上 下
18 / 32

18

しおりを挟む

「偶然ですわね」
「無理がないですかね、お嬢」
「黙りなさい、フィル」

 女性は剣で易々とアリの首を切り飛ばしていた。フィルと呼ばれた男性も一撃でアリを倒していて、二人は喋る余裕すらある。
 アリを倒し続ける二人を呆然と見ていると、もう一人の黒髪の女性が近くに来た。

「怪我は······あまりなさそうですね」
「······大丈夫です。あの、なんであなた方がここにいるんですか?」
「お嬢様には、かわいらしい人を見つけるとストーキングする悪癖があるのです」
「はい? え、ラビに?」
「ライラ!! 誤解をまねく発言はやめなさいっ」

 女性はアリを倒しながらも黒髪の女性をにらみつけた。黒髪の女性は無表情で頭をさげる。

「失礼しました。お嬢様は傭兵になりたいと言う向こう見ずな人を陰ながら守りに来たのです」
「そのとお······いえ、違います。私達はたまたま、アリの討伐に来たのです。偶然です」
「お嬢、気をつけないと体液被りますよ」
「わかっています」

 アリの体液に気をつける? まさか毒? 
 アイリスは体についたアリの体液を確認した。特に体調に変わりはない。 
 
「······?」
「アリの体液には近くの仲間を呼び寄せる効果があるのですよ。一匹倒すとその場所に続々とアリの群れが寄ってきます。最初は倒せても数が増えると手に負えなくなって、死ぬ。新人がよくやるミスです。さあ、手を出して」

 黒髪の女性は背負っている荷物から水筒を取りだし、アイリスの手をとると水をかけた。

「アリと戦うコツは適度なところできりあげることです。ですが、体液を被りすぎるとアリが追いかけてきます。距離が遠ければ問題ありませんが、万が一、街までアリの群れを連れてきてしまったら街に二度と入れなくなります。気をつけなさい」
「あ······はい」

 だからさっき隠れていた場所がすぐばれたのか。ラビはこのこと知ってるのかな。知ってそうだなあ。あの悪魔は。さすがに街までアリを連れてきそうになったら対処してくれただろうけど。
 話を聞いているうちに二人は全てのアリを倒し終わった。女性が男性にアリの頭を回収するよう指示を出してこっちに来る。

「もう一人の男の子はどこに?」
「ラビは······ラビ?」

 ラビがいるはずの木の上を探す。ラビはひょいっと枝から降りてきた。

「二人とも無事で何よりです」
「あの、助けてもらって、ありがとうございます」

 アイリスは女性に頭をさげた。逃げきれたとは思うけど、助かったのも本当だ。

「気にする必要はありません。偶然アリの討伐に来ただけですから」

 『偶然』と何度も言う女性にアイリスは苦笑した
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

番から逃げる事にしました

みん
恋愛
リュシエンヌには前世の記憶がある。 前世で人間だった彼女は、結婚を目前に控えたある日、熊族の獣人の番だと判明し、そのまま熊族の領地へ連れ去られてしまった。それからの彼女の人生は大変なもので、最期は番だった自分を恨むように生涯を閉じた。 彼女は200年後、今度は自分が豹の獣人として生まれ変わっていた。そして、そんな記憶を持ったリュシエンヌが番と出会ってしまい、そこから、色んな事に巻き込まれる事になる─と、言うお話です。 ❋相変わらずのゆるふわ設定で、メンタルも豆腐並なので、軽い気持ちで読んで下さい。 ❋独自設定有りです。 ❋他視点の話もあります。 ❋誤字脱字は気を付けていますが、あると思います。すみません。

ご愛妾様は今日も無口。

ましろ
恋愛
「セレスティーヌ、お願いだ。一言でいい。私に声を聞かせてくれ」 今日もアロイス陛下が懇願している。 「……ご愛妾様、陛下がお呼びです」 「ご愛妾様?」 「……セレスティーヌ様」 名前で呼ぶとようやく俺の方を見た。 彼女が反応するのは俺だけ。陛下の護衛である俺だけなのだ。 軽く手で招かれ、耳元で囁かれる。 後ろからは陛下の殺気がだだ漏れしている。 死にたくないから止めてくれ! 「……セレスティーヌは何と?」 「あのですね、何の為に?と申されております。これ以上何を搾取するのですか、と」 ビキッ!と音がしそうなほど陛下の表情が引き攣った。 違うんだ。本当に彼女がそう言っているんです! 国王陛下と愛妾と、その二人に巻きこまれた護衛のお話。 設定緩めのご都合主義です。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

処理中です...