イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希

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3.いきなり急接近!?

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 *


「昼食はカレーだったのか?」


 課長とのランチを終えて業務に戻ると、副社長室に入るなり副社長に開口一番にそう問われる。


「えっ!? はい、そうですけど……」


 部屋に入っただけで私が食べた物を当てられるなんて、もしかして私自身からすごくカレーの臭いが漂っていたのだろうか。

 さりげなく服の袖をクンクンと嗅いでみるけれど、自分ではよくわからない。 

 そんな私を見て、副社長は吹き出すように笑い出した。


「違う違う。木下さんからカレーの臭いがしてるっていうわけじゃないから」

「え!?」


 とりあえず私がカレー臭くなってたわけではないとわかってホッとしたものの、何だか恥ずかしい……。


「……それならいいんですけど。それならどうしてカレーを食べて来たとわかったのですか?」

「秘書課の課長と飯食いに行ったんだろ? あいつ、この近くにあるインドカレー屋にハマってるから、きっと連れて行かれたんだろうなと思って」


 なるほど。副社長と課長が仲が良いのなら、課長があのお店のインドカレーが好きなことくらい知ってるのも不思議じゃない。


「本当に課長と仲が良いんですね」

「気になるのか?」

「……え!? いや、気にならないって言ったら嘘になりますけど、変な意味じゃなくて、二人のような関係性が羨ましいなと思いまして……」


 またしても、課長のときと同じ失敗をしてしまった。

 でも、仲が良いんですねって言いたくなるくらいに二人の仲が良いんだもん。


 だけど、副社長はニヤリと不敵な笑みを浮かべてこちらを見ていて、何てこたえていいかわからない。


 副社長に向かって全く気にならないってこたえるのも、副社長に全く興味ありませんって言ってるみたいだ。

 けれど、興味がありますって言うのも語弊があるような気がする。


 口を開けば開くほどに自分が何を言ってるかわからなくなってきて、だんだん頬に熱が集まるのを感じた。


「ってな。ちょっとからかい過ぎた。ごめんごめん」

「え、あ、何かすみません……」


 とっさに謝ってしまったけど、私はからかわれていたのだろうか。

 再び副社長を見やると、副社長は笑ってはいるもののどことなく哀愁を帯びて見えて、少し気になった。


 だけどそれも一瞬のことで、私が瞬きをしてる間にはもう私の知っている副社長の穏やかな表情になっていた。


「さて、このあとだが来年の春発売予定の新商品の試作品の試食会がある。できるだけ多くの意見を聞きたいから、木下さんも一緒に会議に同行してほしい」


「はい、かしこまりました」


 さっき一瞬垣間見えた表情は、私の気のせいだったのかどうかはわからない。

 だけど、それについて深く考える間もなく午後の業務に追われて、気づいたときにはすっかりそのことは頭から抜け落ちていたのだった。


 *


 副社長との暮らしも秘書としての生活も、日を重ねるに連れて少しずつ慣れてきたように思う。


 秘書課の雰囲気を最初に見たときは、秘書ってものすごく忙しいのかと思っていた。けれど、副社長はわりと定時を過ぎたら帰らせてくれることが多い。

 だからといって副社長が忙しくないなんてことはなく、副社長の帰りは結構遅くなる日も多かった。


 副社長のところに住まわせてもらうかわりに引き受けた家事は、副社長の生活を見ていると、家に帰ってホッとしてほしいという気持ちからより精が出る。


 仕事面でもそうだ。秘書として、少しでも副社長の助けになれればと思っている。



「木下さん、ちょっと悪いけど総務課の方にこの書類を渡してきてくれないか? 俺はこのあと準備が出来次第、会議に向かう。俺が不在の間は、この資料をまとめておいてくれ」

「はい。かしこまりました」


 私の秘書としての業務は、事務的な仕事と雑用的な仕事が多い。

 副社長としてもそこをフォローしてほしいと思っていたらしく、前の仕事でも事務職をしていた私としては助かっている。


 副社長から書類の入った封筒を受け取ると、副社長室を出て、八階のエレベーターホールへと向かう。


 総務課は確か三階だったはず……。

 覚え違いがあったら困るから、念のためエレベーター内に貼ってある各フロアの案内図を確認してから三階で降りた。


 総務課でのやり取りはすぐに終わった。

 再び三階のエレベーターホールに来たところで、先にエレベーターを待っている男性がいることに気がつく。

 その男性の横顔に何となく見覚えがあるなと思いながらエレベーターの近くに行くと、私の存在に気づいたらしい男性は不意にこちらを向いた。


「あ……」


 私の顔を見るなり男性はそう言って、口をぽかんと開けたまま固まった。

 声は出なかったものの、私もそれは同じだった。
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