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第6章
フルートへの愛(2)
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桃華の言葉に、やっぱりと感じる拓人。
拓人はひざまずき、桃華の左胸にそっと自分の頬と手と添えて、桃華ともうひとつの魂に言い聞かせるように口を開く。
「一緒に演奏しよう? 貴女のフルートをみんなの前で聴かせて欲しい」
桃華の目からこぼれ落ちる大粒の涙──。
フルートを通して見え隠れする、桃華の命を繋ぎ止めてくれた心臓の持つ魂。
既に亡くなってしまったけれど、桃華の中でその方の心臓は動き続けている。
桃華とその方との間の不思議な関係。
医学的には不思議なこの現象。
でも、この瞬間を感じられるからこそ、より鮮明に感じられる、もうひとつの魂の存在。
ご本人は亡くなってしまった今もなお、桃華の身体を通して生き続ける強い想い。
フルートへの愛。
それを、強く桃華にも拓人にも感じさせる。
桃華と桃華の中のもうひとつの魂が、気の済むまで涙を流し終えるまで、拓人はずっと桃華を抱きしめていた。
しばらくして落ち着きを取り戻した桃華だったが、少し不安げな表情を拓人に向ける。
「何そんな顔してんだよ。大丈夫だ」
桃華の身にどのようなことが起ころうと、桃華の全てを受け入れる。
拓人の強い意思を桃華に再確認させるように、桃華を安心させるように、拓人はそっと桃華を抱き寄せて、くしゃっと桃華の頭を撫でた。
拓人の優しい笑みに、桃華もいつもの柔らかい笑みを浮かべると、2人は手を取りゆっくりとロッジまでの道のりを歩いた。
再びロッジに戻ると、ロッジのチェックアウトの時間が差し迫っていた。
急いで一通り荷物をまとめ、拓人の黒い車に詰める。
「桃華、もう忘れ物ないか?」
「うんっ! 全部車に乗せたよっ! それより、拓人も何か書いてっ!!」
桃華は拓人の方へ何やらノートを持って来る。
「何だよ、それ」
拓人が桃華から手に取ったのは、1冊の旅ノートだった。
このロッジに泊まった客が、自分達が泊まったという足跡を残せるようなものだ。
桃華はパラパラとノートをめくり、自分が描いた絵を見せる。
「私はね、これっ!! 一応、私と拓人だよっ!」
そこには、桃華の描いた拓人と桃華の似顔絵とともに、可愛らしいハートが飛んでいて、その周りには、フルートやピアノやギターやマイクや、音符等の音楽記号が描かれていた。
拓人はその絵に思わず嬉しそうに顔をほころばせると
『今度は、結婚してから来ような』
と桃華が手渡してくれたペンで書き加えた。
桃華は嬉しそうに、そのノートを胸に抱く。
そして、桃華は拓人の文字を再び見つめると、今度はおかしそうに笑った。
「でも、この文字が拓人が書いたって知ったら、世界中のTAKUのファンは驚くだろうなぁ」
「何なら、TAKUが来たって証も残すか?」
拓人はひょいと桃華からノートを掴むと、ノートの1番最後のページにTAKUのサインを油性マジックで書き込んだ。
2人はおかしそうに笑い合うと、3日間お世話になったロッジを後にした。
この時2人の書いたラブラブの旅ノートは、たくさんの人々の思い出の1ページの中のひとつとなった。
しかし、拓人が軽い遊び心で書いたTAKUの筆跡のサインは、後々マスコミに
『TAKUの泊まった痕跡残るリゾート施設』
と話題にされてしまい、マネージャーの松本とNEVERのリーダーのカイトにこっぴどく絞られたのは言うまでもなかった。
拓人はひざまずき、桃華の左胸にそっと自分の頬と手と添えて、桃華ともうひとつの魂に言い聞かせるように口を開く。
「一緒に演奏しよう? 貴女のフルートをみんなの前で聴かせて欲しい」
桃華の目からこぼれ落ちる大粒の涙──。
フルートを通して見え隠れする、桃華の命を繋ぎ止めてくれた心臓の持つ魂。
既に亡くなってしまったけれど、桃華の中でその方の心臓は動き続けている。
桃華とその方との間の不思議な関係。
医学的には不思議なこの現象。
でも、この瞬間を感じられるからこそ、より鮮明に感じられる、もうひとつの魂の存在。
ご本人は亡くなってしまった今もなお、桃華の身体を通して生き続ける強い想い。
フルートへの愛。
それを、強く桃華にも拓人にも感じさせる。
桃華と桃華の中のもうひとつの魂が、気の済むまで涙を流し終えるまで、拓人はずっと桃華を抱きしめていた。
しばらくして落ち着きを取り戻した桃華だったが、少し不安げな表情を拓人に向ける。
「何そんな顔してんだよ。大丈夫だ」
桃華の身にどのようなことが起ころうと、桃華の全てを受け入れる。
拓人の強い意思を桃華に再確認させるように、桃華を安心させるように、拓人はそっと桃華を抱き寄せて、くしゃっと桃華の頭を撫でた。
拓人の優しい笑みに、桃華もいつもの柔らかい笑みを浮かべると、2人は手を取りゆっくりとロッジまでの道のりを歩いた。
再びロッジに戻ると、ロッジのチェックアウトの時間が差し迫っていた。
急いで一通り荷物をまとめ、拓人の黒い車に詰める。
「桃華、もう忘れ物ないか?」
「うんっ! 全部車に乗せたよっ! それより、拓人も何か書いてっ!!」
桃華は拓人の方へ何やらノートを持って来る。
「何だよ、それ」
拓人が桃華から手に取ったのは、1冊の旅ノートだった。
このロッジに泊まった客が、自分達が泊まったという足跡を残せるようなものだ。
桃華はパラパラとノートをめくり、自分が描いた絵を見せる。
「私はね、これっ!! 一応、私と拓人だよっ!」
そこには、桃華の描いた拓人と桃華の似顔絵とともに、可愛らしいハートが飛んでいて、その周りには、フルートやピアノやギターやマイクや、音符等の音楽記号が描かれていた。
拓人はその絵に思わず嬉しそうに顔をほころばせると
『今度は、結婚してから来ような』
と桃華が手渡してくれたペンで書き加えた。
桃華は嬉しそうに、そのノートを胸に抱く。
そして、桃華は拓人の文字を再び見つめると、今度はおかしそうに笑った。
「でも、この文字が拓人が書いたって知ったら、世界中のTAKUのファンは驚くだろうなぁ」
「何なら、TAKUが来たって証も残すか?」
拓人はひょいと桃華からノートを掴むと、ノートの1番最後のページにTAKUのサインを油性マジックで書き込んだ。
2人はおかしそうに笑い合うと、3日間お世話になったロッジを後にした。
この時2人の書いたラブラブの旅ノートは、たくさんの人々の思い出の1ページの中のひとつとなった。
しかし、拓人が軽い遊び心で書いたTAKUの筆跡のサインは、後々マスコミに
『TAKUの泊まった痕跡残るリゾート施設』
と話題にされてしまい、マネージャーの松本とNEVERのリーダーのカイトにこっぴどく絞られたのは言うまでもなかった。
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