副社長のことを“あいつ”呼ばわりしたことも気にかかる。
私と目が合ったのを、福田くんは私が会話の続きを促していると捉えたのだろう。
だけど、福田くんは少しためらうように口を開いた。
「俺の口から言っていいのかも、このこと自体を木下に言っていいのかもわからない。けど……」
「何?」
副社長の過去が絡んでいるとなれば、その言葉の続きが気になって、思わず急かすような言い方をしてしまう。
「あいつ、十年前に木下と──」
「紗和」
そのとき突然私の背後から聞こえた声に、ビクリとして思わず背筋が伸びる。
「副社長……」
副社長は私の名前をはっきりと呼んだあと、無言でこちらに来て私の腕をつかむと、私を副社長の方へと引き寄せる。
その弾みで、私の肩が副社長に軽くぶつかるように触れて、思わずドキンと胸が飛び跳ねる。
「きみは営業課の福田くんだね。彼女に何か用か?」
「……いえ。偶然会社を出たところで会ったので話していただけです」
福田くんは口ではそう言っていたけれど、不満げな表情は隠しきれていなかった。
さすがに相手が副社長なだけあって、本人を前にして文句を言うことはできないのだろう。
「そう。ひとつ言っておくが、紗和は俺のものだから。これ以上手を出すなよ」
副社長はそう言って福田くんをちらりと見たあと、私の手を引いて歩き出す。
え!? えぇえ~~!?
何がどうなっているのかわからなくて、思わず心の中で悲鳴を上げる。
さすがにいきなり名前呼びで、さらに紗和は俺のものだなんて副社長に言われて、思わずドキンとしてしまう。
だけど、明らかにいつもと様子の違う副社長に戸惑っているのも事実。
私は副社長に手を引かれながら、さすがに話の先を促していただけあって福田くんの方へ振り返り際に“ごめんね”と、副社長に繋がれていない方の手で口の前に手のひらを立てておいた。
副社長は何を言うでもなく、ずんずんずんと大通りの歩道を歩いていく。
私はそれに引っ張られるようにして歩く。
「あの、副社長……?」
「何だ?」
抑揚のない短い返事。
何となく感じていたけれど、副社長は怒っているのだろうか。
すぐそばの道路を車が行き交う度に、私と副社長の顔を照らす。
その度に見えた副社長の顔は、どこか強ばっているようだった。
「さっきは、その、すみません……」
怒らせてしまったのなら謝らなければと思ってそう言うと、副社長はピタリとその場に足を止めた。
そして、酷く切羽詰まったような声でこう聞いてきたのだ。
「あいつに何もされなかったか?」
「……はい。すみません、心配していただいて」
「それならよかった。あいつと二人でいるのが社内から見えて、慌てて出てきたんだ」
もしかしなくても、副社長はものすごく心配してくれていたということだ。
以前、私が福田くんから逃げてるところを助けてもらったことがあるからなのだろう。
今回に関しては大丈夫だったし、むしろもう少し副社長が会社から出てくるのが遅かったら福田くんのあの言葉の続きを聞けたのにと思ってしまうところもあるけれど、心配してもらえること自体は嬉しい。
「木下は副社長の何を知ってそんなことを言うのって、前俺に言ってきたけどさ。俺、知ってるんだ、あいつの過去」
副社長の過去、そのワードに思わず弾かれるように顔を上げた。
福田くんが何を知っているのかわからない。何の根拠もないけれど、副社長の過去を知ることで、もしかしたら副社長の大切な人のことについて知ることができるんじゃないかって思ってしまった。
でも仮にそうだとして、それが私が傷つくことと一体どう関係してくるのだろうか。
福田くんには、私の副社長への気持ちは知られていないと思うのだけど……。
しかも、副社長のことを“あいつ”呼ばわりしたことも気にかかる。
私と目が合ったのを、福田くんは私が会話の続きを促していると捉えたのだろう。
だけど、福田くんは少しためらうように口を開いた。
「俺の口から言っていいのかも、このこと自体を木下に言っていいのかもわからない。けど……」
「何?」
副社長の過去が絡んでいるとなれば、その言葉の続きが気になって、思わず急かすような言い方をしてしまう。
「あいつ、十年前に木下と──」
「紗和」
そのとき突然私の背後から聞こえた声に、ビクリとして思わず背筋が伸びる。
「副社長……」
副社長は私の名前をはっきりと呼んだあと、無言でこちらに来て私の腕をつかむと、私を副社長の方へと引き寄せる。
その弾みで、私の肩が副社長に軽くぶつかるように触れて、思わずドキンと胸が飛び跳ねる。
「きみは営業課の福田くんだね。彼女に何か用か?」
「……いえ。偶然会社を出たところで会ったので話していただけです」
福田くんは口ではそう言っていたけれど、不満げな表情は隠しきれていなかった。
さすがに相手が副社長なだけあって、本人を前にして文句を言うことはできないのだろう。
「そう。ひとつ言っておくが、紗和は俺のものだから。これ以上手を出すなよ」
副社長はそう言って福田くんをちらりと見たあと、私の手を引いて歩き出す。
え!? えぇえ~~!?
何がどうなっているのかわからなくて、思わず心の中で悲鳴を上げる。
さすがにいきなり名前呼びで、さらに紗和は俺のものだなんて副社長に言われて、思わずドキンとしてしまう。
だけど、明らかにいつもと様子の違う副社長に戸惑っているのも事実。
私は副社長に手を引かれながら、さすがに話の先を促していただけあって福田くんの方へ振り返り際に“ごめんね”と、副社長に繋がれていない方の手で口の前に手のひらを立てておいた。
副社長は何を言うでもなく、ずんずんずんと大通りの歩道を歩いていく。
私はそれに引っ張られるようにして歩く。
「あの、副社長……?」
「何だ?」
抑揚のない短い返事。
何となく感じていたけれど、副社長は怒っているのだろうか。
すぐそばの道路を車が行き交う度に、私と副社長の顔を照らす。
その度に見えた副社長の顔は、どこか強ばっているようだった。
「さっきは、その、すみません……」
怒らせてしまったのなら謝らなければと思ってそう言うと、副社長はピタリとその場に足を止めた。
そして、酷く切羽詰まったような声でこう聞いてきたのだ。
「あいつに何もされなかったか?」
「……はい。すみません、心配していただいて」
「それならよかった。あいつと二人でいるのが社内から見えて、慌てて出てきたんだ」
もしかしなくても、副社長はものすごく心配してくれていたということだ。
以前、私が福田くんから逃げてるところを助けてもらったことがあるからなのだろう。
今回に関しては大丈夫だったし、むしろもう少し副社長が会社から出てくるのが遅かったら福田くんのあの言葉の続きを聞けたのにと思ってしまうところもあるけれど、心配してもらえること自体は嬉しい。
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