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第4章

深まる愛(2)

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「嫌、じゃないよ……。でも、手術の跡とかいっぱい残ってて……綺麗じゃないから……拓人、がっかりしちゃうから」


「桃華……、それ本気で言ってるなら本当に怒るぞ?」


 拓人が掛け布団の上からガシッと力強く桃華の肩を掴み、恐いくらいに真剣な表情で声を上げたので、桃華は思わずビクッと身をすくめた。



 そして、拓人はそっと掛け布団に包まれたままの桃華を、優しく抱きしめる。



「だって、それは桃華が頑張って辛い治療を耐えたっていう証じゃねぇか……。桃華が生きたいって思って頑張った痕跡だろ? ……んなバカなこと、口にすんじゃねぇよ」



 そう。これは、桃華が辛い治療を耐えた跡。


 桃華を生かしてくれた、大切な傷跡……。


 この傷跡のおかげで今がある。


 桃華も分かってるし、分かってた。


 でも、それ以上に不安だったんだ。


 拓人の言葉。

 拓人にそう言ってもらえるだけで、桃華は救われる思いだった。


 拓人は何があっても、どんな桃華も受け入れてくれた。


 桃華はそっと手を伸ばし、拓人の手をギュッと握った。


「……ごめ、んなさい……ありが、とう……」


 桃華は震える声で拓人に言い、涙を溜めた瞳で拓人を見つめる。


「……いいよ、拓人」


 その言葉を聞き、拓人は遠慮がちに掛け布団に手を添える。


 そして、拓人がもう一度確認するように桃華を見つめると、桃華は拓人を見つめたまま静かに頷いた。


 掛け布団を取り、あらわになる桃華の胸元。


 拓人はその姿を真っ直ぐに見据える。


「やだ……、そんなに見ないで。恥ずかしいよ、拓人」

 桃華は真っ赤な顔を脇へ逸らす。


「ごめ……、見とれてた。……何だよ。すげぇ綺麗じゃん」

 拓人は恥ずかしそうにフワッと柔らかく微笑むと、桃華の胸元にキスを落とした。


 桃華の身体がビクンと反応する。


 拓人はその姿を見て嬉しそうな表情を浮かべ、自分の着ていたTシャツを脱いだ。


「桃華……」


 拓人もベッドの上に乗り、お互い向かい合わせで座る。


 桃華がふと視線を落とすと、拓人の左の脇腹にナイフで刺された跡を示す古傷が、うっすらと残っていた。


「拓人、その傷跡……」


 そう。昔、桃華が拓人のファンに狙われて刺されそうになったのを、拓人がかばってできた傷。


「ああ、これか? 桃華が気にすることじゃねぇよ」

 優しく微笑む拓人。


 この身体が守ってくれたんだ。

 桃華はそっと、その古傷に触れる。


「あの時は……守ってくれて、ありがとう」



 桃華の胸元の傷跡。
 拓人の脇腹の傷跡。


 桃華は改めて、今ここに居られる奇跡を感じた。


 そして、今、愛する人とひとつになろうとしているんだ。



「桃華……?」


 桃華はいろんなことが頭を巡り、気づけば一筋の涙が頬を伝っていた。


 拓人は突然の桃華の涙に慌てているようだった。


「ごめんなさい。私って幸せ者だなって思ったら、涙が……」


 拓人はそっと目の前の桃華を抱き寄せる。


「桃華にはもっともっと幸せな思いさせてやるよ。これから先も、ずっと──」


 だから、傍にいて欲しい──。


 そんな思いを込めて、拓人は桃華の唇に優しく唇を重ねた。



「愛してる……」


「私も、愛してるよ」


 ゆっくり桃華を押し倒し、何度も重なり合う唇。


 次第に濃厚なキスへと変わる。


 直に互いの肌が触れ合い、互いの温もりを感じる。


 拓人の唇は桃華の額へ、頬へ、耳へ、首筋へと落とされる。


 そして、桃華が気にしていた胸元に顔を埋め、愛おしむように舌を這わせる。


 しきりに反応する桃華の身体と、部屋中に響き渡る桃華の声。


 お互いの吐息が熱を帯びる。


 拓人の舌は桃華の身体を這うように下へ下へと進んでいった。




「……桃華、大丈夫?」


「う、ん……いいよ」


「……辛くなったら言えよ」







 そして──。







 2人はひとつになった。







 ぎゅうぅっと拓人の背中に回された桃華の腕に力がこもる。


 痛みに顔を歪めながらも拓人に幸せそうな笑みを向ける桃華を、拓人もぎゅっと腕に抱きしめながら、お互いの体温を感じあった──。

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