3 / 3
おわり
しおりを挟む
祈りが届いたのだろうか。
月の、綺麗な夜だった。
天気も良かったので庭に石で竈を作り、網を置いて魚や野菜を焼いていた。
星空を見ながらの夕食は、子供たちも大好きなメニューのひとつなのだ。
食べごろなものを見計らって、子供たちの皿にポイポイと放り込んでいたら、不意に後ろから声が響いた。
「うまそうだな、俺も食っていいか?」
身を震わせるような衝撃に打たれて振り向くと、会いたくて会いたくてたまらなかったアイツがいた。
ずいぶんとくたびれた様子で、服も顔も汚れていたが、笑顔のキラキラ具合は数倍増している。
別れた時より背も伸びて、力強い腕になって、がっしりと戦い慣れた体つきだったけれど、そこにいるのは間違いなくあたしのウォーレンだった。
立ち上がって駆けだす前に、からかうようにアイツは子供たちを指さした。
「なんだ、浮気か?」
「そんな訳、あるかー!」
イラッとしたので小さな火球を投げつけると、片手を振って簡単に消したウォーレンはハハハと悪びれずに笑った。
なにもなかったように「お土産だ」と途中で捕まえたらしい野鳥を差し出してくるので、プイと横を向いて「ちゃんとさばいてお肉にして」と言えば、ハイハイとうなずかれた。
子供たちはキョトンとしていたけれど、あたしとウォーレンを見るその眼がなぜか生ぬるい。
「他の人たちは?」
「さぁ? そのうち帰ってくるだろ」
ウォーレン以外の姿がどこにもなかったので、もしかして魔王との戦闘で……と不安になって尋ねたら、ケガ人以外は帰路についているはずだと言った。
ウォーレンは魔王を倒してから、ほぼ不眠不休でこの村に向かって走っていたそうだ。
10年かかった距離を半年で走破するって、普通じゃない。
何様だよ、と思ったけれど、勇者さまだった。
祝賀会だのパレードだの、そういう面倒くさいものはすべて村長に丸投げして、とりあえずあたしからのハグが欲しかったと両手を広げるので、あきれながらその腕の中に飛び込んだ。
温かい腕に抱きしめられ、幸せをかみしめる。
そして、その胸を軽く叩いて腕を緩めてもらうと、右や左を向いて見ないふりをしている子供たちに手を伸ばした。
おいで、と言えば、おずおずと三人は近づいてくる。
距離感を測りかねて手が触れる寸前で立ち止まる子供たちを、ウォーレンとあたしは抱き上げた。
ダンとティナはウォーレンが、ルイはあたしが、抱き上げて身を寄せる。
一緒に暮らし始めたきっかけなんて、不幸な偶然だけど。
「あたしの大切な宝物を紹介するわ」
簡単に事情を説明する間も、ぎゅうっと抱きしめ合う、小さなぬくもりが愛しい。
キーラらしいと言いたげな、優しいウォーレンの眼差しも嬉しい。
胸がいっぱいで、なぜか泣きたくなった。
「おかえり、ウォーレン」
「ただいま」
ポロリとこぼれ落ちた涙を見ないふりして、長い抱擁に身をゆだねるあたしたちを、銀色の明るい月だけが見降ろしていた。
【 おわり 】
ありま氷炎様の「第八回月餅企画」になろうとノベルアップで参加しています。
ステキな企画をありがとうございますー!
テーマお題は「希望」という言葉を使うこと。
なろうさんや他サイトにもかかわる大きな企画ですから、ドキドキしています。
本当に締切りギリギリになってしまいましたが、楽しんでいただけると幸いです。
【容姿】
キーラ …… 赤毛の長髪 赤瞳。目鼻立ちのハッキリした気の強そうな顔立ち。
背丈は普通だけど、体形のメリハリもはっきりしている。
ウォーレン …… 金髪 緑目。背は高めで、骨格もしっかりしている。
黙っていれば凛々しいけど、キーラの前では温和。
月の、綺麗な夜だった。
天気も良かったので庭に石で竈を作り、網を置いて魚や野菜を焼いていた。
星空を見ながらの夕食は、子供たちも大好きなメニューのひとつなのだ。
食べごろなものを見計らって、子供たちの皿にポイポイと放り込んでいたら、不意に後ろから声が響いた。
「うまそうだな、俺も食っていいか?」
身を震わせるような衝撃に打たれて振り向くと、会いたくて会いたくてたまらなかったアイツがいた。
ずいぶんとくたびれた様子で、服も顔も汚れていたが、笑顔のキラキラ具合は数倍増している。
別れた時より背も伸びて、力強い腕になって、がっしりと戦い慣れた体つきだったけれど、そこにいるのは間違いなくあたしのウォーレンだった。
立ち上がって駆けだす前に、からかうようにアイツは子供たちを指さした。
「なんだ、浮気か?」
「そんな訳、あるかー!」
イラッとしたので小さな火球を投げつけると、片手を振って簡単に消したウォーレンはハハハと悪びれずに笑った。
なにもなかったように「お土産だ」と途中で捕まえたらしい野鳥を差し出してくるので、プイと横を向いて「ちゃんとさばいてお肉にして」と言えば、ハイハイとうなずかれた。
子供たちはキョトンとしていたけれど、あたしとウォーレンを見るその眼がなぜか生ぬるい。
「他の人たちは?」
「さぁ? そのうち帰ってくるだろ」
ウォーレン以外の姿がどこにもなかったので、もしかして魔王との戦闘で……と不安になって尋ねたら、ケガ人以外は帰路についているはずだと言った。
ウォーレンは魔王を倒してから、ほぼ不眠不休でこの村に向かって走っていたそうだ。
10年かかった距離を半年で走破するって、普通じゃない。
何様だよ、と思ったけれど、勇者さまだった。
祝賀会だのパレードだの、そういう面倒くさいものはすべて村長に丸投げして、とりあえずあたしからのハグが欲しかったと両手を広げるので、あきれながらその腕の中に飛び込んだ。
温かい腕に抱きしめられ、幸せをかみしめる。
そして、その胸を軽く叩いて腕を緩めてもらうと、右や左を向いて見ないふりをしている子供たちに手を伸ばした。
おいで、と言えば、おずおずと三人は近づいてくる。
距離感を測りかねて手が触れる寸前で立ち止まる子供たちを、ウォーレンとあたしは抱き上げた。
ダンとティナはウォーレンが、ルイはあたしが、抱き上げて身を寄せる。
一緒に暮らし始めたきっかけなんて、不幸な偶然だけど。
「あたしの大切な宝物を紹介するわ」
簡単に事情を説明する間も、ぎゅうっと抱きしめ合う、小さなぬくもりが愛しい。
キーラらしいと言いたげな、優しいウォーレンの眼差しも嬉しい。
胸がいっぱいで、なぜか泣きたくなった。
「おかえり、ウォーレン」
「ただいま」
ポロリとこぼれ落ちた涙を見ないふりして、長い抱擁に身をゆだねるあたしたちを、銀色の明るい月だけが見降ろしていた。
【 おわり 】
ありま氷炎様の「第八回月餅企画」になろうとノベルアップで参加しています。
ステキな企画をありがとうございますー!
テーマお題は「希望」という言葉を使うこと。
なろうさんや他サイトにもかかわる大きな企画ですから、ドキドキしています。
本当に締切りギリギリになってしまいましたが、楽しんでいただけると幸いです。
【容姿】
キーラ …… 赤毛の長髪 赤瞳。目鼻立ちのハッキリした気の強そうな顔立ち。
背丈は普通だけど、体形のメリハリもはっきりしている。
ウォーレン …… 金髪 緑目。背は高めで、骨格もしっかりしている。
黙っていれば凛々しいけど、キーラの前では温和。
0
お気に入りに追加
3
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる