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しおりを挟む目的の街に着くまで五日かかった。
五日の間、アイリスは毎日ギヤの群れに突撃されたり、ラビに格闘でぼこぼこにされたり、野営の仕方や魔法を教わったり、ギヤと一対一で戦ってしとめたりと生傷の耐えない日々だった。
更に毎晩ラビに魔力を渡すことが日課になった。初回と違い、首筋をカプリと噛んで血を飲む。表情が見えないのでラビがどんな気持ちで飲んでいるのかわからないけど、たぶん不味くはないんだろう。もし不味いと言われたらへこむというか、複雑な気持ちになりそう。
最後に噛み傷を含めたその日にできた傷をすべて治して一日が終わる。治してもらわなかったら耐えきれたかわからない。
「ようこそ、ドラクルトへ。何の用事だい?」
「こんにちは。傭兵になりたくて来ました」
「傭兵に? 残念だが十五才以下は傭兵になれないよ」
「僕は十五だよ」
「······そうかい。なら、税が百リッドだよ」
「はい」
門兵のおじさんは苦笑しながら百リッドを受け取った。十五と言ったのを信じていないみたいだ。本当に十五なんだけどな······。
「傭兵ギルドは門を出てすぐの大通りをまっすぐ進んだ噴水広場にあるよ。二本の剣が交差している看板が目印だ」
「ありがとう」
門兵のおじさん達にお礼を言って門をくぐる。門も街の壁も、故郷の街よりも頑丈そうだ。
「じゃあ、さっそく傭兵ギルドに行こっか。それとも宿を探してからにする?」
「先にギルドだな。宿はどのくらい稼げるか見通しを立ててから決める」
「そうだね。わかった」
アイリスの今の所持金では宿に泊まれても二日か三日だ。もし稼げなくて突然追い出されたら困るし、信用にも関わる。そうなるくらいなら、最初からどこかで野宿してもいいかも。
門兵のおじさんが言っていたように大通りを進んでいると噴水が見えた。マルの形の中央に台座があってその上に球体の置物がある。球体と台座の間から水が溢れて流れていた。
「······ん?」
漂う匂いに目を向けると広場の端に屋台があった。パンの屋台、飲み物の屋台、他にもいろいろあるが、ひときわ鼻をくすぐるのは焼き串の屋台だ。
肉がじゅうじゅうと香ばしく焼ける匂いとタレの焦げる匂いがタッグを組んで鼻と胃を狂暴に襲ってくる。勝ち目がない。
気づけばアイリスは二本の焼き串を手にしていた。一本百五十リッド。懐が痛い。
「アル、向こうにギルドが······。買ったのか······」
「つ、つい······。ラビの分もあるよ、もう少しでお昼だし、ね?」
散財をとがめられる前にラビの分の焼き串を渡す。
「······うまいな」
「うん。美味しい!」
タレのかかった焼きたて熱々なジューシーなお肉。甘辛なタレがちょっぴり焦げた部分がこれまた美味しいのだ。
食べ終わると串を屋台近くにあるごみ箱に捨てた。もう一本食べたい。いや、だめだ、お金が。稼いでから、うん、稼いでからまた買おう。
アイリスは未練をふり払って傭兵ギルドに向かった。
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