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第4章

朗報(2)

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 ユウスケは急に真剣な表情になり、桃華を見つめる。


「どうしたの?」


 桃華は不思議そうな声を出す。


「さっき、ここで待ってた時聞こえちゃったんだけどさ……モモ、結婚するの?」


「え、あ……うん。高校卒業したら結婚しようって、結婚考えてって言われたの」


 桃華はユウスケに告白されていたのもあり、少し申し訳ない気持ちに包まれ、思わずうつむいた。


「良かったじゃん。おめでとう」


「え……?」


「良かったら結婚式には呼んでな!」


 ユウスケはいつもと変わらない笑顔を向ける。


「う、うん……」



「あんまり気を使わないでよ。変に気を使われる方が辛い。俺とモモはさ、友達だろ? 友達が幸せになるんだ。俺も嬉しいよ」


「ありがとう……」


 桃華はユウスケの優しさに心から感謝するも、やっぱり少し胸が痛む。


「ほらっ! もっと喜びなよ! いつまでもそんな辛そうな顔してたら、今日のフルートのレッスン厳しくするよ?」


「わっ! それは困るっ!!」


 桃華の慌てぶりにユウスケは声を上げて笑った。



「でも、春卒業を逃してくれたモモのおかげで、秋卒業までモモは暇な時間がたくさんできたんだからさ、それまで一緒にいっぱいフルート吹こうな!」


 少し嫌味の含む言葉を、悪気のない笑顔で嬉しそうに言うユウスケに、桃華は怒るに怒れなくて

「もう! ユウくんはっ!!」

 と言いながらもユウスケにつられて顔がほころんだ。








 その夜、桃華は早速拓人に卒業のことについて報告したくて電話をかけた。



 ──プルルルル。
 ──プルルルル。
 ──プルルルル……。



 さっきまで桃華が見ていた歌番組にNEVERが出ていたのもあり、拓人の自宅に電話をかけても誰も出ないことは分かっていた。


 でも、どうしても伝えたかった。


 だからと言って、拓人の携帯電話にかける程の内容でもない。


 そう思った桃華は、拓人の自宅の留守電にメッセージを入れることにしたのだ。



 何回かの呼び出し音の後、留守電に切り替わる音が聞こえた。



『お電話ありがとうございます、杉本です。ただ今電話に出ることができません。御用の方は、ピーと鳴りましたら伝言お願い致します』


 拓人の声で録音された、留守電が再生される。


 日頃の拓人とまた違った、改まった声に桃華は思わずドキドキしてしまう。


「もっ、もしもし。もっ桃華ですっ! あ、あのね、拓人。私ね、前言ってた試験で卒業単位数超えてね、秋卒業確実になったんだ! えへへ。また明日ね! おやすみ」


 桃華はそれだけ言い終えると、その夜は寝ることにした。



 明日は桃華のお誕生日。


 拓人とは、お昼過ぎから会えることになっていた。


(明日、拓人に会うの楽しみだな……)


 桃華は頭から布団に潜り込み、ゆっくり目を閉じた。
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