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両片想い(高校生)
恋の逃避行 ~ 優等生×ムードメーカー 2 ~
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「あ~もう、また補習かよ」
くしゃくしゃと染めた自分の髪をかき混ぜて、幸介君はいらだつように教科書を投げた。
まぁ、不機嫌になるのもわかる。
この一カ月、まじめに放課後は私と一緒に勉強していたのに。
努力が報われないことって、普通にあるのだ。
会話もそれなりにあったけど、ほとんどが教科に関する話だ。
私の教え方に問題があるのかと、共に勉強した時間を思い返してみる。
要点をかいつまんで、集中的に教えたし、期末テストの予想問題も当たっていた。
公式と答えを暗記すれば60点は確実に取れたはずだ。
今までの不勉強のつけはあるかもしれないが、真剣に苦手科目へと立ち向かったのに。
あの頑張りが反映されないなんて、思ってもみなかった。
ここまで成果の出ない人も珍しい。
「でもほら、点数2ケタになってる」
中間テストよりいいと褒めると、染谷君は思い切り拗ねてしまった。
「名前書いたからって、お情けで1点もらった時と比べるなよ~俺、まじめに頑張ったんだぜ。赤点脱出したら深雪ちゃんとチューできると思ったのに」
「チュー?」
そんな約束、した覚えがないのだけど。
本来なら驚くところだろうけど、ものすごい妄想力だと感心するばかりで、私は思わずきょとんとしてしまった。
すると染谷君は明らかに傷ついた顔になる。
「ひで~勉強の成果が出たら俺と付き合うって言っただろ? 深雪ちゃん、忘れたの?」
「付き合う?」
「こんなに毎日好きだって言ってるのに、つれないなぁ」
私が棒読みの口調で聞き返すと、幸介君は大げさな泣きまねをした。
アメリカ人もびっくりの大げさなジェスチャーが似合っているので、私は感情表現が非常に苦手だからその様子に思わず目を細めてしまう。
うらやましいほど表情が豊かで、幸介君はまぶしかった。
勉強を教えてくれと頼まれたときは戸惑ったけど、幸介君はあっという間に私の中に入り込んできた。
クラスのムードメーカーで人好きのする幸介君と、優等生で人には少し距離を置かれる氷みたいな私。
まるで対照的な私たち。
でも、違うからこそ目が離せなくて、側にいるだけで言葉にできないぐらいドキドキする。
「ごめん。毎日一緒だから、私たちはもう付き合っていると思ってた」
ポソッと私がつぶやくと、幸介君は大きく目を見開いた。
ちょっと驚いたように目を見開いて、そっか、と幸介君は言った。
パッと花が咲くみたいに喜びが顔に広がっていき、もう一度かみしめるように「そっか」と言う。
「赤点続きの彼氏でもいいわけ?」
「勉強しかできない私でもいいの?」
「なんだ、俺、なんかバカみたいに気にしてた」
アハハッと陽気に笑うから、私も不器用に笑い返す。
少しは気にしたほうが後々のためだけど、それを今言うのは違うなってさすがに私でもわかる。
だって私も、ほんとに私でいいのかな? って、違いすぎることを気にしていたから。
どうでもいい人と毎日放課後勉強するわけがないけど、確認して違うって言われるのが怖くて、今まで問いかけることができなかった。
「なら、駅前のクレープ屋に行こうか。あそこ、うまいんだ」
はずんだ声の幸介君は、そのまま立ち上がる。
帰ってきた赤点のプリントをくしゃくしゃにして鞄に突っ込むので、もう二度と見ないつもりなのかもと想像してしまう。
補修は期末のプリントの解説から始まると聞いたことがあるから、ちょっとだけ鞄を指さして聞いてみる。
「復習は? 忘れないうちにやるなら、今から付き合うけど」
あ~とか、う~とか軽く呻いてかすかに悩んだ後、幸介君は悪びれなく笑った。
「今日はお休み。今日は深雪ちゃんが勉強する日。うん、そうしよう」
私が勉強する日?
意外な言葉に戸惑ったけど、幸介君が候補にあげる行きたい場所になるほどと思った。
魔法の呪文みたいな素早い速度で音楽やファッションに関わるお店を並べ、私の知らない世界を次々に展開していく。
そんなもの、私は知らない。
オシャレとか流行とか、よくわからない。
だけど、私の得意な英単語や物理の事を、幸介君はほとんど知らない。
なんてでこぼこで、両極端な私たち。
幸介君は「行こう」と言って歩き出したけど、しっかりと私の手を握っている。
誰に何を言われようと、道行く人に冷やかされようと、幸介君は気にせず手をつなぎ続けるだろう。
その事実に、胸の奥がキュッと捕まれた感じで、ほのかに熱を帯びた。
こういう気持ちを、嬉しいって表現するのだろう。
それとも、好きって言うのだろうか?
「ねぇ、いろんなこと教えてあげる。だから、深雪ちゃんの初めては、俺のもの♪」
おでこを突き合わせて勉強するのも、手をつないで歩くのも、買い物デートも、全部全部俺のものだからねって、ものすごく嬉しそうに宣言する。
「俺の勉強は明日からね。今日は思い切り楽しもうな」
ご機嫌な幸介君の言葉に、うん、と私はうなずいたけど。
この気持ち、なんだろう?
自分の気持ちを表す言葉が見つからないので、もどかしくてしかたない。
あえて言うなら小説の中で読んだ、恋とか、愛に似ている気がする。
一緒にいるだけで嬉しくなるのに、手をつなぐだけでこんなに苦しくなるなんて。
幸介君、と呼びかける代わりに、強く手を握る。
大きな手が、キュッと私の手を包み込む。
その温かさが、胸に迫った。
離せない。離したくない。
楽しい気持ちが膨らむほど、幸介君の手を離せなくなりそうで怖い。
だけどもっと、幸介君を近くに感じたい。
つかみきれない自分の気持ちを持て余しながら。
私たちは互いを知るために、ほんの少しだけ恋の逃避行。
くしゃくしゃと染めた自分の髪をかき混ぜて、幸介君はいらだつように教科書を投げた。
まぁ、不機嫌になるのもわかる。
この一カ月、まじめに放課後は私と一緒に勉強していたのに。
努力が報われないことって、普通にあるのだ。
会話もそれなりにあったけど、ほとんどが教科に関する話だ。
私の教え方に問題があるのかと、共に勉強した時間を思い返してみる。
要点をかいつまんで、集中的に教えたし、期末テストの予想問題も当たっていた。
公式と答えを暗記すれば60点は確実に取れたはずだ。
今までの不勉強のつけはあるかもしれないが、真剣に苦手科目へと立ち向かったのに。
あの頑張りが反映されないなんて、思ってもみなかった。
ここまで成果の出ない人も珍しい。
「でもほら、点数2ケタになってる」
中間テストよりいいと褒めると、染谷君は思い切り拗ねてしまった。
「名前書いたからって、お情けで1点もらった時と比べるなよ~俺、まじめに頑張ったんだぜ。赤点脱出したら深雪ちゃんとチューできると思ったのに」
「チュー?」
そんな約束、した覚えがないのだけど。
本来なら驚くところだろうけど、ものすごい妄想力だと感心するばかりで、私は思わずきょとんとしてしまった。
すると染谷君は明らかに傷ついた顔になる。
「ひで~勉強の成果が出たら俺と付き合うって言っただろ? 深雪ちゃん、忘れたの?」
「付き合う?」
「こんなに毎日好きだって言ってるのに、つれないなぁ」
私が棒読みの口調で聞き返すと、幸介君は大げさな泣きまねをした。
アメリカ人もびっくりの大げさなジェスチャーが似合っているので、私は感情表現が非常に苦手だからその様子に思わず目を細めてしまう。
うらやましいほど表情が豊かで、幸介君はまぶしかった。
勉強を教えてくれと頼まれたときは戸惑ったけど、幸介君はあっという間に私の中に入り込んできた。
クラスのムードメーカーで人好きのする幸介君と、優等生で人には少し距離を置かれる氷みたいな私。
まるで対照的な私たち。
でも、違うからこそ目が離せなくて、側にいるだけで言葉にできないぐらいドキドキする。
「ごめん。毎日一緒だから、私たちはもう付き合っていると思ってた」
ポソッと私がつぶやくと、幸介君は大きく目を見開いた。
ちょっと驚いたように目を見開いて、そっか、と幸介君は言った。
パッと花が咲くみたいに喜びが顔に広がっていき、もう一度かみしめるように「そっか」と言う。
「赤点続きの彼氏でもいいわけ?」
「勉強しかできない私でもいいの?」
「なんだ、俺、なんかバカみたいに気にしてた」
アハハッと陽気に笑うから、私も不器用に笑い返す。
少しは気にしたほうが後々のためだけど、それを今言うのは違うなってさすがに私でもわかる。
だって私も、ほんとに私でいいのかな? って、違いすぎることを気にしていたから。
どうでもいい人と毎日放課後勉強するわけがないけど、確認して違うって言われるのが怖くて、今まで問いかけることができなかった。
「なら、駅前のクレープ屋に行こうか。あそこ、うまいんだ」
はずんだ声の幸介君は、そのまま立ち上がる。
帰ってきた赤点のプリントをくしゃくしゃにして鞄に突っ込むので、もう二度と見ないつもりなのかもと想像してしまう。
補修は期末のプリントの解説から始まると聞いたことがあるから、ちょっとだけ鞄を指さして聞いてみる。
「復習は? 忘れないうちにやるなら、今から付き合うけど」
あ~とか、う~とか軽く呻いてかすかに悩んだ後、幸介君は悪びれなく笑った。
「今日はお休み。今日は深雪ちゃんが勉強する日。うん、そうしよう」
私が勉強する日?
意外な言葉に戸惑ったけど、幸介君が候補にあげる行きたい場所になるほどと思った。
魔法の呪文みたいな素早い速度で音楽やファッションに関わるお店を並べ、私の知らない世界を次々に展開していく。
そんなもの、私は知らない。
オシャレとか流行とか、よくわからない。
だけど、私の得意な英単語や物理の事を、幸介君はほとんど知らない。
なんてでこぼこで、両極端な私たち。
幸介君は「行こう」と言って歩き出したけど、しっかりと私の手を握っている。
誰に何を言われようと、道行く人に冷やかされようと、幸介君は気にせず手をつなぎ続けるだろう。
その事実に、胸の奥がキュッと捕まれた感じで、ほのかに熱を帯びた。
こういう気持ちを、嬉しいって表現するのだろう。
それとも、好きって言うのだろうか?
「ねぇ、いろんなこと教えてあげる。だから、深雪ちゃんの初めては、俺のもの♪」
おでこを突き合わせて勉強するのも、手をつないで歩くのも、買い物デートも、全部全部俺のものだからねって、ものすごく嬉しそうに宣言する。
「俺の勉強は明日からね。今日は思い切り楽しもうな」
ご機嫌な幸介君の言葉に、うん、と私はうなずいたけど。
この気持ち、なんだろう?
自分の気持ちを表す言葉が見つからないので、もどかしくてしかたない。
あえて言うなら小説の中で読んだ、恋とか、愛に似ている気がする。
一緒にいるだけで嬉しくなるのに、手をつなぐだけでこんなに苦しくなるなんて。
幸介君、と呼びかける代わりに、強く手を握る。
大きな手が、キュッと私の手を包み込む。
その温かさが、胸に迫った。
離せない。離したくない。
楽しい気持ちが膨らむほど、幸介君の手を離せなくなりそうで怖い。
だけどもっと、幸介君を近くに感じたい。
つかみきれない自分の気持ちを持て余しながら。
私たちは互いを知るために、ほんの少しだけ恋の逃避行。
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