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しおりを挟む「偶然ですわね」
「無理がないですかね、お嬢」
「黙りなさい、フィル」
女性は剣で易々とアリの首を切り飛ばしていた。フィルと呼ばれた男性も一撃でアリを倒していて、二人は喋る余裕すらある。
アリを倒し続ける二人を呆然と見ていると、もう一人の黒髪の女性が近くに来た。
「怪我は······あまりなさそうですね」
「······大丈夫です。あの、なんであなた方がここにいるんですか?」
「お嬢様には、かわいらしい人を見つけるとストーキングする悪癖があるのです」
「はい? え、ラビに?」
「ライラ!! 誤解をまねく発言はやめなさいっ」
女性はアリを倒しながらも黒髪の女性をにらみつけた。黒髪の女性は無表情で頭をさげる。
「失礼しました。お嬢様は傭兵になりたいと言う向こう見ずな人を陰ながら守りに来たのです」
「そのとお······いえ、違います。私達はたまたま、アリの討伐に来たのです。偶然です」
「お嬢、気をつけないと体液被りますよ」
「わかっています」
アリの体液に気をつける? まさか毒?
アイリスは体についたアリの体液を確認した。特に体調に変わりはない。
「······?」
「アリの体液には近くの仲間を呼び寄せる効果があるのですよ。一匹倒すとその場所に続々とアリの群れが寄ってきます。最初は倒せても数が増えると手に負えなくなって、死ぬ。新人がよくやるミスです。さあ、手を出して」
黒髪の女性は背負っている荷物から水筒を取りだし、アイリスの手をとると水をかけた。
「アリと戦うコツは適度なところできりあげることです。ですが、体液を被りすぎるとアリが追いかけてきます。距離が遠ければ問題ありませんが、万が一、街までアリの群れを連れてきてしまったら街に二度と入れなくなります。気をつけなさい」
「あ······はい」
だからさっき隠れていた場所がすぐばれたのか。ラビはこのこと知ってるのかな。知ってそうだなあ。あの悪魔は。さすがに街までアリを連れてきそうになったら対処してくれただろうけど。
話を聞いているうちに二人は全てのアリを倒し終わった。女性が男性にアリの頭を回収するよう指示を出してこっちに来る。
「もう一人の男の子はどこに?」
「ラビは······ラビ?」
ラビがいるはずの木の上を探す。ラビはひょいっと枝から降りてきた。
「二人とも無事で何よりです」
「あの、助けてもらって、ありがとうございます」
アイリスは女性に頭をさげた。逃げきれたとは思うけど、助かったのも本当だ。
「気にする必要はありません。偶然アリの討伐に来ただけですから」
『偶然』と何度も言う女性にアイリスは苦笑した
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