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守護霊契約
マモル 二/五
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俺は手元のゲームから視線を外さない。
単純なパズルゲームだ。さくさく先に進むのがいい。それでもレベルが上がっていけば、集中しないと勝てなくなっていく。
レイはただ、俺の隣に黙って座りながら、手元の本に目を落としている。レイから俺になにか言うことはあまりない。
俺が黙ると、二人の間には沈黙しかなくなる。
レイがどういうつもりでいるのかは知らない。けれど、俺はこの沈黙がきらいじゃない。
夕暮れどきの初夏の公園は、そよぐ風が気持ちいい。だんだん日が傾いて、暑さも薄らいでいく。
遠くに聞こえる街の喧騒。遊んでいたわずかな子供たちが帰り、犬の散歩をする人たちもいなくなると、辺りから人影はなくなった。
外灯が灯る。夕闇が迫る。
ほかには誰もいない、俺とレイだけの空間になる。
「……マモル」
レイが静かに本を閉じ、俺の名前を呼んだ。
俺はゲームから顔をあげる。
「今、いいところなんだけど」
「……悪いが、続きはあとにしてくれ」
ふっと、レイの瞳に影が宿った。
あ、これ、ヤバいやつかも。
俺がそう思った直後、レイの左腕が俺の腰の辺りにまわり、ぐいっと力強く引き寄せられる。
「わっ」
どんっと、レイの広い胸にぶつかった。
瞬間。
今まで俺が座っていたところに、真っ黒なものが……真っ黒な闇が、現れた。
こぽこぽとわき上がる黒いそれは、少しずつ集まり、大きな塊になっていく。
ザシュッ!
その闇を、レイが右手で切り裂いた。
表現はまちがっていない。レイが右手を降り下ろすと光が放たれ、闇は切れたように二つに分かれる。
裂かれた闇は霧散して、なにもなかったように消えていく。
「ちょっとレイ、もう少し優しくしてくれない?」
「……悪いがマモル、少し黙っていてくれ」
レイが俺を守るように、背後にかばった。その左手だけは、俺の右手としっかり繋がれたまま。
いつにも増して無感情なレイの声に、俺は少し首を傾げる。
ベンチの上を見ると、レイが切り裂いたそばから、すごい勢いで闇がわいて出ていた。
「なんか、いつもより多くない?」
「……だから、少し黙っていてくれ」
レイは俺をかばいながら、次々とわき上がる闇を蹴散らしていく。
闇の目的は、俺だ。
太陽が沈むころ。逢魔が時。闇が一番生まれる時間。
闇は俺を取り込もうとして、俺のそばにわいてくる。
その闇から俺を守るのが、レイとの契約だ。
いつも一緒にいる。
そういう約束になっている。
レイは、俺の守護霊だから。
~①マモル 三/五へつづく~
~②レイ 二/五へつづく~
単純なパズルゲームだ。さくさく先に進むのがいい。それでもレベルが上がっていけば、集中しないと勝てなくなっていく。
レイはただ、俺の隣に黙って座りながら、手元の本に目を落としている。レイから俺になにか言うことはあまりない。
俺が黙ると、二人の間には沈黙しかなくなる。
レイがどういうつもりでいるのかは知らない。けれど、俺はこの沈黙がきらいじゃない。
夕暮れどきの初夏の公園は、そよぐ風が気持ちいい。だんだん日が傾いて、暑さも薄らいでいく。
遠くに聞こえる街の喧騒。遊んでいたわずかな子供たちが帰り、犬の散歩をする人たちもいなくなると、辺りから人影はなくなった。
外灯が灯る。夕闇が迫る。
ほかには誰もいない、俺とレイだけの空間になる。
「……マモル」
レイが静かに本を閉じ、俺の名前を呼んだ。
俺はゲームから顔をあげる。
「今、いいところなんだけど」
「……悪いが、続きはあとにしてくれ」
ふっと、レイの瞳に影が宿った。
あ、これ、ヤバいやつかも。
俺がそう思った直後、レイの左腕が俺の腰の辺りにまわり、ぐいっと力強く引き寄せられる。
「わっ」
どんっと、レイの広い胸にぶつかった。
瞬間。
今まで俺が座っていたところに、真っ黒なものが……真っ黒な闇が、現れた。
こぽこぽとわき上がる黒いそれは、少しずつ集まり、大きな塊になっていく。
ザシュッ!
その闇を、レイが右手で切り裂いた。
表現はまちがっていない。レイが右手を降り下ろすと光が放たれ、闇は切れたように二つに分かれる。
裂かれた闇は霧散して、なにもなかったように消えていく。
「ちょっとレイ、もう少し優しくしてくれない?」
「……悪いがマモル、少し黙っていてくれ」
レイが俺を守るように、背後にかばった。その左手だけは、俺の右手としっかり繋がれたまま。
いつにも増して無感情なレイの声に、俺は少し首を傾げる。
ベンチの上を見ると、レイが切り裂いたそばから、すごい勢いで闇がわいて出ていた。
「なんか、いつもより多くない?」
「……だから、少し黙っていてくれ」
レイは俺をかばいながら、次々とわき上がる闇を蹴散らしていく。
闇の目的は、俺だ。
太陽が沈むころ。逢魔が時。闇が一番生まれる時間。
闇は俺を取り込もうとして、俺のそばにわいてくる。
その闇から俺を守るのが、レイとの契約だ。
いつも一緒にいる。
そういう約束になっている。
レイは、俺の守護霊だから。
~①マモル 三/五へつづく~
~②レイ 二/五へつづく~
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