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告白(高校生)
臆病者の恋
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放課後。
三月の初めはまだ冬の匂いがして、空気が冷たい。
この時期だと手袋は必要ない気がして家に置いてきたけど、今日はやっぱり持ってくればよかったと思うような寒さだった。
そんな冷えた空気の中、彼と一緒に校門を出た。
駅までは帰り道が一緒。
嬉しいな、なんて思いながら大地君の背中を追いかける。
ゆっくり歩いてくれているのに、いかんせん大地君は百八十センチを超える長身。
私はチビすぎないもんと言い張ってみるけど、百五十センチしかないからクラスで一番小さい。
なので、歩幅がどうしても違いすぎる。
必死で歩くのに横に並べず、どうしても彼の後ろになってしまう。
一生懸命小走りするけど、ついて行くだけでやっと。
肩を並べるなんて、どんなに頑張っても無理な相談。
大地君とは同級生だけど、一度も同じクラスになったことがない。
不器用でぶっきらぼうな彼は、それほど人好きするタイプでもない。
だけど、私は運動会の時に、あきれるほど簡単に恋に落ちた。
リレーの最中、混戦状態になって私は背中を強く押されてしまい、バトンを渡した直後に見事に転んでしまった。
捻挫してしまい、起きあがりたくても起き上がれなくて、ジタバタと倒れたままもがいてしまって。
恥かしさと情けなさで泣きそうになった時、サッと大地君が抱き上げて保健室に運んでくれた。
それだけだったのに。
見た目の恐そうな彼の意外な優しさや行動力が、頭の中から離れなくなった。
それに、意識するようになってから大地君の姿を目で追っていると、友達に相談もよく受けていて信頼されているのが分かる。
目で追って、観察しているうちに、ますます好きな気持が膨れ上がってしまって。
私は一大決心して、一歩踏み出した。
引っ込み思案で人見知りな私が、見るからに体育会系で無口な彼を呼び出して、告白するのはとても勇気が必要だった。
「別にいいけど」
そんな、ぶっきらぼうな返事をもらっただけで、泣きそうなぐらい嬉しかった。
付き合い始めて、私と大地君のでこぼこさ加減に気づいたけれど、それでもよかった。
だけと時々、不安になる。
好きなのは、私だけなんじゃないかって。
人見知りの私は主に聞き役専門で、話すのが苦手な大地君といると、おかしいぐらい会話がない。
横にいるだけで心がポカポカするぐらい穏やかな沈黙だから、私は気にならないけれど。
一緒に歩けるだけでも幸せだったけれど、大地君は見た目に似合わず優しい人だから、迷惑だって言えなくて「別にいいけど」って答えただけかもしれない。
それに、私は彼に好きになってもらえるところが、一つもない。
チビだし。どんくさいし。一生懸命やればやるほど、つまづく。
今も背中ばかり追いかけて、並んで歩くことすらできない。
じわ、と涙が浮かんでくる。
なんで私って、こうなんだろう?
情けなくって、泣きそうになった時。
大地君は不意に立ち止まった。
周りをチラッと見まわして、おもむろに手を出す。
「ほら」
私は差しのべられた大きな手を、ジッと見ることしかできない。
何を求められてるんだろう?
突然だったからどうすればいいのかわからなくて、頭の中が混戦状態だ。
オロオロする私に、チッと彼は舌打ちした。
「わかれって」
彼はグイッと私の手をつかんだ。
強引な感じだったけれど、今、間違いなく大地君と手を繋いでいる。
重なる手のひらが、あったかい。
私は大地君の手をジッと見つめた。
大きくて、骨っぽいけど、暖かかった。
それがなんだか嬉しくて、胸がいっぱいになってしまった。
ポロッと涙がこぼれた。
さっきまで我慢していた苦しさが一瞬で消えていた。
笑いたかったのに、なぜか、雪解け水みたいに涙が一粒だけこぼれ落ちたので、慌てて袖でぬぐう。
「お前、気にするだろうけど、今なら恥ずかしがる必要ねぇよ」
大地君の言葉に、私はぽかんとする。
そうか、さっき見回したのは周りに誰もいないのを確かめていたんだ。
そんなことをぼんやりと頭の隅で考えていたら、そのまま引き寄せられた。
え? と思う間もなくつないだままの手は、仲良く彼のポケットの中に収まった。
ギュッと強く握られる。
「好きだ」
かすれるような声に見上げると、ツイッと大地君は視線を遠くに流した。
目を合わせてくれない。
だけど、横を向いたその耳は、真っ赤だった。
胸が、ドキドキした。
言葉にしてもらえると、やっぱりうれしい。
ちゃんと大地君の気持ちが側にあった。
私も好き。
声には出さずに、キュッと手を握りかえした。
告白はできたのに、なぜか胸がいっぱいで「好き」って言葉が出てこない。
今はまだ恥ずかしくて声に出せないけど、きっと大地君には伝わるはず。
きっときっと、優しい人だから、これだけでわかってくれる。
私の気持ちは、いつもあなたの側にあるの。
【 おわり 】
三月の初めはまだ冬の匂いがして、空気が冷たい。
この時期だと手袋は必要ない気がして家に置いてきたけど、今日はやっぱり持ってくればよかったと思うような寒さだった。
そんな冷えた空気の中、彼と一緒に校門を出た。
駅までは帰り道が一緒。
嬉しいな、なんて思いながら大地君の背中を追いかける。
ゆっくり歩いてくれているのに、いかんせん大地君は百八十センチを超える長身。
私はチビすぎないもんと言い張ってみるけど、百五十センチしかないからクラスで一番小さい。
なので、歩幅がどうしても違いすぎる。
必死で歩くのに横に並べず、どうしても彼の後ろになってしまう。
一生懸命小走りするけど、ついて行くだけでやっと。
肩を並べるなんて、どんなに頑張っても無理な相談。
大地君とは同級生だけど、一度も同じクラスになったことがない。
不器用でぶっきらぼうな彼は、それほど人好きするタイプでもない。
だけど、私は運動会の時に、あきれるほど簡単に恋に落ちた。
リレーの最中、混戦状態になって私は背中を強く押されてしまい、バトンを渡した直後に見事に転んでしまった。
捻挫してしまい、起きあがりたくても起き上がれなくて、ジタバタと倒れたままもがいてしまって。
恥かしさと情けなさで泣きそうになった時、サッと大地君が抱き上げて保健室に運んでくれた。
それだけだったのに。
見た目の恐そうな彼の意外な優しさや行動力が、頭の中から離れなくなった。
それに、意識するようになってから大地君の姿を目で追っていると、友達に相談もよく受けていて信頼されているのが分かる。
目で追って、観察しているうちに、ますます好きな気持が膨れ上がってしまって。
私は一大決心して、一歩踏み出した。
引っ込み思案で人見知りな私が、見るからに体育会系で無口な彼を呼び出して、告白するのはとても勇気が必要だった。
「別にいいけど」
そんな、ぶっきらぼうな返事をもらっただけで、泣きそうなぐらい嬉しかった。
付き合い始めて、私と大地君のでこぼこさ加減に気づいたけれど、それでもよかった。
だけと時々、不安になる。
好きなのは、私だけなんじゃないかって。
人見知りの私は主に聞き役専門で、話すのが苦手な大地君といると、おかしいぐらい会話がない。
横にいるだけで心がポカポカするぐらい穏やかな沈黙だから、私は気にならないけれど。
一緒に歩けるだけでも幸せだったけれど、大地君は見た目に似合わず優しい人だから、迷惑だって言えなくて「別にいいけど」って答えただけかもしれない。
それに、私は彼に好きになってもらえるところが、一つもない。
チビだし。どんくさいし。一生懸命やればやるほど、つまづく。
今も背中ばかり追いかけて、並んで歩くことすらできない。
じわ、と涙が浮かんでくる。
なんで私って、こうなんだろう?
情けなくって、泣きそうになった時。
大地君は不意に立ち止まった。
周りをチラッと見まわして、おもむろに手を出す。
「ほら」
私は差しのべられた大きな手を、ジッと見ることしかできない。
何を求められてるんだろう?
突然だったからどうすればいいのかわからなくて、頭の中が混戦状態だ。
オロオロする私に、チッと彼は舌打ちした。
「わかれって」
彼はグイッと私の手をつかんだ。
強引な感じだったけれど、今、間違いなく大地君と手を繋いでいる。
重なる手のひらが、あったかい。
私は大地君の手をジッと見つめた。
大きくて、骨っぽいけど、暖かかった。
それがなんだか嬉しくて、胸がいっぱいになってしまった。
ポロッと涙がこぼれた。
さっきまで我慢していた苦しさが一瞬で消えていた。
笑いたかったのに、なぜか、雪解け水みたいに涙が一粒だけこぼれ落ちたので、慌てて袖でぬぐう。
「お前、気にするだろうけど、今なら恥ずかしがる必要ねぇよ」
大地君の言葉に、私はぽかんとする。
そうか、さっき見回したのは周りに誰もいないのを確かめていたんだ。
そんなことをぼんやりと頭の隅で考えていたら、そのまま引き寄せられた。
え? と思う間もなくつないだままの手は、仲良く彼のポケットの中に収まった。
ギュッと強く握られる。
「好きだ」
かすれるような声に見上げると、ツイッと大地君は視線を遠くに流した。
目を合わせてくれない。
だけど、横を向いたその耳は、真っ赤だった。
胸が、ドキドキした。
言葉にしてもらえると、やっぱりうれしい。
ちゃんと大地君の気持ちが側にあった。
私も好き。
声には出さずに、キュッと手を握りかえした。
告白はできたのに、なぜか胸がいっぱいで「好き」って言葉が出てこない。
今はまだ恥ずかしくて声に出せないけど、きっと大地君には伝わるはず。
きっときっと、優しい人だから、これだけでわかってくれる。
私の気持ちは、いつもあなたの側にあるの。
【 おわり 】
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