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conductor
4 練習への姿勢
しおりを挟む今日、妻は大学でA氏のレッスンがある。
レッスンでよい集中力で臨めるよう、直前には指ならしと確認で一時間程度練習する。僕が教えたことを生かして、また自分でも工夫している。もう僕は見守るだけでいい。
僕は教えに行くだけで、特にそのための練習はしない。しかし、学生や生徒に聴かせるために、その場その場でいろいろ弾く。それは難易度は違えど、個人練習よりも緊張感があるし、伝えるための表現には殊更気を配る。
妻はレッスンに行くための洋服に着替えていて、僕が用意した朝食を食べた。
僕は時間が無いときは妻の好きなものしか作らない。だからちゃんと食べるし、妻の様子を見れば食べたい量も食べられる量もわかる。試しに、少し多めに盛りつけてみると、少し残して申し訳なさそうにする。僕の予想は結構当たる。
妻は考え事をしているらしく、ぼんやりしていた。合唱ピアニストの他にコンチェルトの演奏会に出演することで、練習の配分、仕上がりの予定、僕とピアノの練習時間が重ならないようにと考えているのだろうと推測した。
「かおり、何もかも細かく計画を立てすぎないで。大まかに、そこそこ進捗があれば、その都度微調整すれば大丈夫だ。伴奏は初見でこなせ。合唱団の拘束時間が伴奏の練習時間だと思って。かおりはそれができる。僕が見てるから、できない心配をするな」
妻は「はい」と小さく僕に言った。
そして、
「こんなたよりないママでごめんなさい」
仁にそう言った。
「ううん、ママのピアノを応援してるから、音を磨いて」
「ありがとう。練習するね。慎一さん、朝ごはんありがとう。お皿は後で私が洗います」
「わかった。お互い良い一日を」
僕は、立ち上がった妻にいつものようにハグをしてキスをした。
「ママのレッスン聴講してもいい?」
「うん、いいよ」
仁は制服を着て、かおりのレッスンに付いていったようだ。
僕は音楽教室の生徒のレッスンに行った。
今夜はレストランのBGMがある。かおりは聴きにくるかな?一人でも、予約をしておこう。レストランの支配人に予約をお願いして、妻にメールを送った。
「ありがとうございます。聴きに行きます」
という返信が来た。
今夜は、妻に聴かせたい曲をたくさん弾こう。
プロポーズした時のように、僕の音で愛が伝わったこと、また愛を伝えることができるようになった自分が誇らしい気持ちにさえなる。そこは、自惚れてもいいだろうか。
妻が幸せそうに聴いてくれる姿、こちらを見てくれる瞬間の潤んだ瞳、目が合うと恥ずかしそうに下を向く様子……。
僕は楽しみになった。
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