73 / 78
第6章 Call your name
<王国編> 8.テレサ・ダビト3世
しおりを挟む
聖ダビド王国第48代テレサ・ダビド3世。父である先王が早逝したため、19歳で王位に就き、在位45年。歴代の王の中でも長い在位期間の女王である。長男、長女、次女の3人の子供に恵まれていた。
「それで神託は間違いないのですね」
「はい、全ての神殿に神託が降りています。間違いないでしょう……」
そんなある日、救世主を迎えた者を王にせよ……という神託が降りたのだ。
「迎えに行かなくていいですよね?」
真っ先に王女の元へ王太子である長男が飛び込んできた。
「そうですね。王太子がそうしたいのなら、そうなさい」
女王の子供も孫達も神託には全く興味を示さず、このまま王という責務から逃げ出さんばかりだったのには、さすがに女王も呆れた。だが、ダビド家の王位継承者が、そんな体たらくだったため、貴族が自分たちの影響力を増そうと何人かの王族を担ぎ出し、あわや騎士団同士で戦闘になるという事態にまで陥った。
「全ての聖地に、王位継承者を1人ずつ派遣し、救世主を連れ帰ったものを王位継承者としましょう」
女王からの妥協案で事を収め、92人の王族が旅立っていった。
「これで、ダビド王朝が終わるとしたら、それはそれで運命ね」
王の宗教的儀式を管理する典礼長のエロイ・カニ司教に、この後を取り仕切るよう指示し、女王は私室に戻っていった。
----------
王族が各聖地に旅立ってから数日後、女王の元に報告が上がった。
「ファビオが任地を離れ、フェロル村に向かったのですか?」
「はい」
フェロル村にはヒメノ家の長女リリアナが向かっている。女王の元には、ここが本命だろうという連絡がすでに神殿から入っていた。
「情報が漏れているみたいですね」
「情けない事ですが、オクシヘノ神殿の神官の1人が漏らしたようです」
「わかりました……神官は泳がせておきなさい。ファビオへは誰か付けているの?」
「はい。軍の中に1人」
「そう」
-- リリアナ……これも試練と思いなさい。これを乗り越えて、王位に就くのです
女王は心の中で呟くのであった。
----------
リリアナがフェロル村に向かってから4ヶ月ほど経過した。
「リリアナが行方不明?」
「はい」
ファビオの妨害を跳ね返し王都に向かったはずのリリアナが、王都についた後に行方を絶ったとの連絡が女王の元に入った。
「どうやらマシアス商会が動いたようです」
「そうですか……マシアスに捕らえられたという事ですか?」
「いえ、マシアスの屋敷に現在、救世主の父親と娘と思われる2人が運ばれるのを確認しましたが、リリアナ殿下と、他の救世主様の行方がわかっておりません」
「全力で探しなさい! このままではマシアスにこの国を牛耳られかねません」
-- そうなれば最悪、内戦に……
そんな思いが女王の心にあった。
----------
「リリアナ・ヒメノが間に合います」
そう、セリノの孫と名乗る子供が女王に囁いた。13日前、王都の一番外側ノベナから行方を絶ったリリィの情報が女王の元に、やっと入ったのだ。実際は、女王が抱える諜報機関には複数の情報が入っていた。だが、宿屋で歌を歌い、おひねりを集めていたという情報だったため、さすがに別の人間だろうという事で現場で握りつぶされ、女王の元まで届いていなかったのだ。後日、現場判断で情報を取捨選択した事で担当者は叱責を受ける事になる。
そして謁見の日。
中央広場に面した王宮の正面玄関。
ここが開け放たれ、女王が出てくるのを貴族が、市民が待ちわびている。
-- まだかしら……
玄関から女王が進み出て、姿を現し、国民に向け謁見の目的を話す。その後に女王が救世主を連れてきたものは前に出るようにと指示を出す。ファビオが中央より進み出て救世主を紹介する……そういう段取りになっている。
「陛下、お時間です」
典礼長のカニが女王を促す。女王は目を閉じたまま動かない。
-- マシアスの犬に成り下がったか……
この儀式の話を出た時点で、女王はカニの背後関係を調べさせていた。
「陛下? お時間なのですが……」
女王はそれでも目を閉じたまま動かない。
カニはさすがに痺れを切らしたのか、
「陛下! 謁見のお時間です。ご準備をお願い致します!」
その声で、ようやく女王は目を開き立ち上がる。
「わかりました、行きましょう」
玄関より歩み出る。
群衆の大歓声が女王を迎えた。
たっぷりと時間をかけ、その歓声に応え、女王はこう宣言する。
「今日、ここへ集まってもらったのは、この国の将来を決める大事な謁見があるからです!」
そして、神託があった事。神託により救世主を迎えた王族を王位継承者とする事を宣言する。そうして、正面の貴族の中で顔を真っ赤にして立っているファビオを見つめる。
-- 卑しい
その顔付きは、この国を安心して任せるには程遠い。
だが、王女であっても、これ以上、時間を引き延ばせない。ここでファビオが決まりを破った事を理由に王位継承者を変更する約束を反故にすれば、このまま内戦に突入する可能性まである。各貴族が騎士団に囲まれているのは、最悪の事態まで想定してい準備をしているという事なのだろう。
女王はそう考え、ついに口を開く。
「救世主を連れて来た者よ、こちらへ進み……」
「それで神託は間違いないのですね」
「はい、全ての神殿に神託が降りています。間違いないでしょう……」
そんなある日、救世主を迎えた者を王にせよ……という神託が降りたのだ。
「迎えに行かなくていいですよね?」
真っ先に王女の元へ王太子である長男が飛び込んできた。
「そうですね。王太子がそうしたいのなら、そうなさい」
女王の子供も孫達も神託には全く興味を示さず、このまま王という責務から逃げ出さんばかりだったのには、さすがに女王も呆れた。だが、ダビド家の王位継承者が、そんな体たらくだったため、貴族が自分たちの影響力を増そうと何人かの王族を担ぎ出し、あわや騎士団同士で戦闘になるという事態にまで陥った。
「全ての聖地に、王位継承者を1人ずつ派遣し、救世主を連れ帰ったものを王位継承者としましょう」
女王からの妥協案で事を収め、92人の王族が旅立っていった。
「これで、ダビド王朝が終わるとしたら、それはそれで運命ね」
王の宗教的儀式を管理する典礼長のエロイ・カニ司教に、この後を取り仕切るよう指示し、女王は私室に戻っていった。
----------
王族が各聖地に旅立ってから数日後、女王の元に報告が上がった。
「ファビオが任地を離れ、フェロル村に向かったのですか?」
「はい」
フェロル村にはヒメノ家の長女リリアナが向かっている。女王の元には、ここが本命だろうという連絡がすでに神殿から入っていた。
「情報が漏れているみたいですね」
「情けない事ですが、オクシヘノ神殿の神官の1人が漏らしたようです」
「わかりました……神官は泳がせておきなさい。ファビオへは誰か付けているの?」
「はい。軍の中に1人」
「そう」
-- リリアナ……これも試練と思いなさい。これを乗り越えて、王位に就くのです
女王は心の中で呟くのであった。
----------
リリアナがフェロル村に向かってから4ヶ月ほど経過した。
「リリアナが行方不明?」
「はい」
ファビオの妨害を跳ね返し王都に向かったはずのリリアナが、王都についた後に行方を絶ったとの連絡が女王の元に入った。
「どうやらマシアス商会が動いたようです」
「そうですか……マシアスに捕らえられたという事ですか?」
「いえ、マシアスの屋敷に現在、救世主の父親と娘と思われる2人が運ばれるのを確認しましたが、リリアナ殿下と、他の救世主様の行方がわかっておりません」
「全力で探しなさい! このままではマシアスにこの国を牛耳られかねません」
-- そうなれば最悪、内戦に……
そんな思いが女王の心にあった。
----------
「リリアナ・ヒメノが間に合います」
そう、セリノの孫と名乗る子供が女王に囁いた。13日前、王都の一番外側ノベナから行方を絶ったリリィの情報が女王の元に、やっと入ったのだ。実際は、女王が抱える諜報機関には複数の情報が入っていた。だが、宿屋で歌を歌い、おひねりを集めていたという情報だったため、さすがに別の人間だろうという事で現場で握りつぶされ、女王の元まで届いていなかったのだ。後日、現場判断で情報を取捨選択した事で担当者は叱責を受ける事になる。
そして謁見の日。
中央広場に面した王宮の正面玄関。
ここが開け放たれ、女王が出てくるのを貴族が、市民が待ちわびている。
-- まだかしら……
玄関から女王が進み出て、姿を現し、国民に向け謁見の目的を話す。その後に女王が救世主を連れてきたものは前に出るようにと指示を出す。ファビオが中央より進み出て救世主を紹介する……そういう段取りになっている。
「陛下、お時間です」
典礼長のカニが女王を促す。女王は目を閉じたまま動かない。
-- マシアスの犬に成り下がったか……
この儀式の話を出た時点で、女王はカニの背後関係を調べさせていた。
「陛下? お時間なのですが……」
女王はそれでも目を閉じたまま動かない。
カニはさすがに痺れを切らしたのか、
「陛下! 謁見のお時間です。ご準備をお願い致します!」
その声で、ようやく女王は目を開き立ち上がる。
「わかりました、行きましょう」
玄関より歩み出る。
群衆の大歓声が女王を迎えた。
たっぷりと時間をかけ、その歓声に応え、女王はこう宣言する。
「今日、ここへ集まってもらったのは、この国の将来を決める大事な謁見があるからです!」
そして、神託があった事。神託により救世主を迎えた王族を王位継承者とする事を宣言する。そうして、正面の貴族の中で顔を真っ赤にして立っているファビオを見つめる。
-- 卑しい
その顔付きは、この国を安心して任せるには程遠い。
だが、王女であっても、これ以上、時間を引き延ばせない。ここでファビオが決まりを破った事を理由に王位継承者を変更する約束を反故にすれば、このまま内戦に突入する可能性まである。各貴族が騎士団に囲まれているのは、最悪の事態まで想定してい準備をしているという事なのだろう。
女王はそう考え、ついに口を開く。
「救世主を連れて来た者よ、こちらへ進み……」
0
お気に入りに追加
101
あなたにおすすめの小説
チート生産魔法使いによる復讐譚 ~国に散々尽くしてきたのに処分されました。今後は敵対国で存分に腕を振るいます~
クロン
ファンタジー
俺は異世界の一般兵であるリーズという少年に転生した。
だが元々の身体の持ち主の心が生きていたので、俺はずっと彼の視点から世界を見続けることしかできなかった。
リーズは俺の転生特典である生産魔術【クラフター】のチートを持っていて、かつ聖人のような人間だった。
だが……その性格を逆手にとられて、同僚や上司に散々利用された。
あげく罠にはめられて精神が壊れて死んでしまった。
そして身体の所有権が俺に移る。
リーズをはめた者たちは盗んだ手柄で昇進し、そいつらのせいで帝国は暴虐非道で最低な存在となった。
よくも俺と一心同体だったリーズをやってくれたな。
お前たちがリーズを絞って得た繁栄は全部ぶっ壊してやるよ。
お前らが歯牙にもかけないような小国の配下になって、クラフターの力を存分に使わせてもらう!
味方の物資を万全にして、更にドーピングや全兵士にプレートアーマーの配布など……。
絶望的な国力差をチート生産魔術で全てを覆すのだ!
そして俺を利用した奴らに復讐を遂げる!
最強の職業は付与魔術師かもしれない
カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。
召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。
しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる――
※今月は毎日10時に投稿します。
男女比1対999の異世界は、思った以上に過酷で天国
てりやき
ファンタジー
『魔法が存在して、男女比が1対999という世界に転生しませんか? 男性が少ないから、モテモテですよ。もし即決なら特典として、転生者に大人気の回復スキルと収納スキルも付けちゃいますけど』
女性経験が無いまま迎えた三十歳の誕生日に、不慮の事故で死んでしまった主人公が、突然目の前に現れた女神様の提案で転生した異世界で、頑張って生きてくお話。
異世界帰りの元勇者、日本に突然ダンジョンが出現したので「俺、バイト辞めますっ!」
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
俺、結城ミサオは異世界帰りの元勇者。
異世界では強大な力を持った魔王を倒しもてはやされていたのに、こっちの世界に戻ったら平凡なコンビニバイト。
せっかく強くなったっていうのにこれじゃ宝の持ち腐れだ。
そう思っていたら突然目の前にダンジョンが現れた。
これは天啓か。
俺は一も二もなくダンジョンへと向かっていくのだった。
ぱちモン 異世界転移は『詐欺商品』と共に~詐欺商品は『本物』になったら無敵でした~
石のやっさん
ファンタジー
詐欺や詐欺商品を本物にする能力VS異世界
主人公の黒木理人は両親が小さい物から大きな物まであらゆる詐欺に遭い莫大な借金を背負い自殺した。その為に今も借金を払い続け貧乏生活をしています。そんな彼が異世界にクラスごと転移します。そんな中、他の生徒には女神が異世界で戦うために様々なスキルと強力なジョブが与えられていく。だが、彼は両親が詐欺にあった物の中に宗教に関する物があった為女神を信じず、異世界召喚を拒否。
召喚魔法は全員一緒で無ければ召喚が出来ない為…困った女神は…
彼や彼の両親が『詐欺にあった物や事を全て嘘でなく本物にする』能力
『偽りの真実(限定)』というスキルを与える事に。
本物になった詐欺商品VS異世界
ありそうで無かったのでチャレンジしてみました。
見切り発車なので亀更新です...今回は本当に...
異世界転生したプログラマー、魔法は使えないけれど魔法陣プログラミングで無双する?(ベータ版)
田中寿郎
ファンタジー
過労死したプログラマーは、気がついたら異世界に転生していた。魔力がゼロで魔法が使えなかったが、前世の記憶が残っていたので魔法のソースコードを解析して魔法陣をプログラミングして生きのびる・・・
――――――――――――――――
習作、ベータ版。
「残酷描写有り」「R15」
更新は不定期・ランダム
コメントの返信は気まぐれです。全レスは致しませんのでご了承願います(コメント対応してるくらいなら続きを書くべきと思いますので)
カクヨムにも連載しています。
――――――――――――――――
☆作者のスタイルとして、“戯曲風” の書き方をしています。(具体的にはセリフの前に名前が入ります。)あくまで “風” なので完全な台本形式ではありませんが。これに関しては私のスタイルとしてご了承願います。
個人的に戯曲が好きなんですよね。私は戯曲には抵抗はなく、むしろ面白いと感じるのです。
初めて読んだ戯曲はこれでしたね
https://pandaignis.com/wp/66267.html
予想外に批判的な意見も多いので驚いたのですが、一作目を書き始める直前に、登場人物が8人も居るのにセリフの羅列で、誰が発言してるのかまったく分からないという作品を読みまして、このスタイルを選択しました(笑)
やってみると、通常の書き方も、戯曲風も、どちらも一長一短あるなと思います。
抵抗がある方も多いようですが、まぁ慣れだと思うので、しばらく我慢して読んで頂ければ。
もし、どうしても合わないという方は、捨て台詞など残さずそっと閉じ(フォローを外し)して頂ければ幸いです。
結婚までの120日~結婚式が決まっているのに前途は見えない~【完結】
まぁ
恋愛
イケメン好き&イケオジ好き集まれ~♡
泣いたあとには愛されましょう☆*: .。. o(≧▽≦)o .。.:*☆
優しさと思いやりは異なるもの…とても深い、大人の心の奥に響く読み物。
6月の結婚式を予約した私たちはバレンタインデーに喧嘩した
今までなら喧嘩になんてならなかったようなことだよ…
結婚式はキャンセル?予定通り?それとも…彼が私以外の誰かと結婚したり
逆に私が彼以外の誰かと結婚する…そんな可能性もあるのかな…
バレンタインデーから結婚式まで120日…どうなっちゃうの??
お話はフィクションであり作者の妄想です。
妹に結婚者をとられて隣国へ逃げたら、麗しの伯爵様に捕まりました(物理的に)~旦那様が錯乱して私を愛犬だと勘違いなさっていて、大変困っています
百門一新
恋愛
フェリシアはコルコッティ子爵家の令嬢だ。長女だが、二十三歳になっても嫁ぎ先が見つからないくらい目立たない令嬢だった。そうしたころ兄の婚約者が、実家の知り合いという男性を紹介したくれたが、妹が駆け寄って彼と向き合ったのを見た瞬間に、フェリシアはある予感がしていた。そうしてその通りに、美人な十六歳の妹が彼と婚約をする。彼女の結婚と同時に、フェシアは勢いに任せて家を出て隣国へと行く。だが、「旦那様! それは人間です! お離しください!」愛犬を失って錯乱中だという若き伯爵様に、「会いたかったよ僕のジャスミン!」と物理的に確保され、手を握ってもしゃべっても、私が全然人間だという認識をしてくれない…!
※「小説家になろう」でも連載中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる