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第2章

記憶転移(1)

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 花火大会帰りの拓人の車は、桃華の家の前で静かに停車する。


「桃華! 着いたぞ?」


 助手席で桃の形のビーズクッションを抱きながら、すやすや眠っていた桃華の身体を揺さぶる。


「……ん、あれ?」


「桃華、着いたぞ。疲れたか?」


「……ううん。楽しかった」


 拓人は、眠たそうに目を擦る桃華に微笑みかけ、車から降り、助手席のドアを開ける。


「拓人? もうちょっと一緒に居られる?」

 拓人の手を握り、車から降りる桃華は、甘えるように言う。


「俺は大丈夫だけど、桃華疲れてるみたいだし、今夜はゆっくり休んだ方が……」


 嫌だと言わんばかりにそのままぎゅうっと拓人に抱き着く桃華。


 桃華に甘えられると弱い拓人は、桃華の頭をポンポンと手の平で軽く叩いて言った。


「しょうがねぇな。ちょっとだけだぞ?」


 桃華は嬉しそうに笑い、家のチャイムを押した。

 玄関から姿を現した桃華の母親の後に続き、拓人と桃華は家に上がる。


「おっ、こんばんは。拓人くん、久しぶりだね」

 玄関先には、桃華の父親の姿があった。


「こんばんは。お久しぶりです」


「また、桃華と仲良くしてくれてありがとう。ゆっくりしていって下さい」


「ありがとうございます。お邪魔します」


 拓人は桃華の父親に軽く頭を下げ、桃華と一緒に帰宅後の手洗いうがいをして、桃華の部屋に通された。


「拓人、私浴衣だし、ちょっと着替えてくるね。何か飲み物欲しかったら持って来るけど、何がいい?」

 部屋に入るなり、桃華は楽しそうに口を開く。


「ああ、何でもいいよ」

 拓人は桃華の傍に行き、フワッと桃華の頬に触れる。


「……どう、したの?」

 拓人に真っ直ぐ見つめられて、桃華に緊張の波が押し寄せる。


「桃華の浴衣姿、目に焼き付けておこうと思って」


「やだ、拓人ったら、恥ずかしいよ……」


 恥ずかしがる桃華を抱き寄せ、首筋に顔を埋める拓人。

 しばらくそうして、
「ありがとう。行っておいで」
 と拓人は桃華の背を押した。



 改めて桃華の部屋に1人になった拓人。


 見回せば見回すほどに、NEVERやTAKUのポスターやカレンダーやグッズに囲まれる空間。


(桃華と居る時はあまり気にならねぇけど、1人になるとなんかあいつらに見られてるみたいで落ち着かないな……)


 拓人は壁に貼られたNEVERのポスターを見てそう思う。



 CDデッキの傍には、この前発売したばかりのNEVERの新曲のCDがすでに置かれていて、拓人はなんだか照れ臭く感じた。


(もう買ったんだ。言ってくれればあげるっていつも言ってるのに……)


 拓人はその新曲のCDを手に取り、以前、桃華が

『だって、ファンとしては、お店で予約して買うのがいいんだもん』

 と言っていた姿を思い出して、プッと吹き出すように笑った。


 そのCDを元あった場所に戻そうとした時、拓人の目に見慣れないCDが入った。
 


『Daphnis et Chlo』
『フルートアンサンブル集』

 そう書かれた2枚のCD。


(あれ……? 桃華ってこういうの聴くっけ?)

 今まで桃華はNEVERのCDばかり聴いてるイメージしかなかった拓人は、桃華の意外な一面に触れてしまったような気持ちになった。


 しかも、オーケストラとか吹奏楽とかフルートとか、そんな単語を桃華が口にしているのを聞いたことがなかっただけに、違和感さえ覚えた。
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