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第4章

約束(1)

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  すやすやと拓人の隣で寝息を立てる桃華をぎゅっと抱きしめる。


 微かに開いた愛しい唇にそっと唇を重ねた。


 その唇を舌でなぞるようにして舐めると、桃華がピクンと反応して、その姿にも愛しさを感じる。


 拓人はプッと吹き出すように笑うと、桃華に身体を密着させ「ありがとう」と小さく呟いた。



 時計の音が微かに聞こえる。


 桃華の温かい体温を感じながら、桃華の鼓動を感じながら、桃華と呼吸のリズムを合わせ、拓人はゆっくり目を閉じた。





 どれくらい経ってからだろう? 甘えるような愛しい声が耳元で響く。


「拓人ぉ~」


 ゆっくり目を開けると、布団の中から顔だけを覗かせ、上目遣いで拓人を見つめる桃華の姿があった。


「悪い……寝てた。身体、大丈夫?」


「まだ少し痛いけど、大丈夫。すごく幸せ……」


「可愛い……」


 拓人は愛おしさのあふれる瞳で桃華を見つめる。


 桃華は「えへへ」と嬉しそうに、照れ笑いを浮かべた。


「時間、大丈夫か?」


 拓人が枕元の時計に手を伸ばす。


 ちょうど、夜の6時を回ったところだった。


「ちょっと遅くなっちゃったな。ごめんな」


「ううん、大丈夫。電話だけしておく。電話貸して?」


 拓人は自分の携帯電話を桃華に渡す。





 桃華が電話を終えると、再び桃華は拓人と身体を密着させた。


「もう少し遅くなるって言っちゃった」

 てへっと舌を出す桃華。


「もう、桃華ったら。嬉しいけど、桃華の身体の負担にならねぇか心配……」


「大丈夫だよ。今夜はぐっすり寝るから」


「なら良いんだけど」


 拓人はぎゅっと桃華を抱きしめた。


「本当ならね、ずっと一緒に居たいな。ずっとここで拓人の帰りを待って、少しでも長く一緒に居て、夜は一緒に寝たい」


「桃華……」


「えへへ。今の私の将来の夢! 拓人の帰る家に住むこと!」


「そんな可愛いこと言われると、また襲っちゃいそうになるじゃねぇか!」


 拓人が顔を真っ赤に染めて言うと、桃華は幸せそうに笑った。



「拓人と出会った頃は、自分には未来がないってあきらめてたけど、拓人に出会ってから、どんどん小さな夢ができて。どんどんそれを追いかけていくうちに、こんなに幸せになれた。拓人って、魔法使いみたい」


「俺は魔法使いでもなんでもねぇよ。あきらめなければ、きっと何か見える物がある。桃華があきらめずに頑張った結果が“今”に繋がってんじゃねぇのかな?」


 拓人はそっと桃華の左手を取り、薬指のペアリングにキスを落とす。



「桃華って、高校いつ頃卒業できそう?」


「うーん、この春の卒業には間に合わなくて……。今度の試験終わらないと分からないけど、多分この秋には卒業できると思う」


 桃華の通う通信制の高校は、春と秋と2回に分けて卒業式が行われる。


 春卒業は3月頭。

 卒業者名簿に載るためには、桃華はあと数単位届かなかったんだ。
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