3 / 11
守護霊契約
マモル 三/五
しおりを挟む
そこらじゅうからわき出る小さな闇が、集まり、まとまり、大きくなる。
闇は、小さなものならすぐに消せるが、大きくなると厄介だ。
速さが増し、強さが増し、俺を取り込もうと襲いかかってくる。
三ヶ月前にレイから聞いた説明は、なんだか難しくてよくわからなかったけれど、とにかく俺は闇に狙われている。そういう体質らしい。
「レイっ!」
音もなく、俺の足首に絡みついた闇が、レイから俺を引き離そうとする。
闇に引きずられ、レイの左手と俺の右手が、離れた。
「……マモル!」
必死に伸ばした俺の手を、レイがしっかりと掴んでくれる。
レイが闇から俺を引きはがし、その腕の中に抱き止めた。
ザシュッ!
レイの右手から光が走り、俺を取り巻く闇を、片っ端から祓っていく。
それでも闇は、次から次へとわいて出た。レイがどれだけ祓っても、またわいてくる。キリがない。レイの力にも限りがある。レイは力が強いけれど、そのぶん多くのエネルギーを使う。このままでは、じり貧になってしまう。
「レイ。今日のはちょっと、量が多い」
「……そうだな」
俺はレイの腕の中で、その顔を見上げた。
こんなときでもレイは、無口で無表情だ。
だけどその瞳が。俺を見下ろす、黒々としたその瞳が。
とても心配そうな色をしていることを、俺はちゃんと知っている。
わかっている。
俺の守護霊は、すごく優しい。
「レイ」
俺は両手でレイの頭を掴んで伸び上がり、顔を近づけた。
はじめてなわけじゃない。それでもさすがに緊張する。
レイが少しだけ身体を固くするのがわかった。けれど、それにはかまわずに、俺はそのままレイの唇に唇を重ねた。
少しだけかさついた、柔らかい感触。
間を置かずに、薄く唇を開いて、舌を差し出す。
お互いの口の中を舐めるように舌を動かすと、閉じたまぶたの裏で、光が弾けるのがわかった。
レイから光が迸る。
きっと今の光で、わき出る闇はすべて祓われただろう。
それでも唇を離さずにいると、まるで距離をとろうとするように、遠慮がちに肩を押されてしまった。
仕方なく、そっと唇を離して、目を開ける。
夕闇に包まれた公園は、思った通り、正常を取り戻していた。
レイは、人の力をとり込んで自分の力にすることができる。手を繋ぐとか、ハグをするとか、単純接触でもそれは可能だけれど、キスをするのが一番確実で手っ取り早く、大きな力を得られる。
俺は掴んでいたレイの頭を放した。
「今日のはちょっと、多かったね」
照れかくしに、言い訳じみた言葉を口にする。
それにレイは、無表情のまま小さくうなづいた。
「……助かった。……悪かった」
「なんで謝られるんだ」
レイはいつも、俺の力を求めてこない。必要ならいくらでもくれてやると言っているのに、今日みたいな時でも求めてこない。
「だから、いいんだってば。俺のために力を使ってるんだから、レイは好きなだけ俺から力をとってっていいんだよ」
遠慮なんかしなくていい。
俺は、レイに守ってもらわないと生きていけない。レイがいなかったら、すぐにでも闇に取り込まれてしまう。
俺を守るための力を、俺からとっていって、なにが悪いと言うのだろうか。
「……それは、少しちがう」
レイが、珍しく反論してきた。
それに俺はうなづく。
「うん、わかってる。前にも聞いた。俺を守るのが、レイの責任だからだろ? だから、責任を取ってもらってるのは俺のほうなんだから、俺がいいって言ったらいいんだよ。力くらい貸させてよ」
レイは優しい。
責任から、俺を守ってくれている。
だからなんだと言うのだ。守ってもらっていることにかわりはない。レイに力が必要ならいくらでも貸す。それのなにがいけないのか。
まっすぐに見上げる俺に、レイが少し困ったような、苦い顔をした。
え……。
俺は胸が騒いだ。
レイが少し目を伏せる。
「……俺が力不足なせいで、……悪かった」
「……っ」
小さく頭を下げたレイに、俺はわかってしまった。
レイが謝っている理由が、俺から力を受けとることではなく、そのための行為をすること。
つまり、キスをすることだということに。
「だから、なんで謝られるんだ」
思わず声が低くなる。
レイが悪く思うことなんか、これっぽっちもない。
「そんなの今さらだろ。だって俺たち付き合ってるんだから」
すばやい力の受け渡しにはキスが一番。
三ヶ月前、そう言われたときに、俺は叫んだ。
『キスとかそういうのは、付き合ってる相手とすることだろ!』
それに対して、レイが言ったのだ。いつもの無表情、無感情なその声で。
『……なら、俺たち付き合おう』
その日から、いつも一緒にいる。
そういう契約になっている。
あの日、レイが俺の本当の守護霊を、突然殺してしまったから。
~①マモル 四/五へつづく~
~②レイ 三/五へつづく~
闇は、小さなものならすぐに消せるが、大きくなると厄介だ。
速さが増し、強さが増し、俺を取り込もうと襲いかかってくる。
三ヶ月前にレイから聞いた説明は、なんだか難しくてよくわからなかったけれど、とにかく俺は闇に狙われている。そういう体質らしい。
「レイっ!」
音もなく、俺の足首に絡みついた闇が、レイから俺を引き離そうとする。
闇に引きずられ、レイの左手と俺の右手が、離れた。
「……マモル!」
必死に伸ばした俺の手を、レイがしっかりと掴んでくれる。
レイが闇から俺を引きはがし、その腕の中に抱き止めた。
ザシュッ!
レイの右手から光が走り、俺を取り巻く闇を、片っ端から祓っていく。
それでも闇は、次から次へとわいて出た。レイがどれだけ祓っても、またわいてくる。キリがない。レイの力にも限りがある。レイは力が強いけれど、そのぶん多くのエネルギーを使う。このままでは、じり貧になってしまう。
「レイ。今日のはちょっと、量が多い」
「……そうだな」
俺はレイの腕の中で、その顔を見上げた。
こんなときでもレイは、無口で無表情だ。
だけどその瞳が。俺を見下ろす、黒々としたその瞳が。
とても心配そうな色をしていることを、俺はちゃんと知っている。
わかっている。
俺の守護霊は、すごく優しい。
「レイ」
俺は両手でレイの頭を掴んで伸び上がり、顔を近づけた。
はじめてなわけじゃない。それでもさすがに緊張する。
レイが少しだけ身体を固くするのがわかった。けれど、それにはかまわずに、俺はそのままレイの唇に唇を重ねた。
少しだけかさついた、柔らかい感触。
間を置かずに、薄く唇を開いて、舌を差し出す。
お互いの口の中を舐めるように舌を動かすと、閉じたまぶたの裏で、光が弾けるのがわかった。
レイから光が迸る。
きっと今の光で、わき出る闇はすべて祓われただろう。
それでも唇を離さずにいると、まるで距離をとろうとするように、遠慮がちに肩を押されてしまった。
仕方なく、そっと唇を離して、目を開ける。
夕闇に包まれた公園は、思った通り、正常を取り戻していた。
レイは、人の力をとり込んで自分の力にすることができる。手を繋ぐとか、ハグをするとか、単純接触でもそれは可能だけれど、キスをするのが一番確実で手っ取り早く、大きな力を得られる。
俺は掴んでいたレイの頭を放した。
「今日のはちょっと、多かったね」
照れかくしに、言い訳じみた言葉を口にする。
それにレイは、無表情のまま小さくうなづいた。
「……助かった。……悪かった」
「なんで謝られるんだ」
レイはいつも、俺の力を求めてこない。必要ならいくらでもくれてやると言っているのに、今日みたいな時でも求めてこない。
「だから、いいんだってば。俺のために力を使ってるんだから、レイは好きなだけ俺から力をとってっていいんだよ」
遠慮なんかしなくていい。
俺は、レイに守ってもらわないと生きていけない。レイがいなかったら、すぐにでも闇に取り込まれてしまう。
俺を守るための力を、俺からとっていって、なにが悪いと言うのだろうか。
「……それは、少しちがう」
レイが、珍しく反論してきた。
それに俺はうなづく。
「うん、わかってる。前にも聞いた。俺を守るのが、レイの責任だからだろ? だから、責任を取ってもらってるのは俺のほうなんだから、俺がいいって言ったらいいんだよ。力くらい貸させてよ」
レイは優しい。
責任から、俺を守ってくれている。
だからなんだと言うのだ。守ってもらっていることにかわりはない。レイに力が必要ならいくらでも貸す。それのなにがいけないのか。
まっすぐに見上げる俺に、レイが少し困ったような、苦い顔をした。
え……。
俺は胸が騒いだ。
レイが少し目を伏せる。
「……俺が力不足なせいで、……悪かった」
「……っ」
小さく頭を下げたレイに、俺はわかってしまった。
レイが謝っている理由が、俺から力を受けとることではなく、そのための行為をすること。
つまり、キスをすることだということに。
「だから、なんで謝られるんだ」
思わず声が低くなる。
レイが悪く思うことなんか、これっぽっちもない。
「そんなの今さらだろ。だって俺たち付き合ってるんだから」
すばやい力の受け渡しにはキスが一番。
三ヶ月前、そう言われたときに、俺は叫んだ。
『キスとかそういうのは、付き合ってる相手とすることだろ!』
それに対して、レイが言ったのだ。いつもの無表情、無感情なその声で。
『……なら、俺たち付き合おう』
その日から、いつも一緒にいる。
そういう契約になっている。
あの日、レイが俺の本当の守護霊を、突然殺してしまったから。
~①マモル 四/五へつづく~
~②レイ 三/五へつづく~
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした
亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。
カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。
(悪役モブ♀が出てきます)
(他サイトに2021年〜掲載済)
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる