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2.副社長と暮らす生活
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一緒に買い物に行くことにしたのはいいものの、朝食を終えて部屋に戻った私は、数少ない自分の服の中から副社長と出掛けるのにふさわしい服を選ぶのに苦戦していた。
副社長が用意してくれた四つの衣装ケースのうち、二つに余裕を持って収まる量だった私の洋服類。その内訳は、仕事用のスーツと長年使っている洋服類だ。
前の会社を辞めることになってからは服にまでお金をかける余裕はなくて、どれもそれなりに着古したものだ。
まさか今回副社長と暮らすことになるなんて思ってもいなかったから、ここに引っ越す前に特別に新しい服を買うことはなかった。
言ってしまえば、今これから副社長と出掛けるのにふさわしい服がないのだ。
どうしよう……。
あまり変な格好をして、副社長に恥をかかせるわけにはいかない。
散々頭を悩ませた結果、その中でも比較的新しく、シンプルで小綺麗なワンピースを選んだ。
一通り用意を終えて、副社長とともにマンションをあとにする。
マンションのすぐ目の前のスーパーに行くものだと思い込んでいたが、副社長はどこか離れた場所に行くつもりなのか車を出した。
一体、どこまで買い物に行くつもりなのだろう?
食材を買うときは副社長もマンションの目の前のスーパーを使っているように聞いていたけれど、違うものを買いに行くのだろうか。
「着いたぞ」
副社長の運転する車に乗ってしばらく経ったとき、副社長が私にそう声をかける。
そこは、どこかのショッピングモールの駐車場のようだった。
車から降りて、副社長のあとに続く。
エレベーターに乗ってたどり着いたのは、ショッピングモールのレディースファッションのお店のたくさん入ったフロアだった。
「たくさん店が入ってるみたいだな。まずはどこから見ようか?」
降りる階を間違えたのかなと思っていたところで、副社長がフロアを見回しながら言った言葉が耳に届く。
イマイチ状況を理解できずにいた私は、思わず口を開いた。
「あの、買い物って……」
「ああ、言ってなかったな。きみの服だよ」
「わ、私の!?」
まさか私の服を買いに連れて来てもらってるなんて思いもしなくて、声が裏返ってしまった。
副社長には、そんなに私の着ているものが粗末なものに見えたのだろうか?
確かに仕事を失ってから削れるところは削る精神で、服には一切お金をかけないようにしていたけれど……。
「別に今木下さんが着てる服がダメっていうわけじゃない。ただ、秘書として今後働いていくなら、就活生のようなスーツ以外のスーツもあった方がいいと思ってな」
「あ……」
なるほど。確かに私はシンプルなものの方が使いやすいと思って、無難に着られるようにと黒のスーツしか持っていない。
前の職場には制服があったことからスーツを着る機会なんてそうそうなかったし、現についこの前まで人生二回目の就活生をやっていたのだから。
秘書の仕事となれば、今後副社長に同行して他社に出向くようなこともあれば、逆に他社の方々がこちらに見えることもあるだろう。確かに就活スタイルのようなスーツしか持ってないよりも数種類揃えていた方がいいような気はする。
副社長の隣に立つならなおさらに。
それは理想ではあるけれど、肝心なところに問題がある。
「あの、確かにその通りだとは思うのですが、まさかスーツを見に来ると思ってなくて手持ちが……」
無駄遣いしてしまわないようにクレジットカードも必要時以外は持ち歩かないようにしていたから、本当に今これからスーツを買うというのは厳しいものがある。
「それなら心配ない。俺が全て払う」
「えぇえっ!? さすがにそれは……」
「俺がきみに秘書になってほしいと思って採用したんだ。渉からある程度事情も聞いているし、きみに余計な負担はかけさせたくない。だから問題ない」
全くもって有無を言わせない物言い。
副社長は基本的には紳士的で優しいけれど、やっぱり副社長になるような人なだけあると感じさせられる。
「……わかりました」
さすがにこんな言い方をされたら、私も強く断れない。
私が内心本当にいいのかなと思いながらうなずくと、副社長は私を連れて今居た位置から一番近くにあったレディーススーツを扱った店の中に入っていった。
一緒に買い物に行くことにしたのはいいものの、朝食を終えて部屋に戻った私は、数少ない自分の服の中から副社長と出掛けるのにふさわしい服を選ぶのに苦戦していた。
副社長が用意してくれた四つの衣装ケースのうち、二つに余裕を持って収まる量だった私の洋服類。その内訳は、仕事用のスーツと長年使っている洋服類だ。
前の会社を辞めることになってからは服にまでお金をかける余裕はなくて、どれもそれなりに着古したものだ。
まさか今回副社長と暮らすことになるなんて思ってもいなかったから、ここに引っ越す前に特別に新しい服を買うことはなかった。
言ってしまえば、今これから副社長と出掛けるのにふさわしい服がないのだ。
どうしよう……。
あまり変な格好をして、副社長に恥をかかせるわけにはいかない。
散々頭を悩ませた結果、その中でも比較的新しく、シンプルで小綺麗なワンピースを選んだ。
一通り用意を終えて、副社長とともにマンションをあとにする。
マンションのすぐ目の前のスーパーに行くものだと思い込んでいたが、副社長はどこか離れた場所に行くつもりなのか車を出した。
一体、どこまで買い物に行くつもりなのだろう?
食材を買うときは副社長もマンションの目の前のスーパーを使っているように聞いていたけれど、違うものを買いに行くのだろうか。
「着いたぞ」
副社長の運転する車に乗ってしばらく経ったとき、副社長が私にそう声をかける。
そこは、どこかのショッピングモールの駐車場のようだった。
車から降りて、副社長のあとに続く。
エレベーターに乗ってたどり着いたのは、ショッピングモールのレディースファッションのお店のたくさん入ったフロアだった。
「たくさん店が入ってるみたいだな。まずはどこから見ようか?」
降りる階を間違えたのかなと思っていたところで、副社長がフロアを見回しながら言った言葉が耳に届く。
イマイチ状況を理解できずにいた私は、思わず口を開いた。
「あの、買い物って……」
「ああ、言ってなかったな。きみの服だよ」
「わ、私の!?」
まさか私の服を買いに連れて来てもらってるなんて思いもしなくて、声が裏返ってしまった。
副社長には、そんなに私の着ているものが粗末なものに見えたのだろうか?
確かに仕事を失ってから削れるところは削る精神で、服には一切お金をかけないようにしていたけれど……。
「別に今木下さんが着てる服がダメっていうわけじゃない。ただ、秘書として今後働いていくなら、就活生のようなスーツ以外のスーツもあった方がいいと思ってな」
「あ……」
なるほど。確かに私はシンプルなものの方が使いやすいと思って、無難に着られるようにと黒のスーツしか持っていない。
前の職場には制服があったことからスーツを着る機会なんてそうそうなかったし、現についこの前まで人生二回目の就活生をやっていたのだから。
秘書の仕事となれば、今後副社長に同行して他社に出向くようなこともあれば、逆に他社の方々がこちらに見えることもあるだろう。確かに就活スタイルのようなスーツしか持ってないよりも数種類揃えていた方がいいような気はする。
副社長の隣に立つならなおさらに。
それは理想ではあるけれど、肝心なところに問題がある。
「あの、確かにその通りだとは思うのですが、まさかスーツを見に来ると思ってなくて手持ちが……」
無駄遣いしてしまわないようにクレジットカードも必要時以外は持ち歩かないようにしていたから、本当に今これからスーツを買うというのは厳しいものがある。
「それなら心配ない。俺が全て払う」
「えぇえっ!? さすがにそれは……」
「俺がきみに秘書になってほしいと思って採用したんだ。渉からある程度事情も聞いているし、きみに余計な負担はかけさせたくない。だから問題ない」
全くもって有無を言わせない物言い。
副社長は基本的には紳士的で優しいけれど、やっぱり副社長になるような人なだけあると感じさせられる。
「……わかりました」
さすがにこんな言い方をされたら、私も強く断れない。
私が内心本当にいいのかなと思いながらうなずくと、副社長は私を連れて今居た位置から一番近くにあったレディーススーツを扱った店の中に入っていった。
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