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3.いきなり急接近!?
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「……うーん。かなり迷いますけど、Aランチにします」
「うん、わかった。やっぱり量を見て決めた感じ?」
「……はい。さすがにこの量を食べきる自信がなくて」
「それなら私のを一つあげるわ。私、こう見えて結構大食いで、いつもここのBランチを食べてるのよ」
「えぇえっ!? そうなんですか!?」
意外だ。スタイル抜群の課長は、胸元はふっくらしているもののウエストはきゅっと引き締まって見えるし、手足はすらりと細くて長い。
私なんてちょっと食べ過ぎただけで下腹とか太ももにバッチリ付くのに、羨ましい限りだ。
注文してからそれほど大きく待つことなく料理が届く。
あまり待ち時間なく料理を運んで来てくれるなんて、限られたお昼休憩の中でランチを食べるのにすごく好条件だ。
「はい、よかったら食べてみて?」
料理が二人分届いたところで、課長は言っていた通りタンドリーチキンを一つ取って、私のお皿に置いてくれる。
「ありがとうございます。いただきます」
さっそく課長のオススメだというタンドリーチキンを口に含むと、一気に舌の上がスパイスの刺激で覆われる。
辛さも結構あって、それがまたスパイシーさを引き立てていて美味しい。
「美味しいですね!」
「でしょ? 気に入ってもらえて嬉しい。また超絶にお腹空いてるときとかにでも、ぜひ食べてみて!」
「はい」
と笑顔で返事したものの、Aランチでもかなりの量がある。
何がそんなに多いかというと、ナンだ。
カレーとともに運ばれてきたナンは、私の顔よりも余裕で大きい。とても美味しそうだけど、ナンだけでも充分お腹一杯になってしまいそうに思ってしまう。
メニュー表には小さい文字でナン一枚五十円でおかわりできますと書いてあったけれど、とてもじゃないけれどおかわりなんてできそうもない。
そんな私にとって、Bランチを一人で食べる日はきっと訪れないだろう。
その大きなナンは、焼きたてのふわふわでとても美味しいものだった。
最初は料理について課長と話していたものの、だんだんと話の流れは仕事の方へ移っていく。
「実際に秘書として働きだして、困ってることとかある? エレベーターの中ではああ言ってたけど、副社長にいじめられたり襲われたりしてない?」
課長は、にんまりとした笑顔で聞いてくる。
私のことを気にかけてくれるのはありがたい。けれど、エレベーターの中での会話を思い返してみても、課長は副社長のことをどう思ってるのだろうと思ってしまう。
「いえ、そんな。むしろ副社長には、とても良くしていただいてます」
「本当? それならいいんだけど。万が一何かあったら遠慮せずにすぐに私に言ってね。副社長だろうが、昔からのよしみでガツンと言ってやるから」
胸をポンと叩く課長は、同じ女性でも本当に頼もしい。
「ありがとうございます」
現に私が秘書として働き始めた初日やその次の日の朝までは、何人かの女性秘書からは顔を合わせる度に嫌味のような言葉を投げられていた。
だけど、その様子に気づいた課長が一喝してくれたんだ。
『言いたいことがあるなら私に言ってって言わなかった? そんなに嫌味を言うくらいに悔しいなら、その時間真面目に仕事しな。ネチネチ言って、現状が変わるわけではないんだから』
そんな怒声が秘書課のオフィス内に響いてからは、パタリと嫌味ひとつ言われなくなった。
最初こそなんだか逆恨みされそうで怖かったけれど、むしろ嫌味を言ってきた本人にはちゃんと謝罪されて、改めて課長の強さというものを見せつけられたような気がした。
この一週間、副社長と一緒に過ごしてきたけれど、副社長はとても誠実だし優しい。本当にごくたまにからかってくることはあるけれど。
そんな副社長に限って課長に相談しないといけないようなことをしてくることはないと思うけれど、課長がこうしてついててくれると思うと、心強いものがある。
初めて秘書の仕事をすることになって不安ばかりだったけれど、副社長といい課長といい、本当に人間関係には恵まれているなと思った。
そのあとは、課長から少し副社長のことをうかがった。
副社長は苗字も“藤崎”と言うだけあって、藤崎製菓の跡取りとして副社長を務めているんだそうだ。
副社長は社長の甥に当たるらしいけど、社長は結婚しておらず子どももいないんだそうだ。
副社長のことを知れて嬉しい反面、改めて私はすごい人のお世話になってるんだと思わされてしまった。
「うん、わかった。やっぱり量を見て決めた感じ?」
「……はい。さすがにこの量を食べきる自信がなくて」
「それなら私のを一つあげるわ。私、こう見えて結構大食いで、いつもここのBランチを食べてるのよ」
「えぇえっ!? そうなんですか!?」
意外だ。スタイル抜群の課長は、胸元はふっくらしているもののウエストはきゅっと引き締まって見えるし、手足はすらりと細くて長い。
私なんてちょっと食べ過ぎただけで下腹とか太ももにバッチリ付くのに、羨ましい限りだ。
注文してからそれほど大きく待つことなく料理が届く。
あまり待ち時間なく料理を運んで来てくれるなんて、限られたお昼休憩の中でランチを食べるのにすごく好条件だ。
「はい、よかったら食べてみて?」
料理が二人分届いたところで、課長は言っていた通りタンドリーチキンを一つ取って、私のお皿に置いてくれる。
「ありがとうございます。いただきます」
さっそく課長のオススメだというタンドリーチキンを口に含むと、一気に舌の上がスパイスの刺激で覆われる。
辛さも結構あって、それがまたスパイシーさを引き立てていて美味しい。
「美味しいですね!」
「でしょ? 気に入ってもらえて嬉しい。また超絶にお腹空いてるときとかにでも、ぜひ食べてみて!」
「はい」
と笑顔で返事したものの、Aランチでもかなりの量がある。
何がそんなに多いかというと、ナンだ。
カレーとともに運ばれてきたナンは、私の顔よりも余裕で大きい。とても美味しそうだけど、ナンだけでも充分お腹一杯になってしまいそうに思ってしまう。
メニュー表には小さい文字でナン一枚五十円でおかわりできますと書いてあったけれど、とてもじゃないけれどおかわりなんてできそうもない。
そんな私にとって、Bランチを一人で食べる日はきっと訪れないだろう。
その大きなナンは、焼きたてのふわふわでとても美味しいものだった。
最初は料理について課長と話していたものの、だんだんと話の流れは仕事の方へ移っていく。
「実際に秘書として働きだして、困ってることとかある? エレベーターの中ではああ言ってたけど、副社長にいじめられたり襲われたりしてない?」
課長は、にんまりとした笑顔で聞いてくる。
私のことを気にかけてくれるのはありがたい。けれど、エレベーターの中での会話を思い返してみても、課長は副社長のことをどう思ってるのだろうと思ってしまう。
「いえ、そんな。むしろ副社長には、とても良くしていただいてます」
「本当? それならいいんだけど。万が一何かあったら遠慮せずにすぐに私に言ってね。副社長だろうが、昔からのよしみでガツンと言ってやるから」
胸をポンと叩く課長は、同じ女性でも本当に頼もしい。
「ありがとうございます」
現に私が秘書として働き始めた初日やその次の日の朝までは、何人かの女性秘書からは顔を合わせる度に嫌味のような言葉を投げられていた。
だけど、その様子に気づいた課長が一喝してくれたんだ。
『言いたいことがあるなら私に言ってって言わなかった? そんなに嫌味を言うくらいに悔しいなら、その時間真面目に仕事しな。ネチネチ言って、現状が変わるわけではないんだから』
そんな怒声が秘書課のオフィス内に響いてからは、パタリと嫌味ひとつ言われなくなった。
最初こそなんだか逆恨みされそうで怖かったけれど、むしろ嫌味を言ってきた本人にはちゃんと謝罪されて、改めて課長の強さというものを見せつけられたような気がした。
この一週間、副社長と一緒に過ごしてきたけれど、副社長はとても誠実だし優しい。本当にごくたまにからかってくることはあるけれど。
そんな副社長に限って課長に相談しないといけないようなことをしてくることはないと思うけれど、課長がこうしてついててくれると思うと、心強いものがある。
初めて秘書の仕事をすることになって不安ばかりだったけれど、副社長といい課長といい、本当に人間関係には恵まれているなと思った。
そのあとは、課長から少し副社長のことをうかがった。
副社長は苗字も“藤崎”と言うだけあって、藤崎製菓の跡取りとして副社長を務めているんだそうだ。
副社長は社長の甥に当たるらしいけど、社長は結婚しておらず子どももいないんだそうだ。
副社長のことを知れて嬉しい反面、改めて私はすごい人のお世話になってるんだと思わされてしまった。
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