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第6章
波乱溢れるバーベキュー(2)
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桃華はその様子を遠目で見て、拓人に小声で話しかける。
「拓人ぉ、リナさん機嫌悪いみたいだけど……いいの?」
拓人は少し困ったような表情を浮かべ、口を開いた。
「桃華が気にすることじゃねぇよ。リナさんは、俺らの関係知った上で誘って来たんだからさ、機嫌損ねる方が間違ってる」
「そ、そうだけど……」
(拓人はそう言っても、やっぱり恐いよ……)
具材を竹串に刺し、炭火で焼く。
手に軍手を付けて、しっかり火を通す拓人。
時々額から垂れる汗を袖で拭う拓人の姿を、リナのいとこのケンの相手をしながら見つめる桃華。
リナはというと、桃華にケンの世話を押し付け、嬉しそうに拓人の焼いた具材を紙皿に乗せたり、生の具材を渡したりしている。
桃華はその様子を見て、深いため息を落とした。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ケンが桃華の顔を見上げていた。
「ううん、何でもないよ。ごめんね」
「はいっ、お姉ちゃんが元気出るように、お花あげる」
お花を差し出しながらにっこり笑うケンに、桃華もつられて笑顔になる。
「ありがとう。もう元気だから大丈夫よ」
「リナ姉ちゃんね、あのお兄ちゃんのこと好きなんだって!」
ケンが拓人のことを指さしながら、無邪気に声を上げる。
5歳の男の子がそう言っているにもかかわらず、やっぱり、と思い肩を落とす桃華。
桃華がリナの拓人への気持ちに感づいていただけに、説得力がある。
「お姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと好き?」
「え? 私!?」
桃華はリナの存在を気にしながらも、嘘はつけず、首を縦に振った。
「うん、大好きだよ」
ケンは満足そうに笑った。
「僕もお兄ちゃん大好きだよ! かっこいいし、命の恩人だしっ!」
桃華がふと視線を拓人に戻すと、明らかに色目をつかうリナの姿と、少しうっとうしそうにする拓人の姿が目に入る。
アイドル歌手なだけに、桃華の目に魅力的に映る可愛らしい容姿。
初めは本物のリナと会えたことがただ嬉しかっただけなのに、今はその姿さえも不安へと変わる。
NEVERは歌番組にも出ているのだから、拓人がアイドル歌手と知り合いでも何らおかしくない。
でも、桃華の中でモヤモヤした不安が沸き立つ。
拓人の働いている世界を桃華は知らない。
いつも拓人から桃華の傍に会いに来てくれることばかりで、普段は気にすることなんてなかったけれど。
現に、今目の前でアイドル歌手と拓人が並んでいる姿を見て、桃華は漠然と思った。
拓人は仕事を通して、リナだけじゃなく、たくさんの人の憧れの存在の綺麗な女性や可愛い女性と知り合い、仕事を共にすることがあるんだなって。
考えればすぐに分かることなのに、何で今まで気にも留めなかったのだろう?
気にしたところで、桃華がその人たちに勝る容姿を手に入れることができる訳ではないけれど……。
急に変に意識してしまって、やり場のない不安に込み上げる感情を感じる。
“嫉妬”
このモヤモヤする気持ちを何て言うのか分かっていただけに、拓人には気づかれたくなかった。
高ぶる感情を抑え切れず、桃華は立ち上がる。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「ごめんね、ちょっとトイレ行って来るね」
そして、桃華はひとりトイレの個室にしゃがみ込んで涙を流した。
(私が勝手にリナさんのバーベキューの誘いに乗ったのに、こんな風に涙を流すなんて、自業自得よね……)
桃華は、拓人がリナの誘いを断ろうとしていたのを思い出し、そっと肩を落とした。
「拓人ぉ、リナさん機嫌悪いみたいだけど……いいの?」
拓人は少し困ったような表情を浮かべ、口を開いた。
「桃華が気にすることじゃねぇよ。リナさんは、俺らの関係知った上で誘って来たんだからさ、機嫌損ねる方が間違ってる」
「そ、そうだけど……」
(拓人はそう言っても、やっぱり恐いよ……)
具材を竹串に刺し、炭火で焼く。
手に軍手を付けて、しっかり火を通す拓人。
時々額から垂れる汗を袖で拭う拓人の姿を、リナのいとこのケンの相手をしながら見つめる桃華。
リナはというと、桃華にケンの世話を押し付け、嬉しそうに拓人の焼いた具材を紙皿に乗せたり、生の具材を渡したりしている。
桃華はその様子を見て、深いため息を落とした。
「お姉ちゃん、どうしたの?」
ケンが桃華の顔を見上げていた。
「ううん、何でもないよ。ごめんね」
「はいっ、お姉ちゃんが元気出るように、お花あげる」
お花を差し出しながらにっこり笑うケンに、桃華もつられて笑顔になる。
「ありがとう。もう元気だから大丈夫よ」
「リナ姉ちゃんね、あのお兄ちゃんのこと好きなんだって!」
ケンが拓人のことを指さしながら、無邪気に声を上げる。
5歳の男の子がそう言っているにもかかわらず、やっぱり、と思い肩を落とす桃華。
桃華がリナの拓人への気持ちに感づいていただけに、説得力がある。
「お姉ちゃんも、お兄ちゃんのこと好き?」
「え? 私!?」
桃華はリナの存在を気にしながらも、嘘はつけず、首を縦に振った。
「うん、大好きだよ」
ケンは満足そうに笑った。
「僕もお兄ちゃん大好きだよ! かっこいいし、命の恩人だしっ!」
桃華がふと視線を拓人に戻すと、明らかに色目をつかうリナの姿と、少しうっとうしそうにする拓人の姿が目に入る。
アイドル歌手なだけに、桃華の目に魅力的に映る可愛らしい容姿。
初めは本物のリナと会えたことがただ嬉しかっただけなのに、今はその姿さえも不安へと変わる。
NEVERは歌番組にも出ているのだから、拓人がアイドル歌手と知り合いでも何らおかしくない。
でも、桃華の中でモヤモヤした不安が沸き立つ。
拓人の働いている世界を桃華は知らない。
いつも拓人から桃華の傍に会いに来てくれることばかりで、普段は気にすることなんてなかったけれど。
現に、今目の前でアイドル歌手と拓人が並んでいる姿を見て、桃華は漠然と思った。
拓人は仕事を通して、リナだけじゃなく、たくさんの人の憧れの存在の綺麗な女性や可愛い女性と知り合い、仕事を共にすることがあるんだなって。
考えればすぐに分かることなのに、何で今まで気にも留めなかったのだろう?
気にしたところで、桃華がその人たちに勝る容姿を手に入れることができる訳ではないけれど……。
急に変に意識してしまって、やり場のない不安に込み上げる感情を感じる。
“嫉妬”
このモヤモヤする気持ちを何て言うのか分かっていただけに、拓人には気づかれたくなかった。
高ぶる感情を抑え切れず、桃華は立ち上がる。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「ごめんね、ちょっとトイレ行って来るね」
そして、桃華はひとりトイレの個室にしゃがみ込んで涙を流した。
(私が勝手にリナさんのバーベキューの誘いに乗ったのに、こんな風に涙を流すなんて、自業自得よね……)
桃華は、拓人がリナの誘いを断ろうとしていたのを思い出し、そっと肩を落とした。
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