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第3章
予兆の連鎖(2)
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ロケ地に着くと、早速PV撮影が開始された。
様々な角度から撮影される演奏風景。
電波も届かない山奥に、NEVER5人の奏でるロックは、広い空と立ちはだかる木々に吸い込まれていくようだった。
様々なポーズ、様々な表情、様々な表現、様々な角度からひとつの曲を奏でる。
撮影開始前は、この寒い季節に山奥か……と思っていた5人も、日が暮れて撮影が一旦終了する頃には、汗ばんで暑ささえ感じていた。
「皆さんお疲れさまです。あちらのコテージでゆっくりお休み下さい」
NEVERのマネージャーの松本が、ひょっこり姿を現した。
「ありがとうございます。ほな、みんな行くか?」
カイトのかけ声で、各々タオルで汗を拭いながらコテージへ移動した。
NEVERの5人に用意された部屋は、少し小さめの和室だった。
「汗が引いてくると、やっぱり寒いなぁ」
「まぁ、言うても真冬やからな」
ヒロがブルブルと身震いさせながら言う言葉にカイトが返す。
「あれ? 拓人、何やってるの? ここは圏外だって、松本さん言ってたじゃん」
携帯電話の画面をタップしては耳元に当てるのを繰り返す拓人の様子を見て、ハルキが言う。
「え? ああ……一瞬でも電波飛ばねぇか、試してた」
「何だぁ~? 拓人、桃華ちゃんに電話かぁ?」
少し遠くからこちらの様子を見ていたヒロが叫んだ。
「え? まぁ……」
拓人は少し顔を赤らめる。
「ほんま拓人は桃華ちゃん1番やなぁ」
「……うるせぇよ。ほっとけ。ちょっと外行ってくるわ」
拓人はぶっきらぼうに言い放つと、携帯電話を片手にコテージを後にし、夜の闇を放つ森の中へと出た。
どこからともなく吹く冷たい風が拓人の首筋を撫でる。
立ちはだかる木々は、夜の闇となり、目の前の拓人を飲み込むかのよう。
木々の隙間から見える夜空は、都会では見えない小さく輝く星が無数に散らばり、幻想的な世界を醸し出していた。
どのくらい歩いたのだろう。
木々を抜け、綺麗な夜景が見える所まで拓人は来ていた。
目の前は崖になっているようだった。
(行き止まり……か)
拓人は最後の願いを込めて、木々が開けた場所だし、もしかしたらと思い、発信をタップする。
『──電波状況の良い所でおかけ直し下さい』
さっきから耳にタコができる程に聞いた、機械的な女の人の声が虚しく夜空に響く。
いつもはこんな風にムキになって電話したりしないのだが、なんだか今日は寂しかったんだ。
(ちょっと声が聞きたくなっただけなのにな……あきらめるか……)
先程から数え切れない程落としているため息よりも、一層深いため息をひとつ落とした。
(まぁ、せっかくここまで来たし、この夜景だけ写真に撮って戻るか。帰ったら桃華に見せてやろう)
拓人は片手に握りしめていた携帯電話のフォト画面を夜景に向けた。
──カシャ。
小さな音が、静かな空間に響いた時だった。
「あらぁ、TAKUじゃない~! ラッキーっ!」
甲高い、甘ったるい声が響き、拓人はビクッとして振り向いた。
「リナさんっ!?」
拓人の視界の先で捉えたのは、今人気上昇中の女性アイドル歌手、リナ。
明るい栗色のウェーブのかかった長い髪
人形のようにまつ毛が長く、丸くぱっちりした瞳
その格好では寒いだろうと思ってしまうくらい胸元の開いた、キラキラの赤いドレスからは、白い谷間が綺麗に見えていた。
可愛くて、色っぽい女性で人気があるらしいが、拓人は少なからずこの女性の甘ったるい雰囲気が苦手だった。
リナとは数回歌番組で一緒になったことがあり、挨拶程度に会話を交わしていた。
しかし、薄々自分に好感を持たれていることに気づいていた拓人は、なるべく関わらないようにしていた。
様々な角度から撮影される演奏風景。
電波も届かない山奥に、NEVER5人の奏でるロックは、広い空と立ちはだかる木々に吸い込まれていくようだった。
様々なポーズ、様々な表情、様々な表現、様々な角度からひとつの曲を奏でる。
撮影開始前は、この寒い季節に山奥か……と思っていた5人も、日が暮れて撮影が一旦終了する頃には、汗ばんで暑ささえ感じていた。
「皆さんお疲れさまです。あちらのコテージでゆっくりお休み下さい」
NEVERのマネージャーの松本が、ひょっこり姿を現した。
「ありがとうございます。ほな、みんな行くか?」
カイトのかけ声で、各々タオルで汗を拭いながらコテージへ移動した。
NEVERの5人に用意された部屋は、少し小さめの和室だった。
「汗が引いてくると、やっぱり寒いなぁ」
「まぁ、言うても真冬やからな」
ヒロがブルブルと身震いさせながら言う言葉にカイトが返す。
「あれ? 拓人、何やってるの? ここは圏外だって、松本さん言ってたじゃん」
携帯電話の画面をタップしては耳元に当てるのを繰り返す拓人の様子を見て、ハルキが言う。
「え? ああ……一瞬でも電波飛ばねぇか、試してた」
「何だぁ~? 拓人、桃華ちゃんに電話かぁ?」
少し遠くからこちらの様子を見ていたヒロが叫んだ。
「え? まぁ……」
拓人は少し顔を赤らめる。
「ほんま拓人は桃華ちゃん1番やなぁ」
「……うるせぇよ。ほっとけ。ちょっと外行ってくるわ」
拓人はぶっきらぼうに言い放つと、携帯電話を片手にコテージを後にし、夜の闇を放つ森の中へと出た。
どこからともなく吹く冷たい風が拓人の首筋を撫でる。
立ちはだかる木々は、夜の闇となり、目の前の拓人を飲み込むかのよう。
木々の隙間から見える夜空は、都会では見えない小さく輝く星が無数に散らばり、幻想的な世界を醸し出していた。
どのくらい歩いたのだろう。
木々を抜け、綺麗な夜景が見える所まで拓人は来ていた。
目の前は崖になっているようだった。
(行き止まり……か)
拓人は最後の願いを込めて、木々が開けた場所だし、もしかしたらと思い、発信をタップする。
『──電波状況の良い所でおかけ直し下さい』
さっきから耳にタコができる程に聞いた、機械的な女の人の声が虚しく夜空に響く。
いつもはこんな風にムキになって電話したりしないのだが、なんだか今日は寂しかったんだ。
(ちょっと声が聞きたくなっただけなのにな……あきらめるか……)
先程から数え切れない程落としているため息よりも、一層深いため息をひとつ落とした。
(まぁ、せっかくここまで来たし、この夜景だけ写真に撮って戻るか。帰ったら桃華に見せてやろう)
拓人は片手に握りしめていた携帯電話のフォト画面を夜景に向けた。
──カシャ。
小さな音が、静かな空間に響いた時だった。
「あらぁ、TAKUじゃない~! ラッキーっ!」
甲高い、甘ったるい声が響き、拓人はビクッとして振り向いた。
「リナさんっ!?」
拓人の視界の先で捉えたのは、今人気上昇中の女性アイドル歌手、リナ。
明るい栗色のウェーブのかかった長い髪
人形のようにまつ毛が長く、丸くぱっちりした瞳
その格好では寒いだろうと思ってしまうくらい胸元の開いた、キラキラの赤いドレスからは、白い谷間が綺麗に見えていた。
可愛くて、色っぽい女性で人気があるらしいが、拓人は少なからずこの女性の甘ったるい雰囲気が苦手だった。
リナとは数回歌番組で一緒になったことがあり、挨拶程度に会話を交わしていた。
しかし、薄々自分に好感を持たれていることに気づいていた拓人は、なるべく関わらないようにしていた。
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