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5.熱い抱擁
(6)
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お兄ちゃんは私が心配するようなことはないと言い切っていたけれど、実際のところはどうなのだろう?
お兄ちゃんの言葉を信じたい反面、じゃあ私が見た二人が抱き合う光景は何だったのかと思ってしまう。
あれこそ二人が恋人同士だっていう何よりの証拠なんじゃないかって思えなくもないから……。
通話終了の画面を眺めたまま、混乱した頭を少しでも静めるためにひとつ息を吐き出す。
そのとき、部屋のドアがコンコンとノックされて、私は思わず背筋をピンと伸ばした。
「はい!」
「夜ご飯、できたけど……大丈夫?」
「あ、今行きます!」
慌ててベッドから降りて、ドアを開ける。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、いい。誰かと話していたようだが、電話か?」
「……はい」
副社長が私が電話をしてたことを知ってるっていうことは、私の声が少なくとも廊下まで筒抜けだったということだ。
副社長は私が電話を終えた少しあとに部屋のドアをノックしてくれたけど、まさか会話の内容までは聞かれてないよね……?
まさに会話の大半が今目の前にいる副社長のことについて話していただけあって、気が気じゃない。
「そんな顔しなくても盗み聞きはしていない。一度呼びに来たときに楽しそうな話し声が廊下まで聞こえてたから、時間を空けて様子を見に来たんだ。そうしたら、今度はもう通話を終えてそうだったから声をかけたんだ」
私の顔がよっぽど不安げな顔でもしてたのだろうか。
副社長は詳しく事の成り行きを説明してくれたあと、「何だかこう言うと、俺が弁解してるみたいにも聞こえるな」とおどけたように笑った。
その彼の様子からも私の会話を聞かれてなさそうだということがわかって、内心安堵した。
むしろ何だか二回も呼びに来てもらって、さらには副社長に盗み聞きをされたと思われてると感じさせてしまったみたいになって、申し訳ない。
「何だかすみません……」
「別に構わない。でも、もしかして男と話してたのか?」
そう聞いてきた副社長の声がどことなく強張っていて、思わず身が縮こまる。
「……いえ、兄です」
「渉も男に変わりないだろ」
どういうわけか正直に電話してた相手が兄だと伝えても、そんな風に言われてしまった。
「そ、そうですけど……」
まさか、お兄ちゃん相手でも副社長のいう“男”に入るなんて、信じられない。
「……何だか妬けるな」
その直後、さらに耳を疑うような副社長のボソッと呟く声が耳に届く。
「え!?」
何かの聞き間違いかと思って、思わず聞き返してしまうけれど、
「何でもない。早くいこう。料理が冷めてしまう」
副社長はそれ以上は何も言ってくれることはなく、急かすように私をリビングの方へ促した。
さっきの、妬けるなってどういう意味だったんだろう……?
言葉の意味はわかるけれど、副社長が私に妬くなんてとてもじゃないけど思えないし、やっぱり聞き間違いだったのだろうか。
気になるところではあるけど、まるで聞くなと言わんばかりの雰囲気を出す副社長にそれ以上深く聞くことはできなかった。
そうしているうちに、食欲をそそるジューシーな香りに自然と私の意識は持っていかれたのだった。
*
この日、副社長が振る舞ってくれた料理は、ごはん、スープハンバーグ、温野菜だった。
スープハンバーグは、副社長の得意料理らしい。
スープハンバーグのスープには野菜が多く使われていて、コクが出ていてとても美味しかった。
お料理を全ていただいて、片付けは私にやらせてもらおうとキッチンの方に向かったとき、ちょうど副社長は冷蔵庫から白い紙袋を取り出してきた。
「まだデザートがあるのだがお腹に余裕はあるか? 買い物に出たときにこれを買ってきたんだ」
副社長が紙袋の中からそこに取り出したのは、四角い形をしたアップルパイだ。
そのボリュームを見るだけでも、りんごがふんだんに使われていることがわかる。
それをお皿に乗せて、副社長は私に差し出してくれる。
「すごく美味しそうですね……!」
ケーキの中でもアップルパイが断トツで好きな私は、思わず目を輝かせてしまう。
お兄ちゃんの言葉を信じたい反面、じゃあ私が見た二人が抱き合う光景は何だったのかと思ってしまう。
あれこそ二人が恋人同士だっていう何よりの証拠なんじゃないかって思えなくもないから……。
通話終了の画面を眺めたまま、混乱した頭を少しでも静めるためにひとつ息を吐き出す。
そのとき、部屋のドアがコンコンとノックされて、私は思わず背筋をピンと伸ばした。
「はい!」
「夜ご飯、できたけど……大丈夫?」
「あ、今行きます!」
慌ててベッドから降りて、ドアを開ける。
「すみません、ありがとうございます」
「いや、いい。誰かと話していたようだが、電話か?」
「……はい」
副社長が私が電話をしてたことを知ってるっていうことは、私の声が少なくとも廊下まで筒抜けだったということだ。
副社長は私が電話を終えた少しあとに部屋のドアをノックしてくれたけど、まさか会話の内容までは聞かれてないよね……?
まさに会話の大半が今目の前にいる副社長のことについて話していただけあって、気が気じゃない。
「そんな顔しなくても盗み聞きはしていない。一度呼びに来たときに楽しそうな話し声が廊下まで聞こえてたから、時間を空けて様子を見に来たんだ。そうしたら、今度はもう通話を終えてそうだったから声をかけたんだ」
私の顔がよっぽど不安げな顔でもしてたのだろうか。
副社長は詳しく事の成り行きを説明してくれたあと、「何だかこう言うと、俺が弁解してるみたいにも聞こえるな」とおどけたように笑った。
その彼の様子からも私の会話を聞かれてなさそうだということがわかって、内心安堵した。
むしろ何だか二回も呼びに来てもらって、さらには副社長に盗み聞きをされたと思われてると感じさせてしまったみたいになって、申し訳ない。
「何だかすみません……」
「別に構わない。でも、もしかして男と話してたのか?」
そう聞いてきた副社長の声がどことなく強張っていて、思わず身が縮こまる。
「……いえ、兄です」
「渉も男に変わりないだろ」
どういうわけか正直に電話してた相手が兄だと伝えても、そんな風に言われてしまった。
「そ、そうですけど……」
まさか、お兄ちゃん相手でも副社長のいう“男”に入るなんて、信じられない。
「……何だか妬けるな」
その直後、さらに耳を疑うような副社長のボソッと呟く声が耳に届く。
「え!?」
何かの聞き間違いかと思って、思わず聞き返してしまうけれど、
「何でもない。早くいこう。料理が冷めてしまう」
副社長はそれ以上は何も言ってくれることはなく、急かすように私をリビングの方へ促した。
さっきの、妬けるなってどういう意味だったんだろう……?
言葉の意味はわかるけれど、副社長が私に妬くなんてとてもじゃないけど思えないし、やっぱり聞き間違いだったのだろうか。
気になるところではあるけど、まるで聞くなと言わんばかりの雰囲気を出す副社長にそれ以上深く聞くことはできなかった。
そうしているうちに、食欲をそそるジューシーな香りに自然と私の意識は持っていかれたのだった。
*
この日、副社長が振る舞ってくれた料理は、ごはん、スープハンバーグ、温野菜だった。
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スープハンバーグのスープには野菜が多く使われていて、コクが出ていてとても美味しかった。
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そのボリュームを見るだけでも、りんごがふんだんに使われていることがわかる。
それをお皿に乗せて、副社長は私に差し出してくれる。
「すごく美味しそうですね……!」
ケーキの中でもアップルパイが断トツで好きな私は、思わず目を輝かせてしまう。
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