4歳児、転生がバレたので家出する - 後に赤い悪魔と呼ばれる予定です

でもん

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第2章 4歳児、婚約する

13. エズ、融解す

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「お、おい!」

 僕が2階の窓から飛び降りると、その後をおって慌てたように窓からロランが顔を出した。

「お前、身軽だな……」
「そう?」
「まったく……あらよっと」

 そういって、ロランも窓から飛び降りてくる。

「ちっ、地味に痛い」
「痛いの?」
「ああ、鍛えているから怪我はしないが……さすがに体重もあるしな。地味なダメージはあるぞ」
「そうなんだ……」

 国際冒険者のホワイトライセンス持ちと言っても、そんな感じなんだな。

「あっ! もしかして、ロランは空を飛べない?」
「飛べるか! ……というか、お前は飛べるのか?」
「え……ああ……うん」

 ロランが呆れたように僕の事を見るが、僕は口を尖らし、口笛を吹く真似をして誤魔化す。この世界では空を飛ぶ人はいなそうだと、心のメモに残しておこう。

「あ、でも飛べるっていっても魔法を使っているとか、そういうのではなくて、このググを使って、うまく上昇気流を使って滑空しているだけだけどね」
「……俺にはお前が何を言っているのか理解できないよ」

 そう首を振って、諦めたように周囲を見る。

「それで、どこに奴らヘドロ人間はいるの?」
「そこら中だ……ほら来た」

 僕の問いかけに、ロランが腰に差していた直刀を抜く。僕もその動きを見て、背中から抜刀し、力を抜いて構える。

「ほんとだ……いっぱいいるねぇ」

 そこら中、目の付く建物からヘドロ人間が湧き出てきた。
 昨晩は暗さが保護色になっていて、よく見えなかったけど、実はこんな状態だったのかな? 
 奥の方の建物からも、ドンドンと出てきて、屋根を伝ったりしながら、こちらに近づいてくる。

「目玉を斬れば倒せるんだったな」
「倒せるかどうかは解らないけど、昨日はそんな感じだった」
「よし、やってみよう」

 おお……
 そう言った瞬間、正面から近づいてきたヘドロ人間が両断された。
 何となく動きは見えたけど、僕の目でも正確には捉えられなかった。

「……ロランも大概だね。僕の目でもほとんど残像しか見えなかったよ」

 僕の防御力があれば、負けはしないけど、ロランには勝てないかもしれないなぁ。

「そうか? 空飛ぶ非常識にそう言ってもらえると、少しは自分の実力を信じたくなるよ。これでも世界ランクとしてはトップクラスと自信があったんだしな」

 さりげなく自慢が入ったロランの言葉は聞き流し、ロランの動きに、ムズムズと対抗心が沸いてきた僕は、

「僕もやってみるね」

  一気に周囲から湧き出てきたヘドロ人間の目玉だけを狙って、一気に斬り捨てていく。

「お、おう……俺にはお前の動きが見えなかったぞ」

 よし!
 本気を出した甲斐があった。

「それに、確かに……目玉は……急所のようだな……」

 ロランは言葉煮詰まりながらもそういう。
 なぜなら、ロランの言葉通り、身体のどこかにある眼球を斬ると、その身体が維持出来なくなるようで、ヘドロ人間は崩れてしまう……だけど……

「他のヘドロ人間に吸収されているみたいだね……」

 崩れ落ちた身体は近づいてきた他のヘドロ人間が吸収してしまうのだ。そして吸収した側は身体が少し膨らむ。

「ああ……これは、このまま斬り続けて良い物か悩むな」
「そうだね。8千人くらいいるんだっけ? 全部斬ったら、どれだけでかくなるんだろう……」

 そんな未来は想像したくない。とはいえ、

「斬らないと、こちらがやられるな。どうやら先方からも完全に敵認定されたようだぞ」

 ロランの言葉通り、ヘドロ人間の湧き出すペースが上がった。

「ロラン、魔法でどっかんとは、いけないの?」

 数も数だし、いちいち相手をするのは面倒だ。

「無理だ。専門じゃない。シャルルは?」
「やってみていい?」

 僕も専門じゃないけど、師匠に鍛えられてもらった結果、そこそこ魔力もあるし、使わないのは勿体無い。

「……仕方ない、役場の建物だけ巻き込むな!」
「そんな事はしないから大丈夫!」

 僕の魔法、何だと思われているんだろう。
 ともかく僕は許可が出たので、詠唱を始める。

 そういえば、本格的な魔法を撃つのは海賊船以来か……。

 『この手にre firure炎を宿しn hansこの炎usivをもってfirure、 敵をtermijuen殲滅せよn enemire打ち砕けkulakutan

 あの時とーー

「お、おい! なんだその力は! 馬鹿、やめ……」
 
 いや、 海賊船のあの時よりも遙かに巨大な力が僕の手の平に集まり、そして放出された。さすがに村役場にいる人達の事が脳裏に過ぎった僕は、役場を背にした方向へ、その力を向けたが……


 大地を揺らすような轟音が響き、周囲が真っ赤な煙に包まれた。遠くからみたら、キノコ雲でも上がったかもしれない。

「熱ぃ!」

 ロランの悲鳴が横から聞こえる。
 ほんの数瞬後、視界が戻る。

「なんじゃ! 何が起こった!」
「熱いよー!」
「髪の毛が……数少ないワシの宝が……」
「あっつ、あっつ、あっつ……あつぅ!」

 バラバラと村役場の建物から村人達が飛び出してきた。
 村役場の柱からも、薄らと白い水蒸気が上がっている。

「あっ」
「あっ……じゃねぇ……何てものをぶっ放したんだ!」

 ロランに頭をどつかれた。ロランの身体のあちこちから、プスプスと水蒸気が上がっている。この状態でもたいしたダメージを受けていない、ロランも大したものだと思うが……

 まぁ、さすがにこれは怒られても仕方ない。

 それでも、村役場は無事だったし、中から飛び出してきた人も大きな怪我はしていないようだけど、熱気で髪の毛がチリチリになっている人もいるし……多少、火傷を負った人もいたようだ。

「ごめんなさい」

 ここは素直に頭を下げておく。

「お前がやったのか! ……い、いや……いい……気にしないで……本当に……お気になさらずに」

 村人達は僕から距離を取るように村役場の影に隠れた。

 まぁ、そうだろうなぁ……
 急速に冷え固まり始めているけど、村役場の反対側が完全に消滅して、地面がマグマに変わってしまっていた。土の融点って1000度以上はあるんじゃなかったか? ところどころ、水蒸気が吹き出しているのは、地面の熱で地下水が沸騰しているからかな……このまま温泉にでもなれば、いい観光の目玉に……。

 でも、輻射熱で村役場が燃えなくて良かったよ……本当。

「お前はもう魔法を撃つな」

 ロランが引きつった顔で、僕にこう言うので、言い返してみた。
 
「でも、これでだいぶ減ったんじゃない?」
「村を半分溶かしておいて言う言葉は、それか!」

 確かに!
 でも、村役場の前の大通りを挟んで反対側は平地に変わって見通しもよくなった。そこには、ヘドロ人間の姿は見えない。きっと蒸発してしまったのだろう。結果オーライ。

「あ! こっち側もぶちかませば、解決じゃ……」
「駄目だ!」
「ですよね」

 仕方ない、魔法は諦め、手作業での殲滅を心掛けよう。

「村人の皆さん、もう少しすれば気温も下がるので、村役場の中に避難しておいてください」

 村役場の影で、僕たちの様子を見ていた村人達に、僕が丁寧に頭を下げると、村人達は一つの文句も言わず、まだ熱が籠もっていそうな村役場の中に逃げ込んだ……ん? 逃げ込んだ? 

 まぁ、いいか。一部の人が、「殺さないでくれ……」「建物の中、まだ暑いよぉ」「馬鹿、このくらいの熱さだったら、死なない。外にいる悪魔よりマシだ」とか、呟いていたのは、気のせいだろう。涙が出そうだが……

「ぐすっ……よし、それじゃぁ、気を取り直して、ヘドロ人間を倒そう!」
「……そうだな」

 僕達が視線を送ると、村役場の建物から距離を置くように、ヘドロ人間がフラフラと立っている。先ほどとは違い、近づいては来ない。

「びびっているのかな?」
「さすがにアレを見たら、そうなるだろう」

 ロランが背後の溶岩地帯を親指で指さし、そう言う。
 そうか、確かに殲滅される前提で突っ込んでくる馬鹿はいないだろう。たとえそれがヘドロ人間であっても……

「でも、こっちからは行くよ」

 僕はヘドロ人間の群れに突っ込んだ。

「おい、俺を置いていくな!」

 ロランも僕とは別の方向へ突っ込んでいく。
 お互い、距離を取っておかないと、巻き込みかねない事は無意識に自覚していた。

 そこからは作業だ。
 僕は淡々と、ヘドロ人間のどこかにある眼球を探しては斬り、奴らが一つにつながっていくのを、放置する。

 半分以下に減ったとは思うが、約4,000人近い人数のヘドロだ。
 徐々にその大きさは増していく。

 だが……

「船長が出てこない!」
「ここにいるのか? 船長が?」
「いる!」

 僕は焦りもあったが、なぜか確信を持っていた。
 この村のどこかに、公宮にいたような本体を持つ船長がいる事を。それにーー

「怪しいのは、カーラとソフィアと接触があった誰かだ!」
「それが誰か解るか!?」
「わかんない!」

 そう言いながらも、ヘドロ人間の数はどんどん減っていく。そして、

「これで細かいのは最後!」
「よっしゃ。ラスト、デカいのを叩く!」

 僕の言葉にロランが数十メートルほどの塊になったヘドロ人間に残された最後の目玉を斬り捨てた。

「崩れる」
「ああ」

 僕とロランは形を維持出来なくなって拡がり始めたヘドロから距離を取る。ある程度拡がると、そこでヘドロは動かなくなってしまった。

「どうする? 魔法で燃やす?」
「待て! 街を全壊させるつもりか?」

 僕の言葉に焦ったようにロランが静止をする。
 本体が出てこないなら、その方が早いと思うけど……

「閣下!」

 その時、背後からしゃがれた声が聞こえた。

「どうした? 村長」

 僕たちが振り返ると、そこには村長を先頭に恐る恐るという感じで村人達が出てきていた。

「終わったのですか?」
「ああ……だが、まだ本体がいるはずだ。ソフィア殿下を救出した際に接触したもの……誰か心当たりは無いか?」
「そうですね……役場の中に残されたものの中で、接触したものはいないはずです」
「そうか」

 形は維持できなくなってもヘドロがまだ残っているという事は、本体がどこかにいるはずだ。
 だが、ヘドロも大きな動きをみせず、その場を動かない。まるで……

「この中にいる?」
「ん? どいう事だ? シャルル」
「この中に……絶対、この中にいるんだよ、ロランさん。公宮でも、カーラのお父さんだと言って、船長が化けていたんだ。きっとヘドロ人間とは違って、船長には知恵があるんだ!」

 僕は刀を左手で握りしめたまま、右手で村長や村人達を指指すように腕を水平に動かした。

 僕の気迫を受けて、彼らは数歩後ろに下がる。
 そして、

「良く見破ったな! 小僧!」

 村役場横の小道を挟んだ反対側にある建物……僕が村人達を弾劾するように動かした右手の先にある建物から男の声が聞こえてきた。

「ワシがこの者の身体を乗っ取り、この中に潜んでいた事に良く気がついた!」

 そして、そう言いながら、建物から若いスラリとした若者が出てきた。
 僕は伸ばした手を少し、開いたり閉じたりした後に軽く振ってから、人差し指を上に向け、

「……ほら、僕が言ったとおりでしょ」

 と、お茶目に言ってみた。

 ロランが横目で僕をジトっと見る。
 村人達からの暖かい視線も感じる。
 だが、それを振り切って,

「やはり、お前が船長か!」

 あらためて、人差し指を、若い男に向ける。

「いかにも! あの小娘どもを助けた家の執事だというこの男に取り付き、この村に因子をばらまいていたのだ。あと少しというとボブッ……」

 僕は最後まで言わせず、問答無用で斬り捨てた。

 二つに割れた男は、すぐに黒いヘドロに変わり、ザザッっと地面を素早く移動して、近くで固まっていた巨大なヘドロに吸収された。さすがに船長、動きが速い。

 船長を吸収したヘドロは、再び大きく動き出し、そして体調が20メートルはある大きな人型となった。

「コロス……コゾウ……コロス」
「こっちの台詞!」

 僕は最後の戦いに向けて動き出す。

「あ、待てシャルル! 魔法は禁止だぞ!」
「解ってる!」

 僕はもとより、魔法を使う気は無い。得意なのは肉弾戦。

 巨大な頭部の形に盛り上がった部分が海賊船の船長の顔に変わる。そして、巨躯にも関わらず素早く拳を振り上げ僕に殴りかかってきた。

 だが、

「遅いよ」

 僕は、その拳の中心に刀を突き立て、ヒラリと拳の上に立った。
 そして、突き刺した刀をそのまま引きずるように巨大な腕を二つに割りながら駆け上った。

「よいしょっと」

 そして、肩口で飛び上がり、目の高さまで軽く飛び上がると、

「何度、復活してきても、完膚なきまで斬り刻む」

 そう言って眼球を真横一文字に斬り裂いた。

「コロス……コロス……ゴロズ……」

 やっぱり目だけは再生しないようだ。
 
 だが、そんな事はお構いなしに僕は、返す刀で全身を刻み始める。
 斬ったそばから船長は再生していくが、何かを斬り飛ばすごとに、破片の一部が、少しだけ霧のような煙が出て、その色が黒から白へと変わり、散っていく。

 何度も繰り返していくうちに、船長の大きさが少し小さく練っている事に気がついた。やはり、効いているようだ。

 突如、僕を捕まえようと腕を回していた船長は、後ろを向き、

「ダ……ダズ……ダズゲ……マオ……マ……」

 そう言いながら逃げようとした。
 だが、僕はその両足を斬り捨て、後頭部に刀を突き刺し、固定をする。

「グ……グアガ……」

 そして後頭部を貫通して地面にまで突き立った刀を手放し、今度は倒れた船長の背中を殴った。

「イダ……イダイ……モウ、ヤメ……ヤメ……」

 僕の渾身のパンチがヒットする度に船長の身体には大きな穴が空き、黒い煙のようなものが白く変わって消えていく。穴はすぐに塞がるが、船長は次第に小さくなってきた。

「ギエル……ギエ……ギ……ギ……」
「消えちゃえよ」

 やがて船長は何も言わなくなり……文字通り、僕は最後の一欠片まで砕いた。

***

 僕が地面に突き刺さって残ったスンを持ち上げ、背中に納刀すると、

「……俺の敵に回るなよ」

 ロランが近づいてきて僕の肩に手をポンとおいて、こう呟いた。

「敵に……敵に回ったら、僕を殺す?」

 僕は振り返らずにこう言った。

「いや、無理だろ。だから、敵に回らないでください。お願いします……って事だ」
「うん……」

 僕はロランの方へ顔を向け、自分でも強ばっているなと思う笑みを浮かべ、こう言った。

「ロランなら多分、大丈夫でしょ」
「ああ、そうだな。そうだといいな……なぁ、スンちゃん」

 僕の背中から、いつの間にか人型に戻ったスンが優しく腕を回し、僕を抱きしめながら、

「ん」

 とだけ、答えた。
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