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第5章 王都アルテア
55. 最外周壁ノベナ
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この世界に来て、初めてノンビリと出来た1日だった。精神的な疲労の回復には、やはりこういった休息が必要なんだろう。
夜が明けて早々、追加の補給物資を積み込み、俺たちは王都へ向う。余計な情報が王都へ伝わるのを避けるために、一気に王都に入って、聖地の一つを確保する事が目的だ。
「リリィ、王都で確保しやすい聖地はどこになる?」
「聖地の一つは王宮内のため簡単には入れません。そうなるとクロロ神殿か、メルクリオ神殿になります。どちらも光のカーテンの一般公開をしていたはずですが……」
「門から近いのは?」
「クロロ神殿です」
そうか……クロロって、ミントを召喚したスーツ姿の孫神だったよな。
「クロロ神殿を目指そう? 門から街へはすぐ入れるのか?」
「門には警備の軍がいますが、怪しくなければ止められたりしません」
自動車がオーバーテクノロジーだって事は、もう考慮していないが、怪しい一行である事は間違いない。
「場合によっては、最後は歩く事になるので、そのつもりでいてくれ」
----------
トイレ休憩以外はノンストップで車を進めれば、王都の近くには午後過ぎくらいに到着する予定でいたのだが……王都に近づくに連れ、馬を連れた隊商や騎士団が増え、車を降りるポイントへ着く頃には午後4時を回っていた。
「リリィ、また頼む」
「はい!」
そろそろ降りようかという所で、また隊商を追い抜く事になった。これまでと同じように、リリィが走り、王命による任務中と言う事で、追い抜くために少し端に避けて欲しいと説明する。
「ここまできたら、門まで車で行った方がいいんじゃない?」
「うーん、そんな気がしてきた」
戻ってきたリリィとも相談をしてみる。
「そうですね。通常、よほど大きな隊商でも無い限り、通信士がいる事は無いのですが、騎士団は騎士が兼務している場合もありますし……これだけすれ違っていたら、すでに王都へ連絡が入っている可能性もあります」
この先、車で移動すれば、王都へ連絡されるリスクは更に増す……だが、連絡がすでに入っているのであれば、相手が対応する前に王都へ到達した方がいいだろう。ならば、ここで選択すべきは……
「スピードだな」
「そうね」
ひとえも頷く。
「王都へ早く入る方を選ぼう。すでに連絡が入っている可能性もあるなら、準備が整っていないうちに王都に着きたい」
さらに進むと街道の両側は平坦な地面になってきた。これだったら隊商や騎士団に避けてもらう必要は無い。
「よし、出来るだけスピードを上げ、王都まで行ってしまおう!」
----------
やがて王都が見えてきた。都市を囲む石塀がどこまでも続いている。これまで通ってきた村や街と規模が全く違う。
「あれが王都の外周壁ノベナです」
外周壁?
「はい、王都は一番中心にある壁から始まって、全部で9つの壁があります。元々、アルテアの街には現在の4番目の壁クアルタしかなかったのですが、アルテアが戦争に勝利したあと、聖ダビド王国が建国され、国の発展とともに、街の規模を大きくなり、外へ外へと壁を増築してきたのです」
ファンタジーの世界という事で、大きい街といっても歩いて回れるくらいの感覚でいたが……ここは、本当に大都市なんだな……。
「もしかして、オーレンセはかなり小さな街だった?」
「小さいとまではいきませんが、普通の街だと思います。王都規模の都市となると国内ではマドリッドくらいでしょうか」
ああ、名前はスペインの首都みたいな所ね。
「よし、このまま正面の門の近くまで進んで行って、外壁に寄せて車を止めよう」
少しスピードを落とし、徐々に門へ近づいていく。門と外壁の高さは10mくらいはあるだろう。門の両脇には外壁が延々と続いている。外周だけでどのくらいの距離があるんだろうか……
門まであと100mくらいという所まで近づいた時に、門の左右からバラバラと黒い鎧を着た兵士たちが出てきた。
「リリィ、申し訳ないが、また交渉をしてきてくれ」
「私も行く」
リリィと一緒に、ひとえも降りる。
「軍だから、あいつらの息がかかっていなとも限らないし、二人いれば大丈夫でしょ」
「そうだな……頼む。無理はしないように」
車を停車させ、二人を送り出した。うまくいく事を祈ろう。
「ママ、大丈夫?」
「奥様……」
ユイカとチコが心配する。
「大丈夫、何かあったとしてもクレーターが出来るだけ出し……」
これは外壁ごと吹き飛ばして、この街の方々に迷惑をかける事の方が心配かもしれない。
----------
ひとえとリリィはゆっくりと兵士達の方へ歩いていく。すると兵士の集団から一人、前に進みでてきて、少し話をしていると思ったら、他の兵士達が門の内側へ戻っていった。ひとえとリリィは少しだけ残った兵士と話したあと、こちらへ戻りながら手を振っている。
「あれは……大丈夫って事なのかな?」
「パパさん、ママさんは、『大丈夫』って言っているよ」
「そうか……」
その言葉に車を進め、二人の所まで行く。
「問題ないみたい。門に入って右側にスペースがあるみたいだから、そこに停めてって」
「了解ー!」
二人を残し、門の所にる兵士に頭を少し下げて内側へ入る。
そして、子供達に降りる準備をするように言って、車を先に降りる。
「ようこそ、王都アルテアへ!」
一人残っていた兵士がニコニコと挨拶をしてくる。
「王族に伴い出発した騎士団が多くいる中、私たち軍がサポートしたリリアナ様が救世主様を迎え入れる事が出来たというのは、本当に栄誉ある事です。大きな声では言えませんが、選ぶった騎士団の連中の鼻を明かしてやった気分です」
兵士は俺に言いながら、リリアナが俺たちを連れてきたのが、余程嬉しかったのか、満面の笑顔だ。軍と騎士団の軋轢というか……そういう側面もあるんだ。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。事情があって軍の皆さんは後から数日遅れてきますが……」
「ギゼさん、それでは私たちは中に入りますね」
「ああ、リリアナ様、お引き留めして申し訳ありません、どうぞお進みください」
リリィが途中で話を切ってくれたので助かった。クベロの事もあるので、あまり説明をしたくなかったんだよな。
「タナカ様、すみません。ギゼさんは、クベロさんやアニアさんとは違う軍団に所属している方なので、大丈夫だと思いますが、とりあえず他の皆さんは後から来るとしか言っていなかったので……」
「そうだな……その辺を、どう説明するかを事前に打ち合わせしておくべきだった。こっちの考慮漏れだ、申し訳ない」
「いえ、本来なら、お迎えする私たちが、色々準備してなければならないのに……」
その言葉に俺は気にするなと首を振り、子供達を呼び寄せた後、街の中へ歩き始めた。
「リリィ、それじゃ早速、クロロ神殿に行こう」
「はい、ここから5分くらいの場所なので、すぐ着くと思います」
門の広さは10mくらいで、その門から真っ直ぐ道が伸びている。先が見えていないという事は、かなりの長さがあるのだろう。そして道の両脇には3,4階建ての石造りの建物がびっしりと並んでいる。
「随分栄えているな」
「この辺りだけですね。ノベナは通りの少し奥に入ると、広大な畑とちょっとした集落が点々とあるだけです」
へー、建物の向こうが見えないので分かりにくいけど、奥は田舎なのか。そんな事を考えながら、建物と建物の間にある小道があったので、立ち止まり、覗いてみた。そこからは低い建物が数軒と、その奥に広がる畑が目に入る。
「本当だ、ちょっと先は何もないんだね」
「そうですね。ノベナは王都の食糧庫とも呼ばれるくらい、農業が盛んなんです。人口が多く栄えているのはクアルタの内側ですね」
「リリィはどこに住んでいたの?」
「私が生まれたのはクアルタの内側です」
「へー、じゃあ都会に住んでいたんだ」
「栄えていると言っても、壁際の方でしたので、うちは普通の家でしたよ」
中心に行けば行くほど、裕福って事なのかな?
「ただ、お父様は王族なので、テルセラの内側になります」
「テルセラ?」
「クアルタの内側の壁です」
覚えられないな……
「王族は、そのテルセラ……の内側に住むのか?」
「はい、陛下とダビド家の王族は内宮に住んでいますが、それ以外の王族は、他の貴族と同様にテルセラの中になります」
「へー、リリィは騎士団の従士って言っていたけど、今でもクアルタ……の壁の側に住んでいるの?」
「いえ、私はシエロ男爵家の住み込みですので、今はテルセラの中の男爵家の兵舎に住んでいます」
そうなんだ。
「それでは、この道を入ります」
そう言ってリリィは、クロロ神殿に続く建物と建物の隙間にある道を指差した。
夜が明けて早々、追加の補給物資を積み込み、俺たちは王都へ向う。余計な情報が王都へ伝わるのを避けるために、一気に王都に入って、聖地の一つを確保する事が目的だ。
「リリィ、王都で確保しやすい聖地はどこになる?」
「聖地の一つは王宮内のため簡単には入れません。そうなるとクロロ神殿か、メルクリオ神殿になります。どちらも光のカーテンの一般公開をしていたはずですが……」
「門から近いのは?」
「クロロ神殿です」
そうか……クロロって、ミントを召喚したスーツ姿の孫神だったよな。
「クロロ神殿を目指そう? 門から街へはすぐ入れるのか?」
「門には警備の軍がいますが、怪しくなければ止められたりしません」
自動車がオーバーテクノロジーだって事は、もう考慮していないが、怪しい一行である事は間違いない。
「場合によっては、最後は歩く事になるので、そのつもりでいてくれ」
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トイレ休憩以外はノンストップで車を進めれば、王都の近くには午後過ぎくらいに到着する予定でいたのだが……王都に近づくに連れ、馬を連れた隊商や騎士団が増え、車を降りるポイントへ着く頃には午後4時を回っていた。
「リリィ、また頼む」
「はい!」
そろそろ降りようかという所で、また隊商を追い抜く事になった。これまでと同じように、リリィが走り、王命による任務中と言う事で、追い抜くために少し端に避けて欲しいと説明する。
「ここまできたら、門まで車で行った方がいいんじゃない?」
「うーん、そんな気がしてきた」
戻ってきたリリィとも相談をしてみる。
「そうですね。通常、よほど大きな隊商でも無い限り、通信士がいる事は無いのですが、騎士団は騎士が兼務している場合もありますし……これだけすれ違っていたら、すでに王都へ連絡が入っている可能性もあります」
この先、車で移動すれば、王都へ連絡されるリスクは更に増す……だが、連絡がすでに入っているのであれば、相手が対応する前に王都へ到達した方がいいだろう。ならば、ここで選択すべきは……
「スピードだな」
「そうね」
ひとえも頷く。
「王都へ早く入る方を選ぼう。すでに連絡が入っている可能性もあるなら、準備が整っていないうちに王都に着きたい」
さらに進むと街道の両側は平坦な地面になってきた。これだったら隊商や騎士団に避けてもらう必要は無い。
「よし、出来るだけスピードを上げ、王都まで行ってしまおう!」
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やがて王都が見えてきた。都市を囲む石塀がどこまでも続いている。これまで通ってきた村や街と規模が全く違う。
「あれが王都の外周壁ノベナです」
外周壁?
「はい、王都は一番中心にある壁から始まって、全部で9つの壁があります。元々、アルテアの街には現在の4番目の壁クアルタしかなかったのですが、アルテアが戦争に勝利したあと、聖ダビド王国が建国され、国の発展とともに、街の規模を大きくなり、外へ外へと壁を増築してきたのです」
ファンタジーの世界という事で、大きい街といっても歩いて回れるくらいの感覚でいたが……ここは、本当に大都市なんだな……。
「もしかして、オーレンセはかなり小さな街だった?」
「小さいとまではいきませんが、普通の街だと思います。王都規模の都市となると国内ではマドリッドくらいでしょうか」
ああ、名前はスペインの首都みたいな所ね。
「よし、このまま正面の門の近くまで進んで行って、外壁に寄せて車を止めよう」
少しスピードを落とし、徐々に門へ近づいていく。門と外壁の高さは10mくらいはあるだろう。門の両脇には外壁が延々と続いている。外周だけでどのくらいの距離があるんだろうか……
門まであと100mくらいという所まで近づいた時に、門の左右からバラバラと黒い鎧を着た兵士たちが出てきた。
「リリィ、申し訳ないが、また交渉をしてきてくれ」
「私も行く」
リリィと一緒に、ひとえも降りる。
「軍だから、あいつらの息がかかっていなとも限らないし、二人いれば大丈夫でしょ」
「そうだな……頼む。無理はしないように」
車を停車させ、二人を送り出した。うまくいく事を祈ろう。
「ママ、大丈夫?」
「奥様……」
ユイカとチコが心配する。
「大丈夫、何かあったとしてもクレーターが出来るだけ出し……」
これは外壁ごと吹き飛ばして、この街の方々に迷惑をかける事の方が心配かもしれない。
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ひとえとリリィはゆっくりと兵士達の方へ歩いていく。すると兵士の集団から一人、前に進みでてきて、少し話をしていると思ったら、他の兵士達が門の内側へ戻っていった。ひとえとリリィは少しだけ残った兵士と話したあと、こちらへ戻りながら手を振っている。
「あれは……大丈夫って事なのかな?」
「パパさん、ママさんは、『大丈夫』って言っているよ」
「そうか……」
その言葉に車を進め、二人の所まで行く。
「問題ないみたい。門に入って右側にスペースがあるみたいだから、そこに停めてって」
「了解ー!」
二人を残し、門の所にる兵士に頭を少し下げて内側へ入る。
そして、子供達に降りる準備をするように言って、車を先に降りる。
「ようこそ、王都アルテアへ!」
一人残っていた兵士がニコニコと挨拶をしてくる。
「王族に伴い出発した騎士団が多くいる中、私たち軍がサポートしたリリアナ様が救世主様を迎え入れる事が出来たというのは、本当に栄誉ある事です。大きな声では言えませんが、選ぶった騎士団の連中の鼻を明かしてやった気分です」
兵士は俺に言いながら、リリアナが俺たちを連れてきたのが、余程嬉しかったのか、満面の笑顔だ。軍と騎士団の軋轢というか……そういう側面もあるんだ。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます。事情があって軍の皆さんは後から数日遅れてきますが……」
「ギゼさん、それでは私たちは中に入りますね」
「ああ、リリアナ様、お引き留めして申し訳ありません、どうぞお進みください」
リリィが途中で話を切ってくれたので助かった。クベロの事もあるので、あまり説明をしたくなかったんだよな。
「タナカ様、すみません。ギゼさんは、クベロさんやアニアさんとは違う軍団に所属している方なので、大丈夫だと思いますが、とりあえず他の皆さんは後から来るとしか言っていなかったので……」
「そうだな……その辺を、どう説明するかを事前に打ち合わせしておくべきだった。こっちの考慮漏れだ、申し訳ない」
「いえ、本来なら、お迎えする私たちが、色々準備してなければならないのに……」
その言葉に俺は気にするなと首を振り、子供達を呼び寄せた後、街の中へ歩き始めた。
「リリィ、それじゃ早速、クロロ神殿に行こう」
「はい、ここから5分くらいの場所なので、すぐ着くと思います」
門の広さは10mくらいで、その門から真っ直ぐ道が伸びている。先が見えていないという事は、かなりの長さがあるのだろう。そして道の両脇には3,4階建ての石造りの建物がびっしりと並んでいる。
「随分栄えているな」
「この辺りだけですね。ノベナは通りの少し奥に入ると、広大な畑とちょっとした集落が点々とあるだけです」
へー、建物の向こうが見えないので分かりにくいけど、奥は田舎なのか。そんな事を考えながら、建物と建物の間にある小道があったので、立ち止まり、覗いてみた。そこからは低い建物が数軒と、その奥に広がる畑が目に入る。
「本当だ、ちょっと先は何もないんだね」
「そうですね。ノベナは王都の食糧庫とも呼ばれるくらい、農業が盛んなんです。人口が多く栄えているのはクアルタの内側ですね」
「リリィはどこに住んでいたの?」
「私が生まれたのはクアルタの内側です」
「へー、じゃあ都会に住んでいたんだ」
「栄えていると言っても、壁際の方でしたので、うちは普通の家でしたよ」
中心に行けば行くほど、裕福って事なのかな?
「ただ、お父様は王族なので、テルセラの内側になります」
「テルセラ?」
「クアルタの内側の壁です」
覚えられないな……
「王族は、そのテルセラ……の内側に住むのか?」
「はい、陛下とダビド家の王族は内宮に住んでいますが、それ以外の王族は、他の貴族と同様にテルセラの中になります」
「へー、リリィは騎士団の従士って言っていたけど、今でもクアルタ……の壁の側に住んでいるの?」
「いえ、私はシエロ男爵家の住み込みですので、今はテルセラの中の男爵家の兵舎に住んでいます」
そうなんだ。
「それでは、この道を入ります」
そう言ってリリィは、クロロ神殿に続く建物と建物の隙間にある道を指差した。
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