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22 ショックがただ漏れ
しおりを挟む槇が出演していた『優秀者演奏会』は、想像以上のショックを僕に与えた。
何に?と言われてもはっきりと答えられない。
バイトの準備をしていても、どこか上の空になっていたのだろうか、
「高橋、具合悪いのか?」
等、度々声をかけられた。
俺にここのバイトを紹介した長澤梢は、店にずっといる訳ではないが、よく顔を見かけた。その日も、あぁまたいるな、くらいの感じだった。
開始前に時間がある。俺は指慣らしに明るい曲を一曲弾いた。
彼女は俺の音を聴いて、最後まで弾かせずに手を引いて、人気のないところへ連れてきた。
「ちょっと、何?」
この時も、俺はまだ『長澤さん』とも『梢さん』とも呼んでいなかった。
「何じゃないわよ!どうしたの?大丈夫?」
「何が?」
彼女は俺をそこへ残して奥へ行った。
何だよ?
戻ってきた時には支配人も一緒で、彼女は俺の手荷物を持っていた。
「高橋、具合悪いなら無理するな。今日は帰れ」
「え?あの……」
「私も今日はこれで。駅まで送っていくわ」
彼女があれよあれよという間に店の外に連れ出した。
「家はどこなの?」
「池袋線の○○○」
「あ、懐かしい。卒業したばかりだけど」
そう。俺は槇が通う音楽大学の近くに住んでいる。音楽大学の近くには、ピアノを置いて音を出してもいい物件があり、俺のマンションもそのうちの一つ。教授の家もその近くだった。
彼女もこの音大だったのか。
彼女は俺についてきた、と言うより俺が黙って家に帰らされた。
マンションの部屋の前までついてきた彼女は、
「つらいことがあったんじゃない?大丈夫?」
と言った。辛いこと?僕はすぐにはわからなかった。
「何があったか知らないけど、悲しそうで、見ていられない」
彼女はそう言って、手で俺の頬を撫でた。
「少しだけ、一緒に、いてもいい?」
俺の部屋の中に、二人きりになった。
カーテンを閉めてから家を出てきたから、部屋の中は暗かった。電気をつければいいのだが、つけたくなかった。
広めのワンルームだが玄関は狭い。靴も脱がずに二人はすぐ近くにいた。
「帰ってください」というべきか、「上がってください」というべきかもわからなかった。
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