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守護霊契約

マモル 三/五

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 そこらじゅうからわき出る小さな闇が、集まり、まとまり、大きくなる。
 闇は、小さなものならすぐに消せるが、大きくなると厄介やっかいだ。
 速さが増し、強さが増し、俺を取り込もうとおそいかかってくる。
 三ヶ月前にレイから聞いた説明は、なんだか難しくてよくわからなかったけれど、とにかく俺は闇にねらわれている。そういう体質らしい。
「レイっ!」
 音もなく、俺の足首にからみついた闇が、レイから俺を引き離そうとする。
 闇に引きずられ、レイの左手と俺の右手が、離れた。
「……マモル!」
 必死に伸ばした俺の手を、レイがしっかりとつかんでくれる。
 レイが闇から俺を引きはがし、その腕の中に抱き止めた。
 ザシュッ!
 レイの右手から光が走り、俺を取り巻く闇を、片っぱしからはらっていく。
 それでも闇は、次から次へとわいて出た。レイがどれだけ祓っても、またわいてくる。キリがない。レイの力にも限りがある。レイは力が強いけれど、そのぶん多くのエネルギーを使う。このままでは、じりひんになってしまう。
「レイ。今日のはちょっと、量が多い」
「……そうだな」
 俺はレイの腕の中で、その顔を見上げた。
 こんなときでもレイは、無口で無表情だ。
 だけどその瞳が。俺を見下ろす、黒々としたその瞳が。
 とても心配そうな色をしていることを、俺はちゃんと知っている。
 わかっている。
 俺の守護霊は、すごく優しい。
「レイ」
 俺は両手でレイの頭を掴んで伸び上がり、顔を近づけた。
 はじめてなわけじゃない。それでもさすがに緊張きんちょうする。
 レイが少しだけ身体からだかたくするのがわかった。けれど、それにはかまわずに、俺はそのままレイのくちびるに唇を重ねた。
 少しだけかさついた、柔らかい感触かんしょく
 間を置かずに、うすく唇を開いて、舌を差し出す。
 お互いの口の中をめるように舌を動かすと、閉じたまぶたの裏で、光がはじけるのがわかった。
 レイから光がほとばしる。
 きっと今の光で、わき出る闇はすべて祓われただろう。
 それでも唇を離さずにいると、まるで距離をとろうとするように、遠慮えんりょがちに肩を押されてしまった。
 仕方なく、そっと唇を離して、目を開ける。
 夕闇に包まれた公園は、思った通り、正常を取りもどしていた。
 レイは、人の力をとり込んで自分の力にすることができる。手を繋ぐとか、ハグをするとか、単純接触たんじゅんせっしょくでもそれは可能だけれど、キスをするのが一番確実かくじつで手っ取り早く、大きな力をられる。
 俺は掴んでいたレイの頭を放した。
「今日のはちょっと、多かったね」
 照れかくしに、言い訳じみた言葉を口にする。
 それにレイは、無表情のまま小さくうなづいた。
「……助かった。……悪かった」
「なんで謝られるんだ」
 レイはいつも、俺の力を求めてこない。必要ならいくらでもくれてやると言っているのに、今日みたいな時でも求めてこない。
「だから、いいんだってば。俺のために力を使ってるんだから、レイは好きなだけ俺から力をとってっていいんだよ」
 遠慮えんりょなんかしなくていい。
 俺は、レイに守ってもらわないと生きていけない。レイがいなかったら、すぐにでも闇に取り込まれてしまう。
 俺を守るための力を、俺からとっていって、なにが悪いと言うのだろうか。
「……それは、少しちがう」
 レイが、めずらしく反論はんろんしてきた。
 それに俺はうなづく。
「うん、わかってる。前にも聞いた。俺を守るのが、レイの責任だからだろ? だから、責任を取ってもらってるのは俺のほうなんだから、俺がいいって言ったらいいんだよ。力くらい貸させてよ」
 レイは優しい。
 責任から、俺を守ってくれている。
 だからなんだと言うのだ。守ってもらっていることにかわりはない。レイに力が必要ならいくらでも貸す。それのなにがいけないのか。
 まっすぐに見上げる俺に、レイが少し困ったような、苦い顔をした。
 え……。
 俺は胸がさわいだ。
 レイが少し目をせる。
「……俺が力不足なせいで、……悪かった」
「……っ」
 小さく頭を下げたレイに、俺はわかってしまった。
 レイが謝っている理由が、俺から力を受けとることではなく、そのための行為こういをすること。
 つまり、キスをすることだということに。
「だから、なんで謝られるんだ」
 思わず声が低くなる。
 レイが悪く思うことなんか、これっぽっちもない。
「そんなの今さらだろ。だって俺たち付き合ってるんだから」
 すばやい力の受け渡しにはキスが一番。
 三ヶ月前、そう言われたときに、俺はさけんだ。
『キスとかそういうのは、付き合ってる相手とすることだろ!』
 それに対して、レイが言ったのだ。いつもの無表情、無感情なその声で。
『……なら、俺たち付き合おう』
 その日から、いつも一緒にいる。
 そういう契約になっている。


 あの日、レイが俺の本当の守護霊を、突然とつぜん殺してしまったから。




    ~①マモル 四/五へつづく~
    ~②レイ 三/五へつづく~
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