59 / 80
再会(大学生・社会人)
初恋は二度繰り返す
しおりを挟む
この声?
廊下ですれ違っただけなのに、やけに気になった。
初めて聞く気がしなくて、私は思わず首をかしげる。
話していたとしても最近ではなくて、記憶を引っ張り出すのも苦労する前のことだ。
どこで聞いたか思考を巡らせて、胸がキュッと痛くなる。
彼かもしれない。
懐かしくて、思わず泣きそうになった。
明日、角膜移植を受けるこの日にすれ違うなんて。
確かめるすべはないし、彼の顔を見ても私にはわからない。
何年も前に聞いた声を、覚えているとは限らないし。
他人のそら似かもしれない。
私の願望が聞かせたそら耳かもしれない。
だけど、手にしていた白杖が思わず震えてしまう。
私は高校生の頃、事故で視力を失った。
幸い両親は骨にひびが入る程度で、私も角膜以外の怪我は打ち身と二週間もすれば治る傷ぐらいだった。
半月か長くて一カ月ぐらいの入院だと聞いて、早く退院したいと言ったぐらいだ。
そう、生きているだけで喜んでいたから、とてつもなく角膜損傷の認識が甘かった。
もう見えないと告げられた時はその重大さもわからなくて、ただ、ズキズキと痛みを伝えてくる両目がなくなればいいとすら思っていた。
でも、その痛みが引いたとき、私は怖くなった。
目の前に広がっているのは、暗闇だった。
どんなに目を凝らしても、何も見えない。
真っ暗だから、今が昼なのか、夜なのか。
教えられても間取りが理解できなくて、自分がどこにいるのかもわからない。
立ち上がることはできても、棚やベッドがどこにあるのかすら把握できない。
だから怖くて、普通に歩くことができない。
気分転換に、病室の窓を開けることすらできなかった。
起き上がっていても方向がわからず、自分の姿勢がうまくつかめないのだ。
窓に歩み寄るだけで、両手を前にのばして、すり足でジリジリと近寄るしかない。
いきなり失った視界に緊張がほどけず、いつもガチガチに身体が固まっていた。
私、本当に病院の外で生きていけるんだろうか?
それでも、永遠に入院するわけにはいかないのだ。
治療に歩行訓練。
白杖の使い方も含めて、入院した毎日は忙しくて仕方なかった。
つまづいてもぶつかっても、私は歯を食いしばって耐えた。
歩いている間は恐怖が薄らぐ気がしたから、意地で動いていた。
ぼんやりとベッドの上に座り続けるよりも、少しでもいいから身体を動かして不安を忘れたかったんだと思う。
必要だから、この先も暗闇のままだから。
自分の行きたい場所に、自分の足で歩くためだから。
呪文のようにそう自分自身に言い聞かせる毎日。
リハビリ棟もついている大きな病院だったから、中庭は手術棟も外科内科の入院棟と共有している。
杖の先から固い感覚を伝えてくる歩道はフラットなつくりで段差もなく、車いすにも配慮してあって、ひとりで出歩く練習に 中庭はもってこいだった。
苦しくて辛くて、沈み込んだ気持ちのままでよく散歩した。
時間が許す限り歩いたのは、やっぱり立ち止まるのが怖かったからだと思う。
出会い、というほどのドラマはなかった。
初めて出会った日。
彼が中庭にいたのは誰もいない半端な時間だった。
声を押し殺して、泣いていたような気がする。
見えないから確証はないけどね。
「大丈夫ですか?」
問いかけてみると、彼は嗚咽を飲みこんだ。
きっと、人が来るなんて思ってもいなかったんだろう。
日も暮れているからほとんどの患者が病室に入っていて、出歩くバカは私ぐらいのものだ。
「こんな時間に出歩いちゃいけないよ」
やっぱり。看護師さんと同じことを言う。
泣いていたことなんて綺麗に消えた、よく通る静かな声だった。
「どうして? 消灯時間まで自由でしょ? 外に出ちゃいけない病気じゃないわ」
言い返すと、彼は言葉を飲み込んだ。
私の目をグルグル巻きにしている包帯と、持っている白杖を見たんだろう。
明るいとかくらいは理由にならないと思ったに違いない。
「灯りもない場所で、若い女の子がひとりでウロウロするものじゃない」
君が思ってるほどいい人ばかりじゃないと父さんみたいなことを言うから、思わず笑ってしまった。
「どうして? ここは病院関係者ばかりでしょう? それにこけたら大きな声を出しなさいって言われているわ。それだけで誰かが来るからって」
「試してみる?」と息を吸い込むと、明らかに慌てて「ちょっと待て」と彼は言った。
その慌てぶりがあまりにおかしいから「冗談よ」と笑うと、チッと軽く舌打ちして「座るか?」と聞かれた。
その口ぶりでベンチがあるのだとわかって、私は素直にうなずいた。
普段なら見知らぬ人となんて話はしない。
気まぐれ、というか、やっぱり疲れていたんだと思う。
私のことをまるで知らない誰かと、話してみたくなったのだ。
看護師さんでもお医者様でも、ましてや当事者の私以上に狼狽している両親や友達とも違う誰かと。
彼はぎこちない調子で、私の手を取って導いてくれた。
手探りは私も慣れないから、踏み出した弾みで彼の足の甲をふんづけたり、座るだけで見えないことの大変さを実感する。
でも、少しだけ触れた彼の手は優しくて、初めて会った人なのにちっとも怖くなかった。
名前は、お互いに名乗らなかった。
どうせ通りすがりだ。
声の感じで若い男だなと思ったけど、歳なんてどうでもよかった。
見えない私が当たり前だと思ってくれる人なら、誰でもよかった。
ポツリポツリと会話をした。
共通の会話もはじめましてだとやっぱり手探りで、けっきょく無難な食事の話になる。
病院食にしては美味しいけど昨日のチキンカツはいまいちだったとか、パックの牛乳はストローの位置がわかりにくいとか。
彼がどうして病院にいるのかわからないけど、食事制限がないことはわかった。
取り留めのないことを話しこんでいて、ふと、気がついた。
のどがカラカラだ。
かなりの時間、話しこんでしまった。
彼に現在の時間を聞くと、消灯時間が近い。
特別なことは話してないけど、気持ちが楽になった気がして、笑いながら私は立ち上がった。
「おやすみ、泣き虫さん」
彼が絶句したのがわかった。
「泣き虫はよけいだ」
そうだよね、泣いてたことなんて誰にも見られたくないものだろうし。
だから、精いっぱいの笑顔を向ける。
「平気よ、私、何も見てないもの」
彼が絶句したのはわかった。
「見てないから、あなたは泣いてなんかない」
じゃぁね、とだけ言いおいて、私は病室に戻った。
白杖のつき方はまだおぼつかないけど、目の見える彼が私と同じ夜の中にいたことに、気持ちが緩む気がした。
見えない私にも、見える彼にも、夜はひとしい闇をくれる。
光を失った私に、夜は優しかった。
それから私は、ちょくちょく中庭を散策するようになった。
同じように彼も、ちょくちょく中庭に現れるようになった。
お互いに人の少ない妙な時間にふらりと現れているのは確かだった。
テレビやラジオの音声よりも、私は外の空気を吸ってるほうが気楽だった。
グルグル中庭を歩いて、疲れたころ、適当にベンチに座る。
そして、いろんなことを話した。
花の匂いや、通り過ぎる風の感じ。
目の痛みが消えてから、少しづつ感覚でつかめるようになっていること。
通っていた高校のことや、たぶん進学できない大学のこと。
これからの不安や、親には言えない今の不安。
彼は父さんみたいに説教臭いことを言わず、君はそういう考えなんだね、というスタンスで聞く人だった。
若いのに、珍しいタイプだ。
そう言うと、偏見だと笑ってくれるぐらい気安い彼だった。
名前を聞いたらきっと素直に話せなくなるから、という私のわがままを受け入れるぐらい、優しい人だった。
最初の日みたいに長時間話し込める日はほとんどなかったけど、話ができた日はなんだか気分が軽くなるから、次第に彼に会うことが楽しみになってしまった。
中庭に向かうとき、散歩はいつも楽しそうね、と看護師さんに言われて戸惑ってしまう。
私たちはただの通りすがり。
約束なんてしていないから、中庭でいつも会えるわけじゃない。
でも、行くことをやめられなかった。
退院が数日後に決まった日。
もう彼に会うこともなくなる。
中庭で話している最中なのに、そう思うと気持ちがやけに沈んだ。
どうした? と聞かれて、正直に退院が決まったことを言うと、憎たらしいぐらい彼はほがらかに喜んだ。
おめでとう! という当たり前のセリフが、胸に突き刺さるようだった。
そうだよね、おめでとうがふさわしい言葉なんだ。
確かにみんなも喜んでくれた。
お医者様も看護師さんもよく頑張ったねと褒めてくれた。
父さんも母さんも、家に手すりを付けたと教えてくれた。
無口になった私に、彼はすぐに気がついた。
どうした? と問いかけられて、無言で首を横に振ることしかできない。
嬉しいことだ、いいことなんだとみんなが口をそろえる。
退院が怖いなんて、言うことは許されない。
家も道も、買い物に向かう店も、すべて闇に塗り込められて、気持ちが荒波にのまれたように揺れているのは私だけ。
言葉にすれば心の中にある暗闇があふれだしてしまう。
だから、何も言えない。
心配そうな彼の気配に、私は顔をあげた。
黙ったままも居心地が悪いのは確かだもの。
私はふぅとため息をついた。
とどんで濁った空気ごと変えたくて、まるで違うことを問いかけてみる。
「ねぇ、好きな人、いる?」
うん、と彼はうなずいた。
迷うことも、ためらうこともなかった。
いるよ、となんのてらいもないから、自分で聞いておきながら胸がチクリとする。
「好きで、好きで困るぐらい」
ああ、彼はきっと今、空を見ている。
そんな気がした。
軽やかな歌うような感じで、今まで聞いたことのない甘くて深い声音だった。
「手をのばしちゃいけない人なのに、好きなんだ」
驚いて顔を向けると、彼はクスリと笑った。
「僕の好きはね、とても困った好きなんだよ」
その瞬間、心が動いた。
悲しくて、苦しくて。
涙があふれだして、止まらない。
「え? なんで君が泣くの?」
彼は非常に慌てふためいていたけれど、ごめんなさいとしか言えなかった。
くりかえされた「好き」は、私の知らない彼女に届くことなく空に消える。
彼の気持ちは大きく育っているのに、伝えることすらないんだ。
それは、私の気持ちと同じだった。
会えるのがただなんとなく嬉しいとか、やる気が出るとか。
そんな言葉に変換していたけど、自覚が足りなかっただけだ。
私は、彼が好きだった。
必ず来る別れが怖くて名前が聞けないぐらい。
ずっと病院にいる彼の病名を知るのが怖いぐらい。
くだらないことを言って笑う時間が救いになるぐらい。
私はいつの間にか、彼を好きになっていたのだ。
涙が止まらない。
胸の中がゴチャゴチャで、好きが悲しいなんて知らなかった。
不格好でいいから笑いたいのに、ぽろぽろと涙があふれてしまう。
手をのばしちゃいけない人を好きになってしまうなんて。
私は、私自身の気持ちを自覚した瞬間に、失恋してしまった。
困ったように何か言いかけて、結局彼は押し黙った。
ポンポンと私の頭を軽くなでて、ごめんねと言った。
違う、謝るのは私だ。
そう言いたかったのに、嗚咽が止まらない。
ふわり、と気配が近づいて、おでこに温かなものが触れた。
それが口付けだと気づいて、思わず息を飲んだ。
軽い親愛のキスだったけど、彼の唇が額へ確かに触れた。
「元気で」
そう言って彼は立ち上がると、病院内へと入って行った。
それから彼とは会ってない。
名前も何も知らないまま、悲しくて透明な好きだけ教えてくれた。
自覚した瞬間、失った恋だった。
それが私の初恋だった。
あの時の私は若かったと思う。
まぁ、高校生だしね。
多感な時期なうえに、気持ちも不安定だった。
好きな人の、別人への愛の告白を聞いて、失恋したとたそがれているなんて。
いい思い出だ。
二度と会えないのはわかっているし、会ってもわからないと思う。
だけど彼に胸を張れるよう、私は前を向いて歩いてきた。
角膜移植が成功しても、失敗しても関係ない。
これからだって前を向くんだ。
なんて決意を固めていたけど。
あっさり手術は終わった。
退院してもいいと言われたけど、一週間は毎日通うことになると聞いて、家が遠いので再び入院生活である。
数日間は眼帯生活だ。
今まで見えなかったから行動に支障はないけれど、やっぱり快適になるまでは時間がかかる。
眼帯を外せても防御用の眼鏡もかけないといけないし、重いものを持ってはいけないとか、激しい運動はいけないとか、かなりの禁止事項がある。
点眼も忘れてはいけないし、けっこう面倒くさい。
昔のように、ふらりと中庭に出た。
懐かしい。
記憶の中と、寸分の差もなかった。
物の配置も変わってない。
なんだか嬉しくなって、ベンチに腰掛ける。
ここで彼とよく話したな。
泣き言もいったし、くだらない話もしたし、病院食がおいしいとかまずいとかそんな話もした。
思い返しても、あの時間は幸せだった。
失明した不安と恐怖に震えることなく、日常に戻れた瞬間だった。
知らず微笑んでいたら、ピタリ、と頬に冷たいものがあてられた。
キャッと思わず声をあげてしまう。
足音も聞こえていたし、人が近づいていたのはわかっていたけど、頬に冷たい缶ジュースを押し付けられるとは思ってもいなかった。
なにするの? と声をあげるよりも早く、その人は私の横に座った。
「久しぶり」
その声に、心臓が止まるかと思った。
よく通る静かな声。
夢の中でしか聞けなくなった、懐かしい声。
「あなた……」
それ以外の言葉が出ずに絶句している私に、彼はそっと缶を握らせた。
「オレンジジュース、好きだったよね」
私はうなずけなかった。
どうしてそんなことを覚えてるんだろう?
また泣きたくなるからやめて欲しい。
思わず泣きそうになって、必死でこらえる。
移植したばかりだから、涙は傷に触る。
必死でこぼれそうになった嗚咽を飲みこんで唇をかみしめたら、ポンポンと頭を軽くなでられた。
「時間があまりなくてね。君が退院する時、少しだけここに来て欲しいんだ」
それだけ言って、彼は立ち上がった。
ここで会ったことは内緒にしてとそっと耳打ちし、お大事にと残して急ぎ足で去る。
忙しそうだった。
あっという間の出来事で、これが夢だったとしても私は驚かない。
むしろ、現実に再会するなんて、思ってもみなかった。
いつ目が覚めるんだろう?
そんな不安を打ち消すように、手の中で缶ジュースが冷たく自己主張していた。
それから何度か中庭を散歩したけれど、彼には会えなかった。
手渡されたオレンジジュースだけが彼の存在を証明していたけど、時間のない約束を信じ切ることはできなかった。
はっきり言って、怖かった。
彼の年齢も、顔も知らない。
彼も眼帯や包帯で覆われた顔の私しか知らない。
手術は成功して視界は取り戻したけれど、ごつい眼鏡で防御したまま、まだ見ることになれない。
でも、時間は止まらなかった。
あっという間に退院の時が来た。
病棟や看護師さんへと挨拶して、親に少しだけ先に行くよう頼んだ。
不思議そうな顔をしたけれど、ちゃんと中庭を目に焼き付けておきたいからと言うと、みんなが納得したように笑った。
私の努力の歴史のように明るく送り出されて、ちょっぴり後ろめたかったけど、震える足で中庭に足を踏み入れる。
幸い、青空が広がっていた。
芝生と、レンガと。
薔薇の生け垣や、花壇も配置されていて、とても綺麗な場所だった。
見えないときは気がつかなかったけれど、私が思っていたよりも小さく感じた。
暗闇は距離感を伸ばすのかもしれない。
手探りで進んだ日を思い出し、胸が詰まる。
いつものベンチに向かい、思わず足が止まる。
そこにいたのは、白衣を着た人だった。
明らかに若い男のお医者様で、年は私より少し上だろうか?
小さな花かごをベンチに置いて、彼は私を見ていた。
混乱する私に、彼は微笑みかけてきた。
「退院、おめでとう」
その聞きなれた口調は、間違いなく彼だった。
数年前に、ぼやきあって、笑いあった彼だった。
患者ではなかったんだ。
お医者さまだとは思ってもみなかった。
動けない私に、彼は苦笑を浮かべた。
小さな花かごを手に近づいてきて、私の手に渡す。
彼の瞳の中に映る私は、迷子みたいな顔で途方に暮れている。
優しげな面差しだけど、意志の強そうな眼をしていた。
甘い花の香りが、これは現実だと強く示していた。
「また会えるかな?」
え? と私は思わず聞き返した。
頭がついていかないから、間抜けな返事しかできない。
そんな情けない私に、想定内だといいたげな顔で、彼は言った。
「今度は、病院の外で」
連絡先はカードに書いてあると、花の中を示す。
かわいらしい四つ葉をモチーフにしたメッセージがあって、私は胸が締め付けられる気がした。
「だって、好きな人、いるんでしょう?」
うん、と彼は恥ずかしげもなくうなずいた。
「今でも変わってないよ」
それなら、と花かごを返しかけた私の手を止めて、かるく身をかがめて彼は私の耳元で囁いた。
「君のことが好きで、困ってる」
鼓動が、爆発しそうになる。
私のことが好き?
好きで困るって、確かにそう言った。
喜ぶよりも先に、手を伸ばしてはいけない人を好きだと言った、あの日の言葉がよみがえる。
嘘つき、と言いかけたけど、彼はクスクス笑った。
「だって、研修医が患者に、しかも未成年の女子高生に手を出すのは、れっきとした犯罪だろう?」
ああなるほど。そういうことなんだ。
納得すると同時に、今が現実味を帯びた。
そっと手を伸ばすと、彼は私の手を取った。
包み込むように暖かな手で私の指先を握る。
「君のことが好きで、好きで。好きすぎて、困っているんだ」
聞き慣れない甘い台詞だけど。
耳に馴染む静かな口調は記憶のままだ。
目を向ければ、初めて出会う表情で、甘く優しく笑う人。
いつだって、彼が私の初恋だった。
【 おわり 】
廊下ですれ違っただけなのに、やけに気になった。
初めて聞く気がしなくて、私は思わず首をかしげる。
話していたとしても最近ではなくて、記憶を引っ張り出すのも苦労する前のことだ。
どこで聞いたか思考を巡らせて、胸がキュッと痛くなる。
彼かもしれない。
懐かしくて、思わず泣きそうになった。
明日、角膜移植を受けるこの日にすれ違うなんて。
確かめるすべはないし、彼の顔を見ても私にはわからない。
何年も前に聞いた声を、覚えているとは限らないし。
他人のそら似かもしれない。
私の願望が聞かせたそら耳かもしれない。
だけど、手にしていた白杖が思わず震えてしまう。
私は高校生の頃、事故で視力を失った。
幸い両親は骨にひびが入る程度で、私も角膜以外の怪我は打ち身と二週間もすれば治る傷ぐらいだった。
半月か長くて一カ月ぐらいの入院だと聞いて、早く退院したいと言ったぐらいだ。
そう、生きているだけで喜んでいたから、とてつもなく角膜損傷の認識が甘かった。
もう見えないと告げられた時はその重大さもわからなくて、ただ、ズキズキと痛みを伝えてくる両目がなくなればいいとすら思っていた。
でも、その痛みが引いたとき、私は怖くなった。
目の前に広がっているのは、暗闇だった。
どんなに目を凝らしても、何も見えない。
真っ暗だから、今が昼なのか、夜なのか。
教えられても間取りが理解できなくて、自分がどこにいるのかもわからない。
立ち上がることはできても、棚やベッドがどこにあるのかすら把握できない。
だから怖くて、普通に歩くことができない。
気分転換に、病室の窓を開けることすらできなかった。
起き上がっていても方向がわからず、自分の姿勢がうまくつかめないのだ。
窓に歩み寄るだけで、両手を前にのばして、すり足でジリジリと近寄るしかない。
いきなり失った視界に緊張がほどけず、いつもガチガチに身体が固まっていた。
私、本当に病院の外で生きていけるんだろうか?
それでも、永遠に入院するわけにはいかないのだ。
治療に歩行訓練。
白杖の使い方も含めて、入院した毎日は忙しくて仕方なかった。
つまづいてもぶつかっても、私は歯を食いしばって耐えた。
歩いている間は恐怖が薄らぐ気がしたから、意地で動いていた。
ぼんやりとベッドの上に座り続けるよりも、少しでもいいから身体を動かして不安を忘れたかったんだと思う。
必要だから、この先も暗闇のままだから。
自分の行きたい場所に、自分の足で歩くためだから。
呪文のようにそう自分自身に言い聞かせる毎日。
リハビリ棟もついている大きな病院だったから、中庭は手術棟も外科内科の入院棟と共有している。
杖の先から固い感覚を伝えてくる歩道はフラットなつくりで段差もなく、車いすにも配慮してあって、ひとりで出歩く練習に 中庭はもってこいだった。
苦しくて辛くて、沈み込んだ気持ちのままでよく散歩した。
時間が許す限り歩いたのは、やっぱり立ち止まるのが怖かったからだと思う。
出会い、というほどのドラマはなかった。
初めて出会った日。
彼が中庭にいたのは誰もいない半端な時間だった。
声を押し殺して、泣いていたような気がする。
見えないから確証はないけどね。
「大丈夫ですか?」
問いかけてみると、彼は嗚咽を飲みこんだ。
きっと、人が来るなんて思ってもいなかったんだろう。
日も暮れているからほとんどの患者が病室に入っていて、出歩くバカは私ぐらいのものだ。
「こんな時間に出歩いちゃいけないよ」
やっぱり。看護師さんと同じことを言う。
泣いていたことなんて綺麗に消えた、よく通る静かな声だった。
「どうして? 消灯時間まで自由でしょ? 外に出ちゃいけない病気じゃないわ」
言い返すと、彼は言葉を飲み込んだ。
私の目をグルグル巻きにしている包帯と、持っている白杖を見たんだろう。
明るいとかくらいは理由にならないと思ったに違いない。
「灯りもない場所で、若い女の子がひとりでウロウロするものじゃない」
君が思ってるほどいい人ばかりじゃないと父さんみたいなことを言うから、思わず笑ってしまった。
「どうして? ここは病院関係者ばかりでしょう? それにこけたら大きな声を出しなさいって言われているわ。それだけで誰かが来るからって」
「試してみる?」と息を吸い込むと、明らかに慌てて「ちょっと待て」と彼は言った。
その慌てぶりがあまりにおかしいから「冗談よ」と笑うと、チッと軽く舌打ちして「座るか?」と聞かれた。
その口ぶりでベンチがあるのだとわかって、私は素直にうなずいた。
普段なら見知らぬ人となんて話はしない。
気まぐれ、というか、やっぱり疲れていたんだと思う。
私のことをまるで知らない誰かと、話してみたくなったのだ。
看護師さんでもお医者様でも、ましてや当事者の私以上に狼狽している両親や友達とも違う誰かと。
彼はぎこちない調子で、私の手を取って導いてくれた。
手探りは私も慣れないから、踏み出した弾みで彼の足の甲をふんづけたり、座るだけで見えないことの大変さを実感する。
でも、少しだけ触れた彼の手は優しくて、初めて会った人なのにちっとも怖くなかった。
名前は、お互いに名乗らなかった。
どうせ通りすがりだ。
声の感じで若い男だなと思ったけど、歳なんてどうでもよかった。
見えない私が当たり前だと思ってくれる人なら、誰でもよかった。
ポツリポツリと会話をした。
共通の会話もはじめましてだとやっぱり手探りで、けっきょく無難な食事の話になる。
病院食にしては美味しいけど昨日のチキンカツはいまいちだったとか、パックの牛乳はストローの位置がわかりにくいとか。
彼がどうして病院にいるのかわからないけど、食事制限がないことはわかった。
取り留めのないことを話しこんでいて、ふと、気がついた。
のどがカラカラだ。
かなりの時間、話しこんでしまった。
彼に現在の時間を聞くと、消灯時間が近い。
特別なことは話してないけど、気持ちが楽になった気がして、笑いながら私は立ち上がった。
「おやすみ、泣き虫さん」
彼が絶句したのがわかった。
「泣き虫はよけいだ」
そうだよね、泣いてたことなんて誰にも見られたくないものだろうし。
だから、精いっぱいの笑顔を向ける。
「平気よ、私、何も見てないもの」
彼が絶句したのはわかった。
「見てないから、あなたは泣いてなんかない」
じゃぁね、とだけ言いおいて、私は病室に戻った。
白杖のつき方はまだおぼつかないけど、目の見える彼が私と同じ夜の中にいたことに、気持ちが緩む気がした。
見えない私にも、見える彼にも、夜はひとしい闇をくれる。
光を失った私に、夜は優しかった。
それから私は、ちょくちょく中庭を散策するようになった。
同じように彼も、ちょくちょく中庭に現れるようになった。
お互いに人の少ない妙な時間にふらりと現れているのは確かだった。
テレビやラジオの音声よりも、私は外の空気を吸ってるほうが気楽だった。
グルグル中庭を歩いて、疲れたころ、適当にベンチに座る。
そして、いろんなことを話した。
花の匂いや、通り過ぎる風の感じ。
目の痛みが消えてから、少しづつ感覚でつかめるようになっていること。
通っていた高校のことや、たぶん進学できない大学のこと。
これからの不安や、親には言えない今の不安。
彼は父さんみたいに説教臭いことを言わず、君はそういう考えなんだね、というスタンスで聞く人だった。
若いのに、珍しいタイプだ。
そう言うと、偏見だと笑ってくれるぐらい気安い彼だった。
名前を聞いたらきっと素直に話せなくなるから、という私のわがままを受け入れるぐらい、優しい人だった。
最初の日みたいに長時間話し込める日はほとんどなかったけど、話ができた日はなんだか気分が軽くなるから、次第に彼に会うことが楽しみになってしまった。
中庭に向かうとき、散歩はいつも楽しそうね、と看護師さんに言われて戸惑ってしまう。
私たちはただの通りすがり。
約束なんてしていないから、中庭でいつも会えるわけじゃない。
でも、行くことをやめられなかった。
退院が数日後に決まった日。
もう彼に会うこともなくなる。
中庭で話している最中なのに、そう思うと気持ちがやけに沈んだ。
どうした? と聞かれて、正直に退院が決まったことを言うと、憎たらしいぐらい彼はほがらかに喜んだ。
おめでとう! という当たり前のセリフが、胸に突き刺さるようだった。
そうだよね、おめでとうがふさわしい言葉なんだ。
確かにみんなも喜んでくれた。
お医者様も看護師さんもよく頑張ったねと褒めてくれた。
父さんも母さんも、家に手すりを付けたと教えてくれた。
無口になった私に、彼はすぐに気がついた。
どうした? と問いかけられて、無言で首を横に振ることしかできない。
嬉しいことだ、いいことなんだとみんなが口をそろえる。
退院が怖いなんて、言うことは許されない。
家も道も、買い物に向かう店も、すべて闇に塗り込められて、気持ちが荒波にのまれたように揺れているのは私だけ。
言葉にすれば心の中にある暗闇があふれだしてしまう。
だから、何も言えない。
心配そうな彼の気配に、私は顔をあげた。
黙ったままも居心地が悪いのは確かだもの。
私はふぅとため息をついた。
とどんで濁った空気ごと変えたくて、まるで違うことを問いかけてみる。
「ねぇ、好きな人、いる?」
うん、と彼はうなずいた。
迷うことも、ためらうこともなかった。
いるよ、となんのてらいもないから、自分で聞いておきながら胸がチクリとする。
「好きで、好きで困るぐらい」
ああ、彼はきっと今、空を見ている。
そんな気がした。
軽やかな歌うような感じで、今まで聞いたことのない甘くて深い声音だった。
「手をのばしちゃいけない人なのに、好きなんだ」
驚いて顔を向けると、彼はクスリと笑った。
「僕の好きはね、とても困った好きなんだよ」
その瞬間、心が動いた。
悲しくて、苦しくて。
涙があふれだして、止まらない。
「え? なんで君が泣くの?」
彼は非常に慌てふためいていたけれど、ごめんなさいとしか言えなかった。
くりかえされた「好き」は、私の知らない彼女に届くことなく空に消える。
彼の気持ちは大きく育っているのに、伝えることすらないんだ。
それは、私の気持ちと同じだった。
会えるのがただなんとなく嬉しいとか、やる気が出るとか。
そんな言葉に変換していたけど、自覚が足りなかっただけだ。
私は、彼が好きだった。
必ず来る別れが怖くて名前が聞けないぐらい。
ずっと病院にいる彼の病名を知るのが怖いぐらい。
くだらないことを言って笑う時間が救いになるぐらい。
私はいつの間にか、彼を好きになっていたのだ。
涙が止まらない。
胸の中がゴチャゴチャで、好きが悲しいなんて知らなかった。
不格好でいいから笑いたいのに、ぽろぽろと涙があふれてしまう。
手をのばしちゃいけない人を好きになってしまうなんて。
私は、私自身の気持ちを自覚した瞬間に、失恋してしまった。
困ったように何か言いかけて、結局彼は押し黙った。
ポンポンと私の頭を軽くなでて、ごめんねと言った。
違う、謝るのは私だ。
そう言いたかったのに、嗚咽が止まらない。
ふわり、と気配が近づいて、おでこに温かなものが触れた。
それが口付けだと気づいて、思わず息を飲んだ。
軽い親愛のキスだったけど、彼の唇が額へ確かに触れた。
「元気で」
そう言って彼は立ち上がると、病院内へと入って行った。
それから彼とは会ってない。
名前も何も知らないまま、悲しくて透明な好きだけ教えてくれた。
自覚した瞬間、失った恋だった。
それが私の初恋だった。
あの時の私は若かったと思う。
まぁ、高校生だしね。
多感な時期なうえに、気持ちも不安定だった。
好きな人の、別人への愛の告白を聞いて、失恋したとたそがれているなんて。
いい思い出だ。
二度と会えないのはわかっているし、会ってもわからないと思う。
だけど彼に胸を張れるよう、私は前を向いて歩いてきた。
角膜移植が成功しても、失敗しても関係ない。
これからだって前を向くんだ。
なんて決意を固めていたけど。
あっさり手術は終わった。
退院してもいいと言われたけど、一週間は毎日通うことになると聞いて、家が遠いので再び入院生活である。
数日間は眼帯生活だ。
今まで見えなかったから行動に支障はないけれど、やっぱり快適になるまでは時間がかかる。
眼帯を外せても防御用の眼鏡もかけないといけないし、重いものを持ってはいけないとか、激しい運動はいけないとか、かなりの禁止事項がある。
点眼も忘れてはいけないし、けっこう面倒くさい。
昔のように、ふらりと中庭に出た。
懐かしい。
記憶の中と、寸分の差もなかった。
物の配置も変わってない。
なんだか嬉しくなって、ベンチに腰掛ける。
ここで彼とよく話したな。
泣き言もいったし、くだらない話もしたし、病院食がおいしいとかまずいとかそんな話もした。
思い返しても、あの時間は幸せだった。
失明した不安と恐怖に震えることなく、日常に戻れた瞬間だった。
知らず微笑んでいたら、ピタリ、と頬に冷たいものがあてられた。
キャッと思わず声をあげてしまう。
足音も聞こえていたし、人が近づいていたのはわかっていたけど、頬に冷たい缶ジュースを押し付けられるとは思ってもいなかった。
なにするの? と声をあげるよりも早く、その人は私の横に座った。
「久しぶり」
その声に、心臓が止まるかと思った。
よく通る静かな声。
夢の中でしか聞けなくなった、懐かしい声。
「あなた……」
それ以外の言葉が出ずに絶句している私に、彼はそっと缶を握らせた。
「オレンジジュース、好きだったよね」
私はうなずけなかった。
どうしてそんなことを覚えてるんだろう?
また泣きたくなるからやめて欲しい。
思わず泣きそうになって、必死でこらえる。
移植したばかりだから、涙は傷に触る。
必死でこぼれそうになった嗚咽を飲みこんで唇をかみしめたら、ポンポンと頭を軽くなでられた。
「時間があまりなくてね。君が退院する時、少しだけここに来て欲しいんだ」
それだけ言って、彼は立ち上がった。
ここで会ったことは内緒にしてとそっと耳打ちし、お大事にと残して急ぎ足で去る。
忙しそうだった。
あっという間の出来事で、これが夢だったとしても私は驚かない。
むしろ、現実に再会するなんて、思ってもみなかった。
いつ目が覚めるんだろう?
そんな不安を打ち消すように、手の中で缶ジュースが冷たく自己主張していた。
それから何度か中庭を散歩したけれど、彼には会えなかった。
手渡されたオレンジジュースだけが彼の存在を証明していたけど、時間のない約束を信じ切ることはできなかった。
はっきり言って、怖かった。
彼の年齢も、顔も知らない。
彼も眼帯や包帯で覆われた顔の私しか知らない。
手術は成功して視界は取り戻したけれど、ごつい眼鏡で防御したまま、まだ見ることになれない。
でも、時間は止まらなかった。
あっという間に退院の時が来た。
病棟や看護師さんへと挨拶して、親に少しだけ先に行くよう頼んだ。
不思議そうな顔をしたけれど、ちゃんと中庭を目に焼き付けておきたいからと言うと、みんなが納得したように笑った。
私の努力の歴史のように明るく送り出されて、ちょっぴり後ろめたかったけど、震える足で中庭に足を踏み入れる。
幸い、青空が広がっていた。
芝生と、レンガと。
薔薇の生け垣や、花壇も配置されていて、とても綺麗な場所だった。
見えないときは気がつかなかったけれど、私が思っていたよりも小さく感じた。
暗闇は距離感を伸ばすのかもしれない。
手探りで進んだ日を思い出し、胸が詰まる。
いつものベンチに向かい、思わず足が止まる。
そこにいたのは、白衣を着た人だった。
明らかに若い男のお医者様で、年は私より少し上だろうか?
小さな花かごをベンチに置いて、彼は私を見ていた。
混乱する私に、彼は微笑みかけてきた。
「退院、おめでとう」
その聞きなれた口調は、間違いなく彼だった。
数年前に、ぼやきあって、笑いあった彼だった。
患者ではなかったんだ。
お医者さまだとは思ってもみなかった。
動けない私に、彼は苦笑を浮かべた。
小さな花かごを手に近づいてきて、私の手に渡す。
彼の瞳の中に映る私は、迷子みたいな顔で途方に暮れている。
優しげな面差しだけど、意志の強そうな眼をしていた。
甘い花の香りが、これは現実だと強く示していた。
「また会えるかな?」
え? と私は思わず聞き返した。
頭がついていかないから、間抜けな返事しかできない。
そんな情けない私に、想定内だといいたげな顔で、彼は言った。
「今度は、病院の外で」
連絡先はカードに書いてあると、花の中を示す。
かわいらしい四つ葉をモチーフにしたメッセージがあって、私は胸が締め付けられる気がした。
「だって、好きな人、いるんでしょう?」
うん、と彼は恥ずかしげもなくうなずいた。
「今でも変わってないよ」
それなら、と花かごを返しかけた私の手を止めて、かるく身をかがめて彼は私の耳元で囁いた。
「君のことが好きで、困ってる」
鼓動が、爆発しそうになる。
私のことが好き?
好きで困るって、確かにそう言った。
喜ぶよりも先に、手を伸ばしてはいけない人を好きだと言った、あの日の言葉がよみがえる。
嘘つき、と言いかけたけど、彼はクスクス笑った。
「だって、研修医が患者に、しかも未成年の女子高生に手を出すのは、れっきとした犯罪だろう?」
ああなるほど。そういうことなんだ。
納得すると同時に、今が現実味を帯びた。
そっと手を伸ばすと、彼は私の手を取った。
包み込むように暖かな手で私の指先を握る。
「君のことが好きで、好きで。好きすぎて、困っているんだ」
聞き慣れない甘い台詞だけど。
耳に馴染む静かな口調は記憶のままだ。
目を向ければ、初めて出会う表情で、甘く優しく笑う人。
いつだって、彼が私の初恋だった。
【 おわり 】
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

離婚した彼女は死ぬことにした
まとば 蒼
恋愛
2日に1回更新(希望)です。
-----------------
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。
もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。
今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、
「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」
返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。
それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。
神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。
大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。
-----------------
とあるコンテストに応募するためにひっそり書いていた作品ですが、最近ダレてきたので公開してみることにしました。
まだまだ荒くて調整が必要な話ですが、どんなに些細な内容でも反応を頂けると大変励みになります。
書きながら色々修正していくので、読み返したら若干展開が変わってたりするかもしれません。
作風が好みじゃない場合は回れ右をして自衛をお願いいたします。

会社の後輩が諦めてくれません
碧井夢夏
恋愛
満員電車で助けた就活生が会社まで追いかけてきた。
彼女、赤堀結は恩返しをするために入社した鶴だと言った。
亀じゃなくて良かったな・・
と思ったのは、松味食品の営業部エース、茶谷吾郎。
結は吾郎が何度振っても諦めない。
むしろ、変に条件を出してくる。
誰に対しても失礼な男と、彼のことが大好きな彼女のラブコメディ。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる