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第6章

波乱溢れるバーベキュー(3)

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 桃華が戻ると既にバーベキューは出来上がっていて、リナとケンは美味しそうに口にほお張っていた。


 桃華に気づいた拓人は、桃華に駆け寄って来る。


「大丈夫か? 調子悪い?」


 桃華がなかなかトイレから戻って来なかったために心配する拓人に、桃華は目も合わせずに答える。


「平気。私も食べる。拓人が焼いたやつがいい」


 少し怒った口調の桃華に、拓人はきょとんと目を見開き、おかしそうに笑う。


「俺が焼いたやつがいいって、全部俺が焼いたんだけど」


 桃華は不機嫌そうに拓人からバーベキュー串を受け取ると、「私、タレは要らないから」と冷たく言い放ち、黙々と野菜をほお張った。


 その様子に、桃華が体調が悪いというより、怒っているということに気づいた拓人は、桃華の隣に腰を下ろし、そっと桃華に耳打ちする。


「どうした? リナさんに何か言われたか?」


 桃華は静かに首を横に振るだけで、何も答えない。


 ついにはバーベキュー串3本分ほどの具材を食べて、「あとは拓人にあげる」とまで言われてしまった。



 拓人は困ったように片付けに席を立つが、桃華自身、拓人が何も悪くないことは分かっていたし、桃華は拓人に怒っていた訳じゃなかった。


 桃華は、リナや桃華の知らない拓人の知り合いの綺麗な女性たちに嫉妬している自分自身に怒っていたのだ。


 それなのに、拓人にあたってしまった、そんな自分自身にも怒っている。


 遠くなる拓人の背中が涙で歪む。


 その光景をケンとバーベキューを食べながら傍で見ていたリナは、不快そうに口を開く。


「あなた、TAKUを困らせてぇ何がしたいのぉ? TAKU可哀相~」


「……すみません」


「別にぃ、あなたに謝って欲しい訳じゃぁないんだけどぉ~。っていうかぁ、リナがぁ、TAKUの中であなたより下だなんて納得いかないしぃ~」


「え……っ!?」


「ほんとぉ、TAKUの趣味疑っちゃうわぁ! リナの方がぁ、ずっと可愛いし~、いい女だと思うけどぉ~?」


 桃華はきゅっと唇を噛み、うつむく。
(確かに、今の私は拓人にとって嫌な女かもしれない……でも……)


「リナ、TAKUのことぉ、手伝ってくるねぇ~! あなたはぁ、ケンとでも遊んどきなさぁい」


 リナは勝ち誇った笑みを浮かべ、拓人の方へ駆けて行った。


 桃華は遠目でその光景を見て、次第に吐き気が強くなり、再びトイレに閉じこもった。


 先程涙を流した時とは違い、日が暮れてきたトイレは少し薄暗かった。


 込み上げる感情に負けて吐いてしまう自分にも、隠れて涙を流してしまう自分にも、桃華は嫌気がさしていた。


 拓人は桃華がリナのバーベキューに行きたいと言ったから参加することにしたのだから、桃華が一言「嫌」と言えば良いだけの話なのに、その一言が言えなかった。



「拓人ぉ……ごめんね……でも、やっぱり嫌だよぉ」


 誰も居ない薄暗いトイレで嗚咽を漏らした。



 少し落ち着くまで泣いた後、桃華が顔を上げるとすっかり日が暮れてしまっていることに気づいた。


(そろそろ戻らないと、拓人、心配してるよね……)


 桃華はトイレの手洗い場で数回顔を濯ぐ。


(でもさっきの私の態度で、もしかして拓人に嫌われちゃったかな……)


 目の前に映る、腫れぼったい自分の顔に桃華は深いため息を落とした。
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