53 / 151
53 プレゼント
しおりを挟む発表会は、無事に成功した。
小さな頃から大人に混じって出演させてもらっていた僕たちも、だんだん一番先に演奏させてもらうには曲が長かったり、重かったりもするようになった。
今日は、前半の最後にリストの『献呈』をかおりが演奏し、後半の最後にショパンの『幻想曲』を僕が弾いた。
今は卒業した母親の門下生も多く聴きに来てくださり、発表会の前にレッスンに来て演奏してくれたり、丸一日サロンを借りてもリハーサルができないくらいにたくさんの演奏者で開催できた。
そして、たくさんの鳴りやまない拍手に心から感謝した。
発表会の会場の片付けが大方終わった後、一人で事務作業をしていた僕のところに、かおりがやってきた。
「ごめん、ちょっと待って。あとこれだけだから……できた。オーナーに提出してくる。もう帰れるから、控え室にいて?」
「はい」
「かおり、お待たせ」
最終確認を済ませて控え室に行くと、かおりは恥ずかしそうに、でもにこっとした。
「……慎一さん、これ……。23才のお誕生日、おめでとうございます」
「えっ?あぁ、誕生日か。そうか」
細長い白い封筒だった。
リボンが結んである。
封筒にリボンはおかしい。
リボンの形もおかしい。
「かおりが結んだの?」
「……そうです。……変ですか?」
「ふふっ、かおりらしい」
「えっ?」
「自分で結べたんだ?」
「はい」
「上手にできたね」
「……先生は、ピアノ以外には甘いんですね」
「気づいたなんて、かおりも大人になったね」
「えっ?……大人?大人なのは先生です。大学を卒業されて……」
「今日のかおりの『献呈』、大人の演奏だったよ?惚れ直した」
「えっ?……待って、やっぱりこれ、どうしよう?」
「だめ。もうもらった。僕の」
手を伸ばしたかおりの両手首を左手で軽く握り、僕は右手で頭上に封筒を翳した。見覚えのあるロゴマークが透けて見えた。これは……。僕がプロポーズしたレストランのあるホテル?
かおりの両手首を軽く握ったまま、かおりを壁に追いつめて、かおりを逃がさないようにぴったりと体を密着させた。そして、片手で封筒の中身を確認した。我ながら器用だ。
当たった。しかし、スウィートルームの宿泊チケットだった……。
「かおり、これ……意味わかってる?」
「先生こそ、私が今日弾いた曲の意味わかってる?」
『献呈』か……。
「かおり……僕の名前は?」
「慎一さん」
かおりの真っ直ぐな目に、自惚れではない、僕へのとても強い愛を感じた。
「……かおり……ママになる覚悟ができてるとか?」
「はい」
僕の父親も、若くして23才で父親になった、母親は28才だった。もしかして僕も23才で父親に?かおりは18才なんだけど……。
かおりのお母さんは僕の母親と同じ年だが、僕の父親の上司であるかおりのお父さんは、今55才のはずだ。喜んでくれるだろうか。
急に現実味を帯びてきた。収入も予想以上に増えている。大学の卒業試験を録音したCDもDVDも売れていて、今日も全員の参加者、お客様が既に購入されていたにも関わらず更に記念にとお買い求めくださった。指導者になった、かつての生徒さんも、ご自分の生徒に配るとご購入くださった。写真集も。あのカメラマンが自分の代表作にすると言ってくれた。
結婚式でもドレスショップの実演モデルとして出演料が支払われたし、特別な写真もたくさん撮影し、ホームページや雑誌の広告に掲載された。写真は僕たちのためにアルバムにしてプレゼントされた。
僕は長身男性向けのアパレルメーカーからのモデルの仕事もいくつか具体的な撮影の日程など、打診をいただいている。
大学を卒業を期に、レストランBGMの仕事も今までとは違い、アルバイトではなく専属ピアニストとなった。固定給だし、お客様からも直接チップをいただける。ピアノを教えるのも楽しいが、演奏の仕事、特に生演奏はやはり格別だ。
これから休む暇もあまりないが、かおりがいてくれるなら、いくらでもエネルギーが湧いてきそうだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
さして仲良くない職場の先輩と飲み会の後に毎回セックスして繰り返し記憶をなくしている百合
風見 源一郎
恋愛
真雪が目を覚ますと、セックスをした後だった。隣には、すごくエッチな体をした女の人がいた。前日には会社の飲み会があったことだけを覚えている。
酔った勢いで、さして仲良くもない会社の先輩を相手に処女を散らしてしまった真雪は、しかし、見知らぬはずの部屋に、見知ったものばかりが置かれていることに気がついたのだった。
下品な男に下品に調教される清楚だった図書委員の話
神谷 愛
恋愛
クラスで目立つこともない彼女。半ば押し付けれられる形でなった図書委員の仕事のなかで出会った体育教師に堕とされる話。
つまらない学校、つまらない日常の中の唯一のスパイスである体育教師に身も心も墜ちていくハートフルストーリー。ある時は図書室で、ある時は職員室で、様々な場所で繰り広げられる終わりのない蜜月の軌跡。
歪んだ愛と実らぬ恋の衝突
ノクターンノベルズにもある
☆とブックマークをしてくれると喜ぶ。
感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。
してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。
【R18 大人女性向け】会社の飲み会帰りに年下イケメンにお持ち帰りされちゃいました
utsugi
恋愛
職場のイケメン後輩に飲み会帰りにお持ち帰りされちゃうお話です。
がっつりR18です。18歳未満の方は閲覧をご遠慮ください。
【R18】幼馴染な陛下は、わたくしのおっぱいお好きですか?💕
月極まろん
恋愛
幼なじみの陛下に告白したら、両思いだと分かったので、甘々な毎日になりました。
でも陛下、本当にわたくしに御不満はございませんか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる