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第6章
深緑の中で(2)
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──ボランティア団体に声をかけられて、桃華と出会った病院。
淡いピンクのパジャマに身を包み、病室の白いベッドにちょこんと座る桃華の姿。
あの時はお互いガチガチに緊張してたな……なんて思い出す。
“一度限りのボランティア”
拓人にとって、繰り返すTAKUのファンになってくれた子との、一期一会のうちのひとつになると思ってた。
『また、会いに来てもいいかな?』
あの日、あの時、全てが始まった。
こんな気持ち知らなかった。
こんなに誰かを強く愛せるなんて思わなかった。
次第に頻繁に桃華の病室に足を運ぶようになる拓人。
桃華の隣に居る
それが拓人の居場所となっていた。
ある日現れたジュン。
挑発的なジュンの態度により気づかされた桃華への想い。
今から思えば、ジュンはあの時から気づいていたんだろうな。
桃華の拓人への気持ちも。
拓人自身、あの時はまだ気づいていなかった桃華への気持ちも……。
ミカの嫉妬による嫌がらせに遭った桃華をかばった時に心臓発作を起こし、病態が急変して命を落としたジュン──。
『桃華ちゃんを幸せにしてあげて……何かあったら守ってあげて……拓人さん強いから大丈夫』
最後に拓人に残した言葉……今も鮮明に思い出される。
罪悪感を感じた桃華は、一時は拓人を避け、自分自身を追い詰めた。
久しぶりに桃華と会えた日、桃華の口からこぼれ落ちた桃華の気持ち。
通い合う2人の想い──。
恋人同士になってから、限られた時間であったが、甘い日々を過ごした。
でも幸せばかりが続く訳はなく、TAKUのファンに桃華が狙われることもあった。
そして、桃華の病態の悪化。
目の前で起きた桃華の心臓発作。
差し迫る桃華の死に下した桃華の決意……。
訪れた別れ──。
永遠の別れだとは思いたくなかった。
いつかまた必ず巡り会える──。
桃華には待つなと言われても、その日を信じて待った。
常に不安と隣り合わせだった3年間……。
あの時からは、今の2人の姿は、お互いに想像できなかっただろう。
そして、昨年の春、移植手術に成功して回復を遂げた桃華と無事に再会を果たした。
あれから1年半近く経ち、半年後には結婚を控えた今がある。
今までの記憶が、まるでパノラマに映し出された映像のように思い出され、今腕の中にある幸せな温もりに目を開けると、ポタポタと涙がこぼれ落ち、すやすや眠る桃華の頬に伝った。
桃華が拓人の涙に反応して、微かに顔を歪め、再び寝息を立てる姿がおかしくて。
でも、その姿を見られるということが嬉しくて。
当たり前のようで当たり前じゃない今に幸せを感じて。
眠る桃華の赤い唇にそっと唇を重ねた。
しばらくそうしていると、突然静寂なその空間を破るような叫び声が聞こえた。
「誰かぁーっ!!」
その声に驚き、拓人は顔を上げ、辺りを見渡す。
「ん……? 何かあったの?」
桃華もその声に目を覚ましてしまったようで、目を擦りながら身体を起こした。
「誰かぁー、助けてぇー!!」
先程より大きく聞こえる女性の叫び声。
淡いピンクのパジャマに身を包み、病室の白いベッドにちょこんと座る桃華の姿。
あの時はお互いガチガチに緊張してたな……なんて思い出す。
“一度限りのボランティア”
拓人にとって、繰り返すTAKUのファンになってくれた子との、一期一会のうちのひとつになると思ってた。
『また、会いに来てもいいかな?』
あの日、あの時、全てが始まった。
こんな気持ち知らなかった。
こんなに誰かを強く愛せるなんて思わなかった。
次第に頻繁に桃華の病室に足を運ぶようになる拓人。
桃華の隣に居る
それが拓人の居場所となっていた。
ある日現れたジュン。
挑発的なジュンの態度により気づかされた桃華への想い。
今から思えば、ジュンはあの時から気づいていたんだろうな。
桃華の拓人への気持ちも。
拓人自身、あの時はまだ気づいていなかった桃華への気持ちも……。
ミカの嫉妬による嫌がらせに遭った桃華をかばった時に心臓発作を起こし、病態が急変して命を落としたジュン──。
『桃華ちゃんを幸せにしてあげて……何かあったら守ってあげて……拓人さん強いから大丈夫』
最後に拓人に残した言葉……今も鮮明に思い出される。
罪悪感を感じた桃華は、一時は拓人を避け、自分自身を追い詰めた。
久しぶりに桃華と会えた日、桃華の口からこぼれ落ちた桃華の気持ち。
通い合う2人の想い──。
恋人同士になってから、限られた時間であったが、甘い日々を過ごした。
でも幸せばかりが続く訳はなく、TAKUのファンに桃華が狙われることもあった。
そして、桃華の病態の悪化。
目の前で起きた桃華の心臓発作。
差し迫る桃華の死に下した桃華の決意……。
訪れた別れ──。
永遠の別れだとは思いたくなかった。
いつかまた必ず巡り会える──。
桃華には待つなと言われても、その日を信じて待った。
常に不安と隣り合わせだった3年間……。
あの時からは、今の2人の姿は、お互いに想像できなかっただろう。
そして、昨年の春、移植手術に成功して回復を遂げた桃華と無事に再会を果たした。
あれから1年半近く経ち、半年後には結婚を控えた今がある。
今までの記憶が、まるでパノラマに映し出された映像のように思い出され、今腕の中にある幸せな温もりに目を開けると、ポタポタと涙がこぼれ落ち、すやすや眠る桃華の頬に伝った。
桃華が拓人の涙に反応して、微かに顔を歪め、再び寝息を立てる姿がおかしくて。
でも、その姿を見られるということが嬉しくて。
当たり前のようで当たり前じゃない今に幸せを感じて。
眠る桃華の赤い唇にそっと唇を重ねた。
しばらくそうしていると、突然静寂なその空間を破るような叫び声が聞こえた。
「誰かぁーっ!!」
その声に驚き、拓人は顔を上げ、辺りを見渡す。
「ん……? 何かあったの?」
桃華もその声に目を覚ましてしまったようで、目を擦りながら身体を起こした。
「誰かぁー、助けてぇー!!」
先程より大きく聞こえる女性の叫び声。
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