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恋の始まり(高校生)
危機一髪
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「あっぶねぇー!」
ドン! と背中を押されて吹っ飛んだ瞬間。
隣から伸びてきた見知らぬ腕に、腰を巻かれた。
掃除当番でゴミ箱を抱えて階段を下りていた途中だったので、その腕が止めてくれなかったら、私は階段数十段分の高さを空中ダイブしていたに違いない。
ありえないほどの腹部圧迫で「ぐえっ」と思わず変な声が出るぐらい勢いがついていたけど、危機一髪で階段落ちから助けてくれた人の腕は力強くて、私の体重にも揺らがなかった。
強く引き上げられたから勢い余って、体当たりじみた勢いで胸にぶつかってしまったけれど、その人の心臓も私と同じくありえない速さでバクバク脈動していた。
「バカヤロー! 階段でふざけてんじゃねぇぞ!」
遅れて聞こえてきたその人の怒鳴り声と、見ていた子たちの悲鳴と、ふざけながら階段を走り降りて私にぶつかった人たちの謝罪と……大騒ぎである。
多種多様な大声が混在した空間は、なんだかカオスだった。
いつもと同じ放課後で。
掃除当番だからゴミ捨て場まで、ポヤポヤ歩いていただけだったのにな。
なんだか、夢の中に居るみたい。
驚きが大きすぎると気持ちが剥離して、なんだか他人事みたいになる。
でも、抱き寄せている腕が痛いぐらい力強いから、これは夢じゃない。
怒って大きな声で色々と説教じみた言葉をぶつけている、助けてくれた人の身体が張り詰めた感じで小さくブルブルと震えているから、ようやく私は自分の身に起こった事に実感を持てた。
運が悪ければ、危うく死んでしまう所だったのだ。
「ありがとう、助けてくれて」
ポンポン、と助けてくれたその人の腕を軽く叩く。
大丈夫だから怒らないでほしい、と思いながら見上げて、互いの顔の近さに驚いた。
同じ色のネクタイを付けているから同学年だとわかるけれど、クラス違いで顔も知らない人だった。
明るく染めた髪色と、軽く着崩した制服。
口調の粗さそのままの不良っぽさは、優等生街道を進む私とはタイプが違う。
だけど、強く真っすぐな眼差しが私を真っすぐに見るから、心臓がトクンとはねた。
「わ……わたし……」
今もまだ腕が緩まないので密着した体温もダイレクトに伝わってくるから、急に恥ずかしくなる。
力強い腕も固い胸も全部、初めて触れる男の人だった。
動揺してポロリと私の手から滑り落ちたゴミ箱が、ガラガラガランゴロゴロとありえないほど大きな音を立てて、階段下へと転がり落ちていった。
落下しながら飛び散ったゴミの大惨事具合は、一言では語れない。
周囲から巻き起こった阿鼻叫喚の悲鳴の渦に絶望的な気持ちで居たら、ふはっと明るい笑い声が耳元で響いた。
おかしくてたまらないといった感じで笑いながら、その人は言った。
「なぁ、片付けはぶつかったアイツ等に任せて、保健室に行こうぜ」
「え? 大丈夫? どこか傷むの?」
軽い口調の誘いだったけれど、自分の体重を知っているから腕が脱臼でもしていたら困ると思って慌てて尋ねたら、「さぁな」ってさらに笑い出す。
そして本当に掃除をぶつかってきた人たちに押し付けて、私の手を引いて騒ぎの中心から連れ出してくれた。
長い脚なのに、私の歩調に合わせてくれているのにも、すぐに気が付いた。
私も怪我をしていないか尋ねた後で、怪我をしていたら姫抱っこってヤツが出来たのにって笑うので、どう返事していいのかもわからなくなる。
保健室に向かう間、ずっと繋がれた手が、熱くて火傷しそうだ。
胸がドキドキして、言葉が上手く出てこない。
チョロいな、私。
名前もまだ知らない人なのに。
ゴミ箱を取り落とすよりもずっと簡単に、恋に落ちてしまうのだ。
『 おわり 』
ドン! と背中を押されて吹っ飛んだ瞬間。
隣から伸びてきた見知らぬ腕に、腰を巻かれた。
掃除当番でゴミ箱を抱えて階段を下りていた途中だったので、その腕が止めてくれなかったら、私は階段数十段分の高さを空中ダイブしていたに違いない。
ありえないほどの腹部圧迫で「ぐえっ」と思わず変な声が出るぐらい勢いがついていたけど、危機一髪で階段落ちから助けてくれた人の腕は力強くて、私の体重にも揺らがなかった。
強く引き上げられたから勢い余って、体当たりじみた勢いで胸にぶつかってしまったけれど、その人の心臓も私と同じくありえない速さでバクバク脈動していた。
「バカヤロー! 階段でふざけてんじゃねぇぞ!」
遅れて聞こえてきたその人の怒鳴り声と、見ていた子たちの悲鳴と、ふざけながら階段を走り降りて私にぶつかった人たちの謝罪と……大騒ぎである。
多種多様な大声が混在した空間は、なんだかカオスだった。
いつもと同じ放課後で。
掃除当番だからゴミ捨て場まで、ポヤポヤ歩いていただけだったのにな。
なんだか、夢の中に居るみたい。
驚きが大きすぎると気持ちが剥離して、なんだか他人事みたいになる。
でも、抱き寄せている腕が痛いぐらい力強いから、これは夢じゃない。
怒って大きな声で色々と説教じみた言葉をぶつけている、助けてくれた人の身体が張り詰めた感じで小さくブルブルと震えているから、ようやく私は自分の身に起こった事に実感を持てた。
運が悪ければ、危うく死んでしまう所だったのだ。
「ありがとう、助けてくれて」
ポンポン、と助けてくれたその人の腕を軽く叩く。
大丈夫だから怒らないでほしい、と思いながら見上げて、互いの顔の近さに驚いた。
同じ色のネクタイを付けているから同学年だとわかるけれど、クラス違いで顔も知らない人だった。
明るく染めた髪色と、軽く着崩した制服。
口調の粗さそのままの不良っぽさは、優等生街道を進む私とはタイプが違う。
だけど、強く真っすぐな眼差しが私を真っすぐに見るから、心臓がトクンとはねた。
「わ……わたし……」
今もまだ腕が緩まないので密着した体温もダイレクトに伝わってくるから、急に恥ずかしくなる。
力強い腕も固い胸も全部、初めて触れる男の人だった。
動揺してポロリと私の手から滑り落ちたゴミ箱が、ガラガラガランゴロゴロとありえないほど大きな音を立てて、階段下へと転がり落ちていった。
落下しながら飛び散ったゴミの大惨事具合は、一言では語れない。
周囲から巻き起こった阿鼻叫喚の悲鳴の渦に絶望的な気持ちで居たら、ふはっと明るい笑い声が耳元で響いた。
おかしくてたまらないといった感じで笑いながら、その人は言った。
「なぁ、片付けはぶつかったアイツ等に任せて、保健室に行こうぜ」
「え? 大丈夫? どこか傷むの?」
軽い口調の誘いだったけれど、自分の体重を知っているから腕が脱臼でもしていたら困ると思って慌てて尋ねたら、「さぁな」ってさらに笑い出す。
そして本当に掃除をぶつかってきた人たちに押し付けて、私の手を引いて騒ぎの中心から連れ出してくれた。
長い脚なのに、私の歩調に合わせてくれているのにも、すぐに気が付いた。
私も怪我をしていないか尋ねた後で、怪我をしていたら姫抱っこってヤツが出来たのにって笑うので、どう返事していいのかもわからなくなる。
保健室に向かう間、ずっと繋がれた手が、熱くて火傷しそうだ。
胸がドキドキして、言葉が上手く出てこない。
チョロいな、私。
名前もまだ知らない人なのに。
ゴミ箱を取り落とすよりもずっと簡単に、恋に落ちてしまうのだ。
『 おわり 』
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