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片想い(高校生)
面倒な女
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リビングのテレビがつけっぱなしだった。
音だけではなく、灯りも扉からもれている。
家族の姿はなかったから寝室に移動しているようだった。
静かだから、すでに寝ているのかもしれない。
俺は夏でも湯船につかるのが好きなので、じっくり楽しんで風呂を後にしたのだが。
そのまま部屋に向かうつもりだったけど、やっぱりつけっぱなしは気になる。
ちゃんと電気ぐらい消せよな~と思いながら、リビングに入ってドキリとした。
ソファーで真由が寝ていた。
扉側から見ると背もたれに隠れていて、姿が見えなかったのだ。
2歳年上なのに、子供みたいに無防備な寝顔だった。
リモコンを右手に持ったまま、スゥスゥと寝息をたてている。
その淡いピンクに色づいた頬や、夏用のルームウェアからのぞいた白い手足に、視線が吸いつけられる。
ふっくらと膨らんでいる胸や、やわらかな身体のラインが薄い服越しに俺を揺さぶった。
真由は十三年前、俺の義姉になった。
キリリとして知的な義父には全く似ておらず、亡くなった母親にそっくりらしい。
連れ児同士の再婚だったが、ボーっとしたところのあるお袋と、適応力のある真由はあっという間に馴染んでしまった。
毎日楽しそうにしている女ふたりに影響されて、俺も義父に反抗らしい反抗をすることができなかった。
かといって甘やかされることもなく、家族ってこういうものだよなってところに、さっさと収まった感じだ。
真由は出会ったときからよく笑う。
たっくん、たっくん、と子犬のように俺の後を付け回して、あれやこれやと余計な世話を焼いた。
おっとりとしてどんくさいくせに、おせっかいな世話焼きで、おねーちゃんって呼ばないと唇を尖らせてすねる、どこまでも面倒くさい女だった。
真由なんて面倒なばかりで、どうでもいいと思っていたけどさ。
彼氏ができた、なんて聞いた日は眠れなくなった。
ほんのり頬を染めて「明日は彼のお弁当も作る」なんて言っているのを聞くとイライラが止まらない。
俺以外に向けて、嬉しそうに笑ってんじゃねぇよ。
それは言ってはいけない言葉。
だって俺たちは、姉弟だから。
でも。真由が清い交際のままあっという間に初彼と別れたとき、お袋はものすごく悲しんで慰めていたけれど、俺は笑いが止まらなかった。
他の奴なんて見るな。
そう思ったのは一度や二度じゃない。
そんなことを思い返しながら、俺はテレビを消した。
そっと手を伸ばし、真由の身体を揺らす。
「起きろ、こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
ん~とか、む~とか、妙な寝言を言って、すやすやと真由は眠りこけている。
まったくもう、俺の前でそんな顔してると、襲うぞ。
姉だなんて、こっちは思ってないんだから。
これだけ熟睡していたら、何したってわからないだろうな。
フッとそんな悪魔のささやきが聞こえて、強く首を振ってその考えをふりはらう。
真由、と何度も呼びかけて身体を揺らしたけれど、起きる気配すらない。
まったくもう、と苦笑するしかなかった。
顔を覗き込むとボディーソープのやわらかな香りがして、胸がキュッと痛くなる。
俺の我慢も知らないで、のんきなもんだ。
こいつ、鼻をつまんで思い知らせてやる。
いくらなんでも、そこまですれば起きるだろう。
「バカ真由、さっさと起きなきゃキスするぞ」
そのときスッと手が上がって、揺らしている俺の腕をつかんだ。
温かな体温が伝わってきて、俺の動揺をあざ笑うように真由が目を開く。
ふわりとやわらかく笑って、悪魔のセリフを吐いた。
「いいよ、たっくんなら、キスしても」
ん、と唇を軽くとがらせて、真由は目を軽く閉じる。
ばかやろ~半分寝ぼけた顔で、何を言いだすんだよ。
それに正気に戻ったら代償を要求するつもりだろ?
などと思考で必死に抵抗をする俺を、桜色の唇が甘く艶やかに誘っていた。
ああ、神様。
俺の忍耐を試さないでくれ。
【 おわり 】
音だけではなく、灯りも扉からもれている。
家族の姿はなかったから寝室に移動しているようだった。
静かだから、すでに寝ているのかもしれない。
俺は夏でも湯船につかるのが好きなので、じっくり楽しんで風呂を後にしたのだが。
そのまま部屋に向かうつもりだったけど、やっぱりつけっぱなしは気になる。
ちゃんと電気ぐらい消せよな~と思いながら、リビングに入ってドキリとした。
ソファーで真由が寝ていた。
扉側から見ると背もたれに隠れていて、姿が見えなかったのだ。
2歳年上なのに、子供みたいに無防備な寝顔だった。
リモコンを右手に持ったまま、スゥスゥと寝息をたてている。
その淡いピンクに色づいた頬や、夏用のルームウェアからのぞいた白い手足に、視線が吸いつけられる。
ふっくらと膨らんでいる胸や、やわらかな身体のラインが薄い服越しに俺を揺さぶった。
真由は十三年前、俺の義姉になった。
キリリとして知的な義父には全く似ておらず、亡くなった母親にそっくりらしい。
連れ児同士の再婚だったが、ボーっとしたところのあるお袋と、適応力のある真由はあっという間に馴染んでしまった。
毎日楽しそうにしている女ふたりに影響されて、俺も義父に反抗らしい反抗をすることができなかった。
かといって甘やかされることもなく、家族ってこういうものだよなってところに、さっさと収まった感じだ。
真由は出会ったときからよく笑う。
たっくん、たっくん、と子犬のように俺の後を付け回して、あれやこれやと余計な世話を焼いた。
おっとりとしてどんくさいくせに、おせっかいな世話焼きで、おねーちゃんって呼ばないと唇を尖らせてすねる、どこまでも面倒くさい女だった。
真由なんて面倒なばかりで、どうでもいいと思っていたけどさ。
彼氏ができた、なんて聞いた日は眠れなくなった。
ほんのり頬を染めて「明日は彼のお弁当も作る」なんて言っているのを聞くとイライラが止まらない。
俺以外に向けて、嬉しそうに笑ってんじゃねぇよ。
それは言ってはいけない言葉。
だって俺たちは、姉弟だから。
でも。真由が清い交際のままあっという間に初彼と別れたとき、お袋はものすごく悲しんで慰めていたけれど、俺は笑いが止まらなかった。
他の奴なんて見るな。
そう思ったのは一度や二度じゃない。
そんなことを思い返しながら、俺はテレビを消した。
そっと手を伸ばし、真由の身体を揺らす。
「起きろ、こんなところで寝てると風邪ひくぞ」
ん~とか、む~とか、妙な寝言を言って、すやすやと真由は眠りこけている。
まったくもう、俺の前でそんな顔してると、襲うぞ。
姉だなんて、こっちは思ってないんだから。
これだけ熟睡していたら、何したってわからないだろうな。
フッとそんな悪魔のささやきが聞こえて、強く首を振ってその考えをふりはらう。
真由、と何度も呼びかけて身体を揺らしたけれど、起きる気配すらない。
まったくもう、と苦笑するしかなかった。
顔を覗き込むとボディーソープのやわらかな香りがして、胸がキュッと痛くなる。
俺の我慢も知らないで、のんきなもんだ。
こいつ、鼻をつまんで思い知らせてやる。
いくらなんでも、そこまですれば起きるだろう。
「バカ真由、さっさと起きなきゃキスするぞ」
そのときスッと手が上がって、揺らしている俺の腕をつかんだ。
温かな体温が伝わってきて、俺の動揺をあざ笑うように真由が目を開く。
ふわりとやわらかく笑って、悪魔のセリフを吐いた。
「いいよ、たっくんなら、キスしても」
ん、と唇を軽くとがらせて、真由は目を軽く閉じる。
ばかやろ~半分寝ぼけた顔で、何を言いだすんだよ。
それに正気に戻ったら代償を要求するつもりだろ?
などと思考で必死に抵抗をする俺を、桜色の唇が甘く艶やかに誘っていた。
ああ、神様。
俺の忍耐を試さないでくれ。
【 おわり 】
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