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第4章

告白(1)

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  拓人が出て行って、1人残された自分の部屋の鏡の前で首筋を撫でる桃華。


 そこには拓人のキスマークが、くっきりと残っていた。


(……拓人、本当にどうしちゃったんだろう?)


 はじめは疲れてるのかなとか、いつもみたいに寂しいって言ってくれるのかなとか思ってた。


 でも、今日は何だか怒っているような、イライラしているようにも見えた拓人。



(あんな拓人、初めて見た……)


 鏡の中の桃華の姿が、涙で滲む。


(私、何か怒らせるようなことしちゃったのかな……)


 完成に向けて頑張って編んでる2つのセーターに目をやる。


(私と拓人、このままダメになっちゃうのかな……)


 桃華はベッドの下からそっとフルートを取り出した。


(もしかして、フルート始めてたのを内緒にしてたから、怒らせちゃったのかな?)


 拓人が辛そうに言った言葉が脳裏に蘇る。


『お願いだから隠し事はやめて欲しい』


(拓人、気づいてたのかな……?)


 いろいろな想いが桃華の頭を過ぎる。

 拓人の考えていることが分からない桃華は、一層不安が募った。



 ──このまま拓人と仲直りできずにダメになっちゃったらどうしよう。



 桃華はその場でうずくまるように座り、泣き崩れた。


 ──何がいけなかったんだろう?

 ──何で拓人は何も言ってくれないんだろう? 

 ──この全く連絡のなかった10日程、拓人に一体何があったの?


「拓人ぉ……」


 部屋の壁を見つめれば、こちらを見つめて微笑むTAKUの姿。


 部屋の至るところに飾られたポスターの中のTAKUは昔と変わらないままなのに、拓人の心は変わってしまったのだろうか?



 もう、二度とあの優しい拓人は戻って来ないのかな……。

 桃華はそんな不安にさえ包まれた。



 2人の思い出の曲『桃色恋華』


 桃華はフルートを手に取り、悲しい音色を響かせた。


 もう、ひとつの曲としてちゃんと演奏できるようになった『桃色恋華』


 バレンタインのサプライズにする予定だったんだ。



(でも、このままダメになっちゃったら、これも無意味だったんだよね……)


 桃華はフルートをテーブルの上に置き、再び涙をこぼした。







 あれから拓人からの連絡は来る気配もなく、数日が過ぎ2月になった。


 通信制の高校の登校日だった今日、桃華はいつものようにユウスケとフルートの練習をしていた。



 拓人に聴かせる予定だった『桃色恋華』のフルートの音色が、虚しく音楽室内に鳴り響く。



「モモ、何かあった? 今日のモモの『桃色恋華』すごく元気ない」


「そうかな……?」


「ていうか、今日のモモのフルートの音自体沈んでる」


「えっ!?」


「吹く人の気持ちはね、音になって現れるんだよ」


 ユウスケはそれだけ言うと、フルートを片付け始めた。


「モモも片付けなよ。気分転換も大切な練習だよ」


「え……でも……」


「そんな状態で練習続けたって意味ないからね」


「うん……」





 各々荷物をまとめ、帰り道を歩く。


「……こんなこと聞くのもあれだけどさ、彼氏と何かあったの?」


「え……!?」
(無かったって言えば嘘になるかな……)



『……俺、正直桃華の気持ち、分かんねぇよ』


『……俺ら、少し距離置かねぇか?』



(本当。拓人、急にどうしちゃったんだろう)

 桃華は深いため息を落とした。



「話くらいなら聞くよ」

 桃華の雰囲気を察してなのだろうか、ユウスケは真面目な面持ちでそう言った。


「彼氏に聴かせてやるために『桃色恋華』練習してるんでしょ? 喧嘩したなら仲直りしなきゃ」


 あれを喧嘩って言うのか桃華は分からなかった。


 桃華は何かを答える替わりに、一筋の涙を落とした。



 ここで泣かれても困る。

 そう思ったユウスケは、桃華の腕を引き近くの公園へ連れて行った。
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