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3.いきなり急接近!?
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副社長の秘書として働きはじめて一週間程が経つ。
まだまだわからないことも不安も多いけれど、とりあえず大きな失敗なくやれていると思う。
この日のお昼休憩のとき。私は、ランチに行く前に秘書課のオフィスに書類を置きに寄った。
「木下さんも今から休憩?」
そのとき、ちょうど背後から課長に声をかけられた。にこやな笑みを浮かべながら小さなバッグを片手に持つ課長も、これからお昼休憩に入るのだろう。
「はい」
「それならよかったら一緒にお昼どうかしら?」
いつ見ても課長はとても綺麗な人だ。すべすべの肌に、艶のある髪。さらにはスタイルもよくて仕事もできる彼女は、社長の秘書でもある。
そんな課長が私にとって憧れの対象になるのに、そう時間はかからなかった。こうして声をかけてもらえたことに、私は思わず胸を弾ませた。
「はい。是非ご一緒させてください」
課長とともに秘書課のオフィスをあとにして、エレベーターホールへ向かう。
エレベーターはちょうど最上階で止まっていたものが降りてくるようだった。
この上の階は社長室と副社長室だから、どちらかがエレベーターを使っているということなのだろうか?
もしかして副社長がエレベーターに乗って降りてきてるのかな?
そんなことを考えて、思わずドキンとしてしまった自分に驚く。
やだ。これじゃあ私が副社長を意識しているみたいじゃないか。
一人そんなことを思って恥ずかしくなっているうちに、どうやらエレベーターは私たちの待つフロアに到着したようだった。
チンッと軽快な音を立てて扉が開く。
するとそこに乗り合わせた人物を見て、心臓が飛び出るかと思った。
「あら、亮也じゃない。久しぶり」
「久しぶりって、つい最近も顔合わせたばかりだろ。木下さんは、さっきぶりだけど」
そう笑って課長と会話を交わすのは、ついさっき頭の中を過った副社長だった。
それだけでも充分驚いたが、課長はまるで友達と話すように砕けた感じに副社長と話し出した。
思わず戸惑う気持ちを顔には出さないように気をつけながら、ペコリと副社長に頭を下げて、私も課長に続いてそのエレベーターに乗り込む。
「どう? 可愛い専属秘書を入れることにした感想は」
「どうって、最高だよ。俺には勿体ないくらいの秘書だ」
自分として聞くに耐えない話題だが、副社長の口から発せられた思いがけない言葉に思わず目を瞬かせる。
それが本心からの言葉なのかはわからない。けれどこの一週間程を一緒に過ごしてみて、副社長はこんな風に人を喜ばせることを言うのが本当に上手だと思った。
実際には大したことなんてできていないのに、逆に申し訳なくなるくらいだ。
「へぇ~。亮也がそんなに人のことを褒めるなんてね。いくら木下さんが可愛いからって、隙を見て彼女のことを襲ったりしないでよね~」
な、ななな、何言ってるんですか!
声には出せなかったものの、思わず心の中で課長に突っ込んでしまった。
課長はというと、まるでからかうような目で副社長を見ていて、その姿はどこか楽しそうだ。
「お前こそ、俺の可愛い秘書をいじめるなよ」
「当たり前です」
さらには副社長も珍しくムキになったように課長に言い返していて、それを目の前で聞いている私はそんな風に言ってもらえるほどの人間じゃありませんと、何度も心の中で繰り返していた。
そうしているうちに、エレベーターは二階で副社長を降ろす。
それにより課長と副社長の会話が終わって、思わずホッとする。
最初はいきなり親しげに副社長と話し出した課長に驚いた。けれど二人の会話を横で聞いて、課長と副社長は本当に仲良が良いんだと感じた。
少なくとも課長は、副社長のことを名前で呼んでいたし……。
副社長がお兄ちゃんの親友で、課長がお兄ちゃんと仲の良い女友達だったのだから、副社長と課長が仲が良かったとしても何ら不思議じゃないのかもしれない。
まだまだわからないことも不安も多いけれど、とりあえず大きな失敗なくやれていると思う。
この日のお昼休憩のとき。私は、ランチに行く前に秘書課のオフィスに書類を置きに寄った。
「木下さんも今から休憩?」
そのとき、ちょうど背後から課長に声をかけられた。にこやな笑みを浮かべながら小さなバッグを片手に持つ課長も、これからお昼休憩に入るのだろう。
「はい」
「それならよかったら一緒にお昼どうかしら?」
いつ見ても課長はとても綺麗な人だ。すべすべの肌に、艶のある髪。さらにはスタイルもよくて仕事もできる彼女は、社長の秘書でもある。
そんな課長が私にとって憧れの対象になるのに、そう時間はかからなかった。こうして声をかけてもらえたことに、私は思わず胸を弾ませた。
「はい。是非ご一緒させてください」
課長とともに秘書課のオフィスをあとにして、エレベーターホールへ向かう。
エレベーターはちょうど最上階で止まっていたものが降りてくるようだった。
この上の階は社長室と副社長室だから、どちらかがエレベーターを使っているということなのだろうか?
もしかして副社長がエレベーターに乗って降りてきてるのかな?
そんなことを考えて、思わずドキンとしてしまった自分に驚く。
やだ。これじゃあ私が副社長を意識しているみたいじゃないか。
一人そんなことを思って恥ずかしくなっているうちに、どうやらエレベーターは私たちの待つフロアに到着したようだった。
チンッと軽快な音を立てて扉が開く。
するとそこに乗り合わせた人物を見て、心臓が飛び出るかと思った。
「あら、亮也じゃない。久しぶり」
「久しぶりって、つい最近も顔合わせたばかりだろ。木下さんは、さっきぶりだけど」
そう笑って課長と会話を交わすのは、ついさっき頭の中を過った副社長だった。
それだけでも充分驚いたが、課長はまるで友達と話すように砕けた感じに副社長と話し出した。
思わず戸惑う気持ちを顔には出さないように気をつけながら、ペコリと副社長に頭を下げて、私も課長に続いてそのエレベーターに乗り込む。
「どう? 可愛い専属秘書を入れることにした感想は」
「どうって、最高だよ。俺には勿体ないくらいの秘書だ」
自分として聞くに耐えない話題だが、副社長の口から発せられた思いがけない言葉に思わず目を瞬かせる。
それが本心からの言葉なのかはわからない。けれどこの一週間程を一緒に過ごしてみて、副社長はこんな風に人を喜ばせることを言うのが本当に上手だと思った。
実際には大したことなんてできていないのに、逆に申し訳なくなるくらいだ。
「へぇ~。亮也がそんなに人のことを褒めるなんてね。いくら木下さんが可愛いからって、隙を見て彼女のことを襲ったりしないでよね~」
な、ななな、何言ってるんですか!
声には出せなかったものの、思わず心の中で課長に突っ込んでしまった。
課長はというと、まるでからかうような目で副社長を見ていて、その姿はどこか楽しそうだ。
「お前こそ、俺の可愛い秘書をいじめるなよ」
「当たり前です」
さらには副社長も珍しくムキになったように課長に言い返していて、それを目の前で聞いている私はそんな風に言ってもらえるほどの人間じゃありませんと、何度も心の中で繰り返していた。
そうしているうちに、エレベーターは二階で副社長を降ろす。
それにより課長と副社長の会話が終わって、思わずホッとする。
最初はいきなり親しげに副社長と話し出した課長に驚いた。けれど二人の会話を横で聞いて、課長と副社長は本当に仲良が良いんだと感じた。
少なくとも課長は、副社長のことを名前で呼んでいたし……。
副社長がお兄ちゃんの親友で、課長がお兄ちゃんと仲の良い女友達だったのだから、副社長と課長が仲が良かったとしても何ら不思議じゃないのかもしれない。
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