イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希

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6.大切な人

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 副社長が寝ぼけて私を抱きしめた次の日の朝。

 私が朝起きた時点で、副社長はリビングのソファーの上にはいなかった。

 いつ起きたのかはわからないけれど、どこかのタイミングで自分の部屋に戻ったのだろうと思う。

 副社長の姿がないことに安堵する気持ちと、ほんの少し残念に思う気持ちとあった。


 それから朝食をこしらえていると、いつもよりも少し早く副社長はリビングに現れた。

 副社長は昨夜のことについて、ものすごく申し訳なさそうに謝ってきた。

 自分でも寝てしまうと思わなかったって。

 ソファーで寝てしまったのは、それだけ副社長が日々頑張っていて疲れていたのだから仕方がないことだと私も思う。


 そして、寝ぼけて私を抱きしめたことに関しては何か心当たりでもあるのか、「俺はきみに何かしでかさなかったか?」と心配げにたずねられた。

 だけど、そんなことを素直にこたえられるはずがない。


 だから私は、あえて何もなかったことにしたんだ。

 きっとその方がお互いのためだと思ったし、副社長に言ったことで変に彼とぎくしゃくしてしまったら嫌だったから。


 そんな感じで、まるで何事もなかったかのように私は振る舞っているけれど、平然を装うのがやっとだ。


 そんな風に数日が経った昼過ぎ。午前の業務を終えて一旦秘書課のオフィスに寄ると、たまたま休憩のタイミングが被った課長と顔を合わせた。


「あら、木下さん。お疲れさま」

「お疲れさまです……」


 副社長に抱きしめられたというハプニングから完全に頭から抜け落ちてしまっていたけれど、私は副社長と課長の関係についても悩んでいたんだ。


 ここ何日かは、運が良いのか課長とタイミングが合わなくて、あまり顔を合わせる機会がなくて助かった。


 お兄ちゃんは課長と副社長が恋人同士だなんてあり得ないって笑い飛ばしていたとはいえ、やっぱり真相ははっきりしてないわけだし、課長を見ると二人が抱き合ってるところが連動して頭の中に出てくるから辛い。


「よかったら、またお昼一緒しない?」


 にこりと笑みを浮かべる課長からは、ランチのお誘いが飛び出す。

 本音を言うと気が乗らなかった。

 だけど、そんな私の心境を知るよしもない課長の申し出を断れるはずない。


「……はい」


 私は内心気乗りしないまま、課長とランチを共にすることになってしまったのだった。



 課長に連れてこられたのは、最初にも来たインドカレーのお店。

 一応私の希望は聞かれたけれど、課長にお任せしたんだ。

 本当に課長はここのお店が気に入ってるらしく、来れるときは毎日でもここに通っているらしい。


 課長も私も前回一緒に来たときと同じメニューを注文する。


「今日はあなたと一緒にランチに来れてよかったわ。最近誘おうと思っても、私とあなたの昼休憩のタイミングが合わなかったものね」

「そうですね……」


 今日もタイミングが合わない方が良かったのに、と思ってしまうのは、副社長との真相がわからないからなのだろう。

 もちろん課長に面と向かって真相を問いただす勇気もないのだけれど。

 そればっかりが頭の中をぐるぐる回って、課長と何を話したらいいのか頭を悩ませていると、課長の方から再び会話を切り出してきた。


「ねぇ木下さん。あなた、私と亮也のこと疑ってる?」


 ところが、何の前触れもなく私の悩みの核心をつくようなことを聞かれて、思わずギクリとしてしまう。

 だけどそんな私の態度から、彼女はその疑問を確信に変えたようだった。


「やっぱり。何だかここのところ、木下さん、何だかよそよそしいんだもの」

「……すみません。そんなつもりはなかったんですけれど……」



 最近はタイミングが合わなくてあまり顔を合わせてなかったとはいえ、同じ秘書課のオフィスを出入りしている以上全く会わないなんてことはない。


 自分では表に出しているつもりはなかったのに、まさか本人にそんな風に感じさせてしまっているだなんて思わなかった。


「いいのよ、勘違いさせるようなことをした私が悪いんだもの」


 だけど、課長はため息とともにそんな言葉を口にする。


「……え?」


 勘違い……?

 課長の様子から、何か心当たりのあることがあるのだろうか?


 そう言われても、思い当たる節が見当たらない。

 だけど改めて課長の顔を正面から見ると、いつも仕事をしているときに見えるような自信に満ちた表情はなく、どことなく疲れて見える。


 すると課長はそんな私に、今度は信じられないようなことをを告げてきたのだ。


「七十周年記念パーティーのあとに階段室に入ってきたのは、あなただったんでしょう?」


 頭を何か鋭い鈍器で殴られたかのようだった。


 まさか課長は気づいていたの?

 あのとき、思わず階段室に入って二人を見てしまった私は、二人には気づかれないようにそこから出たように思ったのに……。

 決して暑くはないのに、急に背中に冷や汗が噴き出すのを感じる。


 課長に嘘をつくのも気が引ける。だけど、ここは正直に“はい”と言っていいのだろうか?


 そんなことをパニック状態の頭で考えても、余計に混乱するだけだ。

 だけど、課長には私の心境はお見通しだったのだろう。
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