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1.思いがけないルームシェア
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美人な秘書課の課長がお兄ちゃんと友達だったということだけでも驚いたのに、まさかこんなイケメンな副社長がお兄ちゃんの親友だったなんて……。
「す、すみません……」
副社長の言葉に、課長が居なくなってしまったことで不安に感じてしまった気持ちを見抜かれたような気がして、慌てて頭を下げる。
そんな私を見てなのだろう。
副社長は目を細めてクックッと笑った。
「そんなにかしこまるな。そんなんじゃ、身が持たないぞ」
「すみません……」
「せっかく会えたのに謝ってばかりじゃないか。そんな些細なことで腹を立てるような男じゃないから安心しろ」
副社長が席を立つと、彼の背が高いことが容易に見て取れた。
彼は私のすぐそばまで歩いてくると、私に向けてすっと右手を差し出した。
「俺は藤崎製菓の副社長、藤崎 亮也だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
ここは握手をするべきなのかなと副社長の手を取ると、女性とは違う大きくて温かい手の感触に不覚にもドキリと胸が跳ねる。
これまで恋人が居たことがないことが原因なのだろうけれど、変に意識してしまう。
これは副社長にとってはただの挨拶に過ぎないというのに……。
「さて業務内容だが、まだ明確には決めてないんだ」
「えっ!?」
思いがけない言葉が副社長の口から告げられて、思わず戸惑う。
「実は今まで専属の秘書は取ってなくて、今回秘書を付けるのは初めてなんだ。だから、木下さんの様子を見ながら仕事を頼もうと思うから。本当に気負いしないで」
「はい。かしこまりました」
副社長が今まで専属の秘書を取っていなかった。そのことを聞いて、私が副社長付けの秘書を担当することになったと聞いた秘書課内の動揺の理由が何となくわかった。
「隣の部屋の机の上に木下さん用のパソコンも用意してあるから、基本的にはそこで仕事をしてもらって構わない」
「はい」
「それじゃあ今日は何から頼もうかな。俺はこのあと会議に行くから、その間、そこの書類を整理しておいてもらえるか?」
副社長は少し考えたあと、思いついたように彼のデスクに積まれていた書類の山のひとつに手を置いた。
「かしこまりました」
「わからないことがあったらまた戻ってから聞くから」
「はい。あの、この度は本当にありがとうございました」
副社長の話がここで途切れたのがわかったので、思わずこのタイミングでお礼を言った。けれど数秒空いた間に失敗したと感じる。
ちょっと唐突過ぎたかな……。
「兄から私にこの仕事も本日から住む場所も、副社長が提供してくださったと聞いています」
「ああ。気にするな。むしろ木下さんのお気に召さずに逃げ出されないか、そっちの方が俺は心配だけどな」
「大丈夫です! 私はそんな逃げ出すような人間ではありません!」
私はそんなにすぐに辞めるような人間に見えるのだろうか。
からかうようような口調でそう言われて、内心少しムッとしてしまったのは事実。思わず少し強めに言ってしまった。
しまったと思ったけれど、副社長はそんな私を見ておかしそうにクスクス笑っている。
「その言葉、信じてるからな」
そう言って副社長はいくつかデスクの真ん中に置かれていた書類をかき集めると、「あとはよろしく」と副社長室をあとにした。
私はこうして新しい職場での初仕事に取りかかったのだった。
頼まれた資料の整理は、思っていた以上にスムーズに進んだ。
というのも、私がわざわざ整理し直さなくてもいいんじゃないかと思うくらいに、きちんとされていたからだ。
今まで専属の秘書を付けてなかったとは言っていたけれど、それはきっと副社長が有能すぎて、秘書を必要としなかったからではないのかと思わされる。
そんな副社長が私なんかを秘書として雇ったのは、やっぱりお兄ちゃんに頼まれたからなのだろう。
そう思うと、今更ながらに申し訳なく思ってしまう。
その恩返しをするために私ができることは、秘書として副社長の役に立つことだ。
「す、すみません……」
副社長の言葉に、課長が居なくなってしまったことで不安に感じてしまった気持ちを見抜かれたような気がして、慌てて頭を下げる。
そんな私を見てなのだろう。
副社長は目を細めてクックッと笑った。
「そんなにかしこまるな。そんなんじゃ、身が持たないぞ」
「すみません……」
「せっかく会えたのに謝ってばかりじゃないか。そんな些細なことで腹を立てるような男じゃないから安心しろ」
副社長が席を立つと、彼の背が高いことが容易に見て取れた。
彼は私のすぐそばまで歩いてくると、私に向けてすっと右手を差し出した。
「俺は藤崎製菓の副社長、藤崎 亮也だ。よろしく」
「よろしくお願いします」
ここは握手をするべきなのかなと副社長の手を取ると、女性とは違う大きくて温かい手の感触に不覚にもドキリと胸が跳ねる。
これまで恋人が居たことがないことが原因なのだろうけれど、変に意識してしまう。
これは副社長にとってはただの挨拶に過ぎないというのに……。
「さて業務内容だが、まだ明確には決めてないんだ」
「えっ!?」
思いがけない言葉が副社長の口から告げられて、思わず戸惑う。
「実は今まで専属の秘書は取ってなくて、今回秘書を付けるのは初めてなんだ。だから、木下さんの様子を見ながら仕事を頼もうと思うから。本当に気負いしないで」
「はい。かしこまりました」
副社長が今まで専属の秘書を取っていなかった。そのことを聞いて、私が副社長付けの秘書を担当することになったと聞いた秘書課内の動揺の理由が何となくわかった。
「隣の部屋の机の上に木下さん用のパソコンも用意してあるから、基本的にはそこで仕事をしてもらって構わない」
「はい」
「それじゃあ今日は何から頼もうかな。俺はこのあと会議に行くから、その間、そこの書類を整理しておいてもらえるか?」
副社長は少し考えたあと、思いついたように彼のデスクに積まれていた書類の山のひとつに手を置いた。
「かしこまりました」
「わからないことがあったらまた戻ってから聞くから」
「はい。あの、この度は本当にありがとうございました」
副社長の話がここで途切れたのがわかったので、思わずこのタイミングでお礼を言った。けれど数秒空いた間に失敗したと感じる。
ちょっと唐突過ぎたかな……。
「兄から私にこの仕事も本日から住む場所も、副社長が提供してくださったと聞いています」
「ああ。気にするな。むしろ木下さんのお気に召さずに逃げ出されないか、そっちの方が俺は心配だけどな」
「大丈夫です! 私はそんな逃げ出すような人間ではありません!」
私はそんなにすぐに辞めるような人間に見えるのだろうか。
からかうようような口調でそう言われて、内心少しムッとしてしまったのは事実。思わず少し強めに言ってしまった。
しまったと思ったけれど、副社長はそんな私を見ておかしそうにクスクス笑っている。
「その言葉、信じてるからな」
そう言って副社長はいくつかデスクの真ん中に置かれていた書類をかき集めると、「あとはよろしく」と副社長室をあとにした。
私はこうして新しい職場での初仕事に取りかかったのだった。
頼まれた資料の整理は、思っていた以上にスムーズに進んだ。
というのも、私がわざわざ整理し直さなくてもいいんじゃないかと思うくらいに、きちんとされていたからだ。
今まで専属の秘書を付けてなかったとは言っていたけれど、それはきっと副社長が有能すぎて、秘書を必要としなかったからではないのかと思わされる。
そんな副社長が私なんかを秘書として雇ったのは、やっぱりお兄ちゃんに頼まれたからなのだろう。
そう思うと、今更ながらに申し訳なく思ってしまう。
その恩返しをするために私ができることは、秘書として副社長の役に立つことだ。
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