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5.熱い抱擁
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「ああ。これか?」
副社長自身も、身につけているアクセサリーと聞いてそれしか思い浮かばなかったのだろう。
Tシャツの隙間から見えるチェーンの先を引っ張り出した。
そこから顔を出したのは、シルバーのジグソーパズルのピースのようなペンダントトップだった。
それほど大きくないジグソーパズルの1ピースをデザインしたもののようだけど、副社長がそんな可愛いものを身につけているとは意外だ。
「はい、驚きました。そういうの、あまりつけているところを見たことがなかったので」
「まぁ、いつも見えないようにつけてるからな」
「そうだったんですか。いつもつけられてるんですか?」
「そうだな。健康診断のエックス線検査のときに外すくらいで、常にここにある」
今日はいつもよりも心なしか襟ぐりの大きいTシャツだったから見えただけで、いつも身につけているものだったんだ。
最初はTシャツの下にネックレスだなんてお洒落だな、と思った。
「大切なものなんですね」
だけど、ペンダントトップをまるでいとおしむような表情で大事そうに握りしめてそうこたえる副社長にとって、それはすごく大切なものなのだろうと感じた。
「ああ。どうしても外せなくて。だけど、笑われるかもしれないが、これをつけていると希望を捨てずにいられるんだ」
そして、あまりに切ない笑みを浮かべて副社長が語るので、私まで胸が痛くなる。
そういえばいつだったか、以前もこんな風に寂しそうに笑う副社長を見たことがある。
「笑いませんよ。副社長にとって、大切なお守りみたいなものってことですよね」
「はは。そうだな、お守りみたいなもんだ。笑わないでくれてありがとう」
副社長のその表情の理由とペンダントトップと関係があるのかわからないけれど、そこはきっとまだ私が触れられる領域ではないのは明らかだ。
副社長はペンダントトップをまた大切そうに服の中にしまうと、リビングの棚から新聞を取り出し、ソファーの方へ歩いていく。
仕事もできて、見た目も良くて、何一つ欠けたところなんて見えない副社長だけど、そんな彼の弱いところをほんの少し垣間見たような気がした。
いつかもっと副社長に近づけたとき、そういった弱いところをもっと見せてもらえるような、そしてそれを受け止められるような女性になれたらなと、思わずにいられなかった。
*
お風呂をいただいたあとは、自分の部屋に戻って明日からの仕事の準備を整える。
予め買っておいた仕事に役立ちそうな本を少し読み進めて、さて寝ようと思ったのが少し深夜を回った頃だった。
喉も渇いていたので温かいお茶を飲んでから寝ようと思って、リビングへ向かった。
するとリビングはまだ明かりがついていて、珍しいなと思った。
日頃、副社長はリビングで新聞を読んだあとは書斎で仕事をしていることが多いからだ。
今日は仕事には余裕があるみたいだったから、もしかしたらテレビでも見てゆっくりしているのかもしれない。
リビングの戸を開けると静かで、最初は副社長は本でも読んでいるのかなと思った。
だけど視界に映った副社長の姿から、どうやらそうではないことを悟る。
「副社長……?」
副社長から聞こえるのは、規則的な息遣い。
片方だけ見える目元は閉じられていて、そこから見える表情も穏やかそうに見える。
ソファーの肘置きにもたれ掛かるようにして突っ伏してしまっているその姿は、まさに寝ているというのがしっくりと来る。
今日は手が空いてるからと私に手料理を振る舞ってくれた副社長。
こんなに疲れていたのなら、私のことは気にせずゆっくりしててくれてよかったのに……。
そこまでして私のために動いてくれた副社長に、愛しい気持ちと申し訳ない気持ちが込み上げる。
でも、どうしよう。
「副社長! こんなところで眠ってたら風邪引きますよ?」
私が声をかけたところでびくともしないくらいに、副社長は深い眠りについている。
こんなところで寝ていては本当に風邪を引いてしまう。
この前、私が寝てしまったときには、副社長は私をベッドまで連れていってくれた。けれど、いくら副社長が比較的細身の身体をしているとはいえ、私には同じように副社長を彼のベッドまで連れていくほどの力量を持ち合わせていない。
副社長自身も、身につけているアクセサリーと聞いてそれしか思い浮かばなかったのだろう。
Tシャツの隙間から見えるチェーンの先を引っ張り出した。
そこから顔を出したのは、シルバーのジグソーパズルのピースのようなペンダントトップだった。
それほど大きくないジグソーパズルの1ピースをデザインしたもののようだけど、副社長がそんな可愛いものを身につけているとは意外だ。
「はい、驚きました。そういうの、あまりつけているところを見たことがなかったので」
「まぁ、いつも見えないようにつけてるからな」
「そうだったんですか。いつもつけられてるんですか?」
「そうだな。健康診断のエックス線検査のときに外すくらいで、常にここにある」
今日はいつもよりも心なしか襟ぐりの大きいTシャツだったから見えただけで、いつも身につけているものだったんだ。
最初はTシャツの下にネックレスだなんてお洒落だな、と思った。
「大切なものなんですね」
だけど、ペンダントトップをまるでいとおしむような表情で大事そうに握りしめてそうこたえる副社長にとって、それはすごく大切なものなのだろうと感じた。
「ああ。どうしても外せなくて。だけど、笑われるかもしれないが、これをつけていると希望を捨てずにいられるんだ」
そして、あまりに切ない笑みを浮かべて副社長が語るので、私まで胸が痛くなる。
そういえばいつだったか、以前もこんな風に寂しそうに笑う副社長を見たことがある。
「笑いませんよ。副社長にとって、大切なお守りみたいなものってことですよね」
「はは。そうだな、お守りみたいなもんだ。笑わないでくれてありがとう」
副社長のその表情の理由とペンダントトップと関係があるのかわからないけれど、そこはきっとまだ私が触れられる領域ではないのは明らかだ。
副社長はペンダントトップをまた大切そうに服の中にしまうと、リビングの棚から新聞を取り出し、ソファーの方へ歩いていく。
仕事もできて、見た目も良くて、何一つ欠けたところなんて見えない副社長だけど、そんな彼の弱いところをほんの少し垣間見たような気がした。
いつかもっと副社長に近づけたとき、そういった弱いところをもっと見せてもらえるような、そしてそれを受け止められるような女性になれたらなと、思わずにいられなかった。
*
お風呂をいただいたあとは、自分の部屋に戻って明日からの仕事の準備を整える。
予め買っておいた仕事に役立ちそうな本を少し読み進めて、さて寝ようと思ったのが少し深夜を回った頃だった。
喉も渇いていたので温かいお茶を飲んでから寝ようと思って、リビングへ向かった。
するとリビングはまだ明かりがついていて、珍しいなと思った。
日頃、副社長はリビングで新聞を読んだあとは書斎で仕事をしていることが多いからだ。
今日は仕事には余裕があるみたいだったから、もしかしたらテレビでも見てゆっくりしているのかもしれない。
リビングの戸を開けると静かで、最初は副社長は本でも読んでいるのかなと思った。
だけど視界に映った副社長の姿から、どうやらそうではないことを悟る。
「副社長……?」
副社長から聞こえるのは、規則的な息遣い。
片方だけ見える目元は閉じられていて、そこから見える表情も穏やかそうに見える。
ソファーの肘置きにもたれ掛かるようにして突っ伏してしまっているその姿は、まさに寝ているというのがしっくりと来る。
今日は手が空いてるからと私に手料理を振る舞ってくれた副社長。
こんなに疲れていたのなら、私のことは気にせずゆっくりしててくれてよかったのに……。
そこまでして私のために動いてくれた副社長に、愛しい気持ちと申し訳ない気持ちが込み上げる。
でも、どうしよう。
「副社長! こんなところで眠ってたら風邪引きますよ?」
私が声をかけたところでびくともしないくらいに、副社長は深い眠りについている。
こんなところで寝ていては本当に風邪を引いてしまう。
この前、私が寝てしまったときには、副社長は私をベッドまで連れていってくれた。けれど、いくら副社長が比較的細身の身体をしているとはいえ、私には同じように副社長を彼のベッドまで連れていくほどの力量を持ち合わせていない。
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