上 下
39 / 115
第3章

浮気疑惑(1)

しおりを挟む
  ヒロはみんなの居た部屋を出て、酔って少しフラつく視界の中、カイト達が居ると思われるスタッフルームへ足を運んだ。


「お邪魔~っ!」

 ヒロはおちゃらけた笑みを浮かべ、その扉を開く。


「ヒロっ! どないしたんや!」

 ミカと立ち話していたカイトは、ヒロを見て大きく目を見開いた。


「だからぁ~邪魔しに来てやった! おもしろいもん見れんじゃねぇかなってな!」


「おまえなぁ……」


 カイトは呆れたような笑みを浮かべる。


「ヒロくんは、どう思う?」

 ミカの深刻そうな声に、ヒロはミカに視線を移す。


「何? 何かあったのか?」

 ヒロは真剣な表情のミカとカイトを見比べる。


「いや、桃華ちゃんの話やねんけどな……。って言うても、俺らも桃華ちゃんといつも会っとる訳やないから、ただの誤解って可能性も大いに有り得るねんけどな……」


「あの子、浮気してるかも」

 ミカの鋭い言葉にヒロは息を呑み、以前、楽器店で桃華と会った記憶が蘇る。


「マジかよ……。でも……」

(クリスマスライブの時は、ラブラブだったじゃねぇか……)


 戸惑う表情を見せるヒロにミカは続けた。


「ミカ見たのよっ! あの子が公園で男の子と抱き合っていたところを……」


 室内が静まり返り、張り詰めたピリピリした緊張感が3人を包み込む。


「それだけじゃないわ! ミカ、何回もあの桃華って子がその男の子と歩いてる姿を見たの……。ミカから拓人を奪っておきながら、元気になったら浮気だなんて……ミカ、許せなくて……」

 まだ拓人への想いが残るミカは、耐え切れなくなった涙を流した。


「あの嫉妬深い拓人が何も言うてへんあたりやとな、多分拓人はその男のことは知らへんのとちゃうか?ってとこまで話してたんや」


「その男……どんな奴だった?」

 ヒロは嫌な予感がして、震える唇を動かす。


「色白で、色素の薄い少し長めのウェーブのかかった髪で、高校生くらいの男の子かな」




 ヒロは「え……」っと漏らし、唇を噛み締め視線を下へ落とした。



「ヒロ、おまえ何か知っとんか?」

 カイトがヒロの両肩を掴む。


「え、いや……」


 少しためらい口を閉ざし、一呼吸おいてヒロは口を開いた。


「先月の始め頃だったかな、俺も良く似た奴と桃華ちゃんが一緒に居るところに出くわしたんだ」


 カイトとミカは大きく目を見開いた。


「ヒロくん、それ本当!? どこで!? 2人は、どうだったの……?」


「この近くの楽器店。楽譜売り場の方から楽しそうに2人が飛び出して来て、俺は桃華ちゃんにぶつかられたんだ……。友達かって聞いたら友達だって答えてたけど、確か雨の日で相合い傘して……」


「やっぱり……拓人浮気されてるんだわ」

 ミカはその場にひざまずき、両手で頭を抱えた。


「許せない……、何で拓人があんな子なんかに……」



「でも、まだそうと決まった訳じゃ……」

 取り乱すミカに、ヒロはうろたえる。




「絶対そうよっ!! 拓人が忙しい中、頑張って会いに行ってるのに、やっぱり寂しくて近所の男の子に乗り換えるつもりなのよっ!! 公園で抱き合ってたのが、何よりの証拠じゃないっ!!」


「ミカちゃん、あかんっ! もうちょい落ち着いてや」


 大声で怒鳴り、ヒロにつかみ掛かろうとしたミカを、カイトが後ろから押さえた。


「ミカちゃんが拓人のことを心配なんはよう分かる。でもな、決めつけはあかんと思う」


「でも……っ、ミカは見たのよ!? 桃華って子は結局ただの浮気女なのよ!!」






 ──バンッ。



 勢いよくスタッフルームの扉が拳で殴りつけられる音が響き渡り、3人は一斉に扉を見た。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

【完結】やさしい嘘のその先に

鷹槻れん
恋愛
妊娠初期でつわり真っ只中の永田美千花(ながたみちか・24歳)は、街で偶然夫の律顕(りつあき・28歳)が、会社の元先輩で律顕の同期の女性・西園稀更(にしぞのきさら・28歳)と仲睦まじくデートしている姿を見かけてしまい。 妊娠してから律顕に冷たくあたっていた自覚があった美千花は、自分に優しく接してくれる律顕に真相を問う事ができなくて、一人悶々と悩みを抱えてしまう。 ※30,000字程度で完結します。 (執筆期間:2022/05/03〜05/24) ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ 2022/05/30、エタニティブックスにて一位、本当に有難うございます! ✼••┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈••✼ --------------------- ○表紙絵は市瀬雪さまに依頼しました。  (作品シェア以外での無断転載など固くお断りします) ○雪さま (Twitter)https://twitter.com/yukiyukisnow7?s=21 (pixiv)https://www.pixiv.net/users/2362274 ---------------------

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

極上の一夜で懐妊したらエリートパイロットの溺愛新婚生活がはじまりました

白妙スイ@書籍&電子書籍発刊!
恋愛
早瀬 果歩はごく普通のOL。 あるとき、元カレに酷く振られて、1人でハワイへ傷心旅行をすることに。 そこで逢見 翔というパイロットと知り合った。 翔は果歩に素敵な時間をくれて、やがて2人は一夜を過ごす。 しかし翌朝、翔は果歩の前から消えてしまって……。 ********** ●早瀬 果歩(はやせ かほ) 25歳、OL 元カレに酷く振られた傷心旅行先のハワイで、翔と運命的に出会う。 ●逢見 翔(おうみ しょう) 28歳、パイロット 世界を飛び回るエリートパイロット。 ハワイへのフライト後、果歩と出会い、一夜を過ごすがその後、消えてしまう。 翌朝いなくなってしまったことには、なにか理由があるようで……? ●航(わたる) 1歳半 果歩と翔の息子。飛行機が好き。 ※表記年齢は初登場です ********** webコンテンツ大賞【恋愛小説大賞】にエントリー中です! 完結しました!

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

処理中です...